時を隔てた運命の物語に引き込まれます

「誰にでも、忘れられない異性が一人はいるだろう」という力強い一文から、主人公の抗えない運命と波乱の人生が静かに語られます。

物語の魅力は、14年の服役から出所し「浦島太郎」状態の主人公を通して描かれる平成の風景と、映画製作に熱中した学生時代(昭和)の回想が交互に展開される構成です。PHSやレンタルビデオに戸惑う姿は、14年間の空白の重みを感じさせます。

過去の回想では、映画監督を目指した情熱的な日々や、直子との運命的な出会いが描かれます。直子は主人公にとって「天使のよう」な存在であり、彼女への想いが物語全体を支配しています。

一方で、主人公は14年前に犯したカメラマン殺害という重い罪を背負っています。出所後の墓参りや、『ゴッドファーザーⅢ』鑑賞中に襲われるフラッシュバックは、罪の意識と心境の変化を深く描き出します。
特に「直子を奪われたこと、大切にしてきた直子を傷つけられたことが許せなかったのか」という自問は、殺人事件の動機と直子の存在が深く結びついていることを示唆しています。

ノブヤンら友人たちの「まっとうな」生き方を見せつけられながら、主人公が自身の過去と向き合い、今後どう生きていくのか。そして、直子との間に何があり、二人の関係がなぜ「終わった」のか。映画的なカットバックで展開される、愛と罪の物語に引き込まれます。

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