第8話 精鋭、鷹野零
「真実顕現は認識型の境界力で、情報収集に優れている」
森下教授は続けた。
「敵の嘘を見破り、隠された動機を見抜ける。正しく鍛錬すれば、幻術さえ打ち破れるようになる」
凛子が部屋に入ってきた。彼女の周りの色は紫と青が混ざっていた。
「結果を聞いたわ」彼女は陽を見つめた。
「高城くん、あなたを境界委員会の候補生として迎えたい」
「候補生?」
「正式なメンバーになる前の訓練期間よ」
凛子は説明した。
「桐生が指導役となって、基本的な境界力の使い方を教える。そして準備ができたら、実際の任務に参加してもらう」
「任務って……侵食者との戦いのことですか?」
凛子は頷いた。
「侵食点の封印が主な任務。境界の揺らぎが臨界点を超えると侵食点となり、現実世界に異常現象を引き起こす。それを防ぐのが私たちの役目」
陽は考え込んだ。昨日までの平凡な高校生活が、突然非日常的な戦いの渦中に放り込まれようとしている。しかし、ここには父の足跡があり、失踪の謎を解く鍵があるかもしれない。
「わかりました」
陽は決意を固めた。
「やります」
凛子は満足げに頷いた。
「歓迎するわ、高城陽」
その瞬間、部屋に緊張が走った。扉が勢いよく開き、1人の男子生徒が入ってきた。
銀灰色の短髪に鋭い灰色の瞳。整った顔立ちと鍛えられた体格の彼は、左耳に小さなシルバーピアスをつけていた。陽と同じ年齢に見えたが、その佇まいには威厳があった。
「委員長」彼は凛子に向かって言った。
「新しい素質者の話を聞いて来たんだが……」
彼の視線が陽に向けられた。その目には明らかな敵意が感じられた。陽の新しい視覚では、彼の周りに鋭い青と紫の渦が見えた。
「
「境界委員会の精鋭メンバーよ」
零は陽に近づき、じっと見つめた。
「高城理人の息子か」
「ああ」陽は動揺しながらも答えた。
「期待しない方がいいな」零の声は冷たかった。
「素質があるからといって、すぐに役に立つわけじゃない。むしろ足手まといになる」
「鷹野」葵が制止するように言った。
「彼は今日初めて境界力に目覚めたばかりよ」
「だからこそ言っておく」
零は陽から目を離さなかった。
「この世界は甘くない。特に今は……侵食者の活動が活発化している時だ」
陽は目を逸らさず、零と視線を合わせた。
「足手まといにはならないよ。僕には知りたいことがある。父さんについて……そして侵食者について」
零の表情が微妙に変化した。
「……面白い。では証明してみろ」
「証明?」
「明日、実地訓練を行う」零は宣言した。
「そこで君の実力を見せてもらおう」
凛子が割って入った。
「鷹野、それは早すぎるわ。彼はまだ基礎も学んでいない」
「侵食者は待ってくれないよ」零は肩をすくめた。「それに、彼が本当に高城理人の息子で素質者なら、即戦力になるはずだ」
そう言い残し、零は部屋を出て行った。
「気にしないで」葵が陽に言った。
「彼は誰に対しても最初はあんな調子よ」
「なぜ僕に敵意を?」
「多分、君のお父さんのせいだろうね」
森下教授が答えた。
「零の両親は7年前、事故で亡くなった。ちょうど君のお父さんが失踪した時期と重なる」
「何か関係が?」
「直接の関係はない」凛子が素早く否定した。
「ただ、彼は高城理人の研究について独自の見解を持っているの」
陽は不思議に思ったが、これ以上は追及しなかった。今はまず、新しい力と環境に適応することが先決だった。
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