第7話 ダンジョンへ
固蔵から、魔力定着の報酬として受け取った装備一式。もちろん、そのすべてに魔力定着を施してある。
レベル1でこの状態なら、おそらくレベルが上がれば、さらに多くの魔力を定着させられるだろう。
その練習用として、固蔵はパチンコ玉ほどの金属球もくれた。
「暇なときに、これで魔力定着を繰り返せ」と言われたのだ。
これは絶対、スキルレベルが上がったら新しい金属にもやらされるな。
……まあ、スキルの練習になるし、俺の装備の性質上、国綱さんとは仲良くしておく必要があるから良いけどね。
予想通りまた来る約束までさせられてから、プレハブ小屋を後にした。
脇道を抜けて討伐者組合の庁舎へ向かう――役所のような建物がそびえている。
登録はここで行う。
……と思ったら、隣を見れば当然のように焔姉さんが並んで歩いていた。
「え、ちょ……なんでついてくるの?」
「何でって……心配だからに決まってるでしょ」
「いや、登録くらい一人で行けるし……」
そう言っても、焔姉さんは引く気配がない。
結局、「登録は一人で行くけど、ダンジョンは一緒に行くから」と、妙に強い口調で宣言された。
(一緒に行って「もう大丈夫」って納得してもらったほう姉さんも安心できる
し、俺も気兼ねなく行動できるか)
そう考えて、ダンジョンへ一緒に入ることに納得し、俺は一人庁舎の中へ入った。
時間帯のせいか、ほかに見た目からして討伐者と分かる人はほとんどいなかった。
入口近くの発券機から整理券を取り、順番を待つ。
ベンチに腰掛けながら、俺は魔力感知レベル0をセットし、周囲の魔力の流れを探る。
同時に、魔力操作で体内の魔力を隅々まで巡らせ、手の中のパチンコ玉に魔力を定着させ続けた。
スキル成長率にハンデがある以上、とにかく鍛錬を積み重ねなければならない。
周りに追いつくどころか、油断すればあっという間に置いていかれてしまうのだから。
そうして集中していると、掲示板に俺の整理番号が表示された。
立ち上がり、受付のカウンターへ向かう。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「登録をお願いします」
「登録ですか?」
「はい、登録です」
受付の人は少し驚いたように目を丸くし、それから慌てて姿勢を正した。
「失礼しました。ただいま登録用のデバイスをご用意いたします」
そう言って奥から小型の黒い端末を持ってきて、使い方を丁寧に説明し始めた。
この機械は、ステータスやスキルといった個人情報を自動で読み込み、必要な部分だけを登録システムに送る仕組みらしい。受付の人間が直接データに触れることはできない。
俺はスマホを登録用デバイスとブルートゥースで接続し、画面の指示に従って操作を進めた。
――討伐者ランク:F。
予想通りの最低ランクだ。
画面には、対応するFランクダンジョンのリストが表示され、攻略用アプリのインストール画面に切り替わった。
「これで登録完了です。お気をつけて」
軽く会釈をして、俺はその場を後にした。
登録を終えて庁舎を出ると、焔姉さんがベンチに腰掛けて待っていた。
「どうだった?」
「問題なし。ちゃんと登録できた」
「そ。ならよかった」
焔姉さんがほっとしたように微笑む。
そのまま、今日向かうダンジョンをどうするかの話になった。
「私はゴブリン系のダンジョンを勧めるわ。近接戦闘の経験値になるし、刀術スキルの成長にもつながる。昨日の動きなら相性も悪くないはずよ」
「うーん……俺はスライムのダンジョンに行きたい」
焔姉さんの眉がぴくりと動く。
「スライム? あんた……あれはFランクで最弱って言われてるけど、数が多いし、物理攻撃が効きにくいのよ。ソロで行くには危険すぎるし、魔法スキルのないあんたには向いてない」
「だからこそだよ。俺の強みは、あらゆるスキルを取得できる可能性があること。つまり、目指すべきは特化タイプじゃなく、複数のスキルを複合的に使う万能タイプだ。そのためには、魔法系スキルも取得することがベストだと考えてる。スライム相手なら今持ってるスキルの習熟にも使えるし、何より数が多いから、スキルの練習相手としては最適なんだ」
焔姉さんは腕を組み、しばらく俺をじっと見つめる。
その視線には「無茶をするな」という強い意思が込められていた。
「……そういうことなら、反対はしないけど……私の判断でに従って引くときは引くこと。いいわね?」
「分かってる」
目的地近くの路地を抜けると、空き家のような古びた二階建ての家が目に入った。
ちょうど扉が開き、中から三人組のパーティーが姿を現した。
タンク役と思しきがっしりした男子、その後ろにローブ姿の魔法系男子、さらに軽装の女子が続く。
彼らは出口の光に目を細めながら外に出てきたが──ふと、先頭の男子がこちらを見て固まった。
「あ、あの! もしかして……竜炎の焔副長ですか!」
焔姉さんが「あら」と小さく笑う間もなく、タンク男子は完全にコメディ調のテンションへ移行した。
「うおおおお! 本物だ! マジで本物だあああ!」
どこから取り出したのか分からないが、色紙とペンを両手で差し出し、勢いよく頭を下げてくる。
その後ろから、真面目そうなメガネの男が眉をひそめて近づく。
「副長、こんなところに……。精鋭部隊“竜炎”がFランクダンジョンとは、珍しいですね」
最後に、腕を組んで首を傾げる長身の女性が一言。
「焔副長って誰?」
場が一瞬静まり返る。
「おまえ……知らないのか!? 竜炎副隊長、焔さんだぞ!」
「有名なんだ?」
「有名だわ!」
俺は少し後ろで成り行きを見ていたが、やがて視線がこちらに集まる。
「で、そっちの男は……?」
コメディ系の男が俺を値踏みするように見てくる。
「……私の弟」
焔姉さんの一言で、コメディ男の顔色が変わった。
「な、なんだと……! 弟……!?」
妙な嫉妬のこもった視線を浴びせられ、俺は肩をすくめた。
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