第30話 蒼月の取引

 陽は緊張しながらも、蒼月をリビングに招き入れた。

「境界委員会の精鋭メンバーが揃っているようだな」蒼月は落ち着いた声で言った。「話がしやすくなった」


 零が立ち上がり、身構えるような姿勢を取った。

「何の用だ?」

「君たちに真実を伝えるためだ」蒼月は静かに言った。「『影帝』に会ったようだな。彼は君に何を語った? 高城理人が『影帝』だったのだろう?」

 陽は黙って彼を見つめていた。言葉の一つ一つを「真実顕現」で確かめながら。


「残念ながら、それは半分は真実で、半分は嘘だ」蒼月は続けた。「確かに高城理人は『影帝』として活動している。だが、彼は真の目的を秘している」

「どういう意味ですか?」葵が声を震わせて尋ねた。

「高城理人は最初、評議会の不正に気づき、正義感から反抗しようとした。だが、『真偽操作』の力を長く使ううちに、彼自身が力に依存するようになった。境界結晶の魔力に取り憑かれたのだ」

 陽は蒼月の言葉の周りに赤い霧を見た。これは嘘だ。


「父さんはそんな人じゃない」陽はきっぱりと言った。

「信じたくないだろう」蒼月は同情するように言った。「だが、彼は7年間も君に会おうとしなかった。それには理由があるのだよ。そう、彼は君の『真実顕現』の力を恐れていた――自分の嘘が見抜かれることを」

 陽は眉をひそめた。蒼月の言葉は巧妙だった。真実と嘘が混ざり合っている。


「評議会の『永久境界』計画について、彼は何と言ったかね?」蒼月が尋ねた。

「2つの世界を統合して支配するための計画だと」奏が答えた。

「そう思わせたいのだろうな」蒼月は深い溜息をついた。「『永久境界』は確かに2つの世界を統合する。だが、それは支配のためではない。救済のためだ」

「救済?」

「そう。境界は長年にわたって不安定化している。このままでは2つの世界は完全に分離し、やがて片方、あるいは両方が崩壊する。それを防ぐために『永久境界』が必要なのだ」


 陽は蒼月の言葉を注意深く聞いていた。その中には真実と嘘が混在していた。境界が不安定化しているという部分は青く見えた。真実らしい。だが、救済のためという部分は赤かった。

「境界結晶の抽出は?」陽が尋ねた。「若者から強制的に力を奪うのも救済のため?」

「残念だが、それは必要悪だ。長老たちの経験と知恵がなければ、『永久境界』は安定しない。そのために少数の犠牲は必要なのだ」


「何が言いたいんですか?」葵が直接的に尋ねた。

「真実を知ってほしいだけだ。そして可能なら、『影帝』に騙されず、評議会に協力してほしい。特に君、高城陽—君の『真実顕現』の力は『永久境界』の安定に不可欠なのだ」

「あなたは父を捕まえようとしている」陽はゆっくりと言った。「そして、僕の力を使って『永久境界』を完成させようとしている」


 蒼月の表情が変わった。

「君の力は予想以上だな」蒼月は認めた。「確かに、高城理人は危険な存在だ。彼を止める必要がある。そして君の力は『永久境界』に不可欠だ」

 彼は立ち上がり、陽に向かって手を差し伸べた。

「共に来てほしい。私が全てを説明しよう」

「僕は父を信じます」陽はきっぱりと言った。「あなたはこれ以上、僕たちを惑わせることはできない」


 蒼月の表情が暗くなった。

「残念だ。力ずくでも連れて行かなければならないようだ」

 彼が杖を上げた瞬間、零が素早く動いた。彼の「空間分断」が発動し、蒼月との間に透明な壁が形成された。

「触らせない」

 蒼月は4人を見回し、そして小さく笑った。

「君たちの絆は強い。だが、時間は私の味方だ。『永久境界』の準備は着々と進んでいる。3日後、全ては終わる」

 彼は杖を床に突き、蒼い光が広がった。次の瞬間、彼の姿は透明になり、消えた。

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