第26話 覚醒、共鳴増幅

 長老たちが部屋を去った後、4人は急いで「永久の間」を後にした。奏はまだ震えが止まらず、零が彼女を支えるように歩いていた。

「落ち着け」

 零が優しく声をかけた。

「俺たちが守る」


「でも、どうして私なの?」奏の声は震えていた。

「『共鳴増幅』という能力は、稀少だからだ」零は説明した。「他の境界力を増強できる力は、評議会にとって非常に価値がある」

「それに」葵が付け加えた。「あなたの力はまだ完全に目覚めていない。それが彼らには都合がいいのよ。覚醒前の境界力は抽出しやすいから」


「これから、どうすればいいの?」

 奏が不安げに尋ねた。

「まず父さんが残してくれた物に手がかりがないか確認してみよう」

 陽は決意を込めて言った。


 陽の家に戻った4人は、陽の部屋に集まった。陽は父からの手紙――17歳の誕生日に母から渡された封筒――を取り出した。

「これまで何度も読んだけど、何か引っかかるんだ」

「これって何かの暗号なんじゃないのか?」零が紙を覗き込んだ。

「待って」葵が突然言った。「陽の『真実顕現』の力で見てみたら?」


 陽は「真実顕現」を発動させた。すると、紙に書かれた文字とは別の文字が青く光り始めた。

「これは……特定の文字だけが真実として認識されている」

 彼は光る記号だけを順番に拾い上げ、ノートに書き写した。そこに現れたのは――。


『陽へ

 この手紙を読んでいるということは、君の『真実顕現』が目覚めたということだ。おめでとう。そして、申し訳ない。

 私が姿を消したのは、評議会の恐ろしい計画を阻止するためだ。彼らは境界結晶を使って『永久境界』を実現しようとしている。それは2つの世界を統合し、支配するための計画だ。

 旧研究棟の地下3階、私の研究室の床下に、重要な資料を隠した。そこには『永久境界』を阻止する方法が記されている。

 気をつけろ。評議会、特に蒼月は君を狙っている。君の『真実顕現』は彼らの計画に不可欠であるとともに、それを脅かす存在だからだ。

 いつか必ず会おう。真実を見る力を信じれば、きっと会える。

 父より』


「旧研究棟の地下3階……」零が呟いた。「そこに行かなければ」

「でも、あの建物は今、評議会の監視が厳しくなっているわ」葵が指摘した。

「カイトの助けがあれば……」陽は言った。「彼の『位相転移』なら、気づかれずに潜入できるかも」


 その時、奏がかすかに呻いた。

「大丈夫?」

「頭が……痛い」

 奏の額に汗が浮かんでいた。彼女の周りの空気が歪み始め、オレンジ色の光が彼女の体から漏れ出している。


「これは」葵が驚いた表情で声を上げた。

「境界力の覚醒が始まったんだわ!」

「今!?」零が焦った様子で奏に近づいた。「覚醒するにはまだ早すぎる。奏の体が持たない」

「評議会の儀式の影響かもしれない」零が声を低くして言った。「『永久の間』の結界に触れたことで、奏の中の力が刺激されたんだ」


 奏の呻き声が大きくなり、彼女の周りのオレンジ色の光が強まった。

「誰か、助けて……」彼女は涙ながらに懇願した。

 陽は迷わず奏の手を取った。

「僕の『真実顕現』で、本来あるべき力の姿を見せてみる」

 葵も奏のもう片方の手を取った。

「私の『記憶閲覧』で、力が安定していた過去の状態を呼び起こすわ」

 零も加わり、彼の「空間分断」で奏の周りの空間を制御し、暴走するエネルギーを封じ込めようとした。


 3人の力が1つになり、奏の周りの光が徐々に安定していった。彼女の苦悶の表情がやわらぎ、呼吸が整っていく。

「ありがとう、みんな」

 奏は疲れ切った声で言った。彼女は「共鳴増幅」の力に目覚め、制御できるようになったのだ。


「予想外だったな」零が額の汗を拭いながら言った。

「でも、これは有利になるかもよ」葵が思案顔で言った。「奏の力が目覚めたことで、彼女は境界結晶の抽出対象としては価値が下がる。評議会は覚醒前の力を好むから」

「それだけじゃないわ」奏が弱々しくも嬉しそうに言った。「私、感じたの。みんなの力を増幅できるって」


「これは……大きな武器になるかもしれない」零が珍しく興奮した様子で言った。

 窓の外では、夜が明けようとしていた。

「明日から本格的に……」陽は決意を込めて言った。「父さんの残した手がかりを探そう。そして、評議会の『永久境界』計画を阻止するんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る