第28話 いたずらじいさん


 リディオが会場やしきの廊下を歩いているとセドリックが近寄ってきた。


「なにをしているので?」

「ほわ~? 用を足しにいくだけじゃが? 一緒にするか?」

「せんッ……ではなく、とぼけないでください。大事な孫を紹介したでしょう……」


「いやのぉ。さすがに用を足すのに連れて行くのはまずいじゃろうて」

「……預ける相手ならいくらでもいたはずでは?」

「え~みんな忙しそうじゃったしな~」

「そんな事を気にするたまか……」


「それで~? なにか聞きたいのかなぁセドリック君?」

「っ。試合中……どこにも居なかった気がしましたが。いったいどちらに?」

「覚えてないの~。道端みちばたくさを食べてたような気もするし」

「……」


「魔具で遊んだ気もするのぉ」

「やはりッあの魔具をッ。なにに使ったのでっ?」

「おぉ思い出した思い出したッ。ワシも試していたんじゃよ」


 そこでセドリックは次の回答に期待した。リディオが重要な事を喋ろうとしていることを感じ取ったからだ。


「ッ……た、試す? なにを……ですか?」


「ワシもあの小僧のように的に投げて当てられるかをのぉ。ほれ若い頃の投擲を思い出してのぉ~。びゅぅーって!!」

「じじぃ……っ」

「じゃのーセドリックくぅん。がっはっはっはっは」


(ただ真面目なだけではあやつの真価を測かれんぞセドリックよ)


 リディオはもの凄い腹立つ笑みとともにパーティー会場に戻って行った。取り残されたセドリックは廊下で思考を巡らせていた。


(アルフレット……まさか、あのリディオ卿が気に入るほどのなにかがあるのか……

しかしっ……どこを気に入った……彼になにを見た……?)



――――翌日



 無作為に選ばれた数人でチームを組み狩猟をおこなう。これは緊急時に共闘する訓練に近いかもしれない。


 狩猟まではまだ時間があるのでその前に朝食を食べ、休憩していた時のことだ。遠くから気品に溢れる男が近寄る。親父がそれに気が付くと近寄る。


「セドリック卿。今日も晴天に恵まれましたね。楽しみですな」

「そうだな……」


 どこかソワソワとしている。するとこっちを見た。


「お、この子がアルフレットか」

「ええ、先日の試合ではお恥ずかしいところを」

「いやいや。急な企画だったが、おかげで一回戦目から盛り上がっていた」

「そう言って頂けると有難いですね」


 昨日の夜会でもその話題を出したらしく。実際に会いたいと言ったそうだ。


(あのじいさんのせいじゃないだろうな……)


「どうだ、少し稽古をしてみないか?」

「セドリック卿がですか!!?」


 親父が驚いていた。そこで俺は淡々と言う。


「グラート兄様とフォル兄様。ステラ姉様にエル姉様。どちらでもお好きなのをお選びください」

「……いや。アルフレットと稽古を」


 エル姉ががっくりと肩を落とした。親父が動揺する。理解が追い付かないらしい。


「え、いえ。しかしっ。アルフレットは戦いが苦手で……っ」


(この動揺の仕方。ラウロはなにかを隠しているわけではないな……やはり勘違いか? いやッ。このままではあのじじいの思うつぼ!!)


「まあまあ。たまにはいいじゃないか。狩猟前で少し緊張してな。気分転換だ」

「は、はぁ。そういうことならば」


「お父様っ。僕にお任せてください!!」

「アルフレット。大丈夫なのか……」

「もちろん!!」


 俺は木剣を手にセドリック卿と向かい合う。


「本気でも大丈夫ですよ伯爵様!! 少しでも手を抜けば敗北するかもしれませんよ!!」

(カールの人格憑依&改善!!)


 カールの事を思い出しながら子供を演じる。


「ははは。そうかそうか。頼もしいな!!」

(まさか。実は強いのか!! 父親に良いところを見せようと。ついに本気を出すのか!!!?)


 セドリック卿は期待を胸に試しに一撃を放つ。それにクリティカルヒットすると俺は大袈裟に吹き飛んだ。さらにゴロゴロと転がり地面に伏した。


 これは自信あることをアピールし、相手にそこそこの力を入れされる。そしてその力を利用して盛大に吹っ飛ぶ完璧な作戦だ。


「「アルフレェェェェェット!!!!」」


(なにぃぃぃぃぃぃ!!!!)

「はっ!! す、すまないッ。力を入れ過ぎた!!」


 我に返り慌てて駆け寄るセドリック。そして、信頼と安心のバーナードが治療をする。あえて魔法の盾シールドは使っていない。芝居をしていないのでバレる確率は低い。探りたいなら最低でもバーナードがいないところでするべきである。致命傷ならバーナードが割り込んでくるのだから防御などもとより不要。


 伯爵様は親父に謝っていた。


(あ、危ない……危うくラウロの子を殺すところだった……)


 いつのまにかセドリックの背後にいたリディオが腹を抱えてひぃーひぃーと笑っていた。俺は角度的にその様子がしっかりと見えた。


(なに笑ってんだあのじぃさん!! 絶対あんたのせいだろ!!)


 一方、セドリックも背中越しで大笑いしているリディオを感じているようだ。振り向かずともどうなっているのか分かっているほどの仲らしい。


(じじぃ……ッまさかだま……いや……まだだ。実は魔法の方が得意なのかもしれん……)


 その時、俺はとんでもないものを見た。


(……ん? セ、セドリック卿がっ。あまりの怒りで自分の子供に見せられない顔になってるぅぅぅ!!)


「すまなかったなアルフレット……」


(あのじいさんに苦労させられているのか。分かります。腹立ちますよね…………でも言わないけどねぇぇ!!)

「いえ、大丈夫です。僕もまさかこうなるとは。自信があったんですけどね……はぁ~」


「大丈夫だ。失敗は誰にでもある。切り替えていこう」


 まるで自分に言い聞かせているように言った。強い瞳に戻ると伯爵はさらに続ける。


「こんなこともあろうかと魔具を持ってきた。全属性の初級と下級魔法が使える。試してみるか?」

「いいんですか!!」


(おっ。食いついた!! 魔法に興味があるんだな!!)

「もちろんだとも!!」


 セドリックは選ぶのをジッと見ていた。そして、土の下級魔法、風の下級魔法が使える魔具を選んだ。


(土と風。二つの下級魔法がいけるのか!!)

「アルフレット。君はなぜそれを選んだんだい?」


「……分かりません。でも体が勝手に。もしかしたら……なにかに導かれたんだと思います……」


(なんと!! さあ、見せてみろ。お前の本当の力を!!)


 俺はその二つでお手玉をした。結構早いお手玉さばきだ。二つというのがミソだ。三つでは「おおー」となるが二つだと「うんうん」となる。子供ならではの絶妙な芸。


 最初は期待してたのと違ったという驚いた顔だったが、一応なにかあるかもしれないと思ったのか集中し、俺の方をジッと見ていた。しかし、特になにも起こらなかった。


「…………」

「ありがとうございました。伯爵様。おかげさまで自信が取り戻せました!!!」


「お、おう。そうか……それは良かった……」

(なんの自信?)


 今度は地面を何度なんども叩いて笑っているリディオが見えた。


(だからなに笑ってんだァァ!!! 覚えてろよあのじいさん!!)


 セドリックは振り向かずともそれに気が付いていた。そしてぷるぷると震える伯爵様。


(……まさか。また俺をからかったのかッ。あのじじぃ!!! 昨日の意味深な会話も全部俺をからかうための策略かぁぁぁ。だが孫娘を使ってまで、普通そこまでやるかァッ……いやあるぞ!! あのじじいなら絶対にやる!! 俺はまた騙されたのかッ!!!)


 こうして緊張のほぐれたセドリックや貴族たちは狩猟。つまり魔物退治に出かけた。グラート兄様やフォル兄、ステラ姉など戦いに参加できる者は基本出かける。子供たちは問答無用でお留守番である。



――――




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