第9話 14番目の月
「花火計画」
「線香花火やりたいなぁ」
「また、地味だね」
「詩人!!」
天使ちゃんにキッと睨まれて大人しくなる。
「僕はねずみ花火が好きだな。男のロマンだよね」
うさぎ王子が目をキラキラさせて、あたしはげんなりした顔をする。
「じゃあ、みんなで花火しよ!」
天使ちゃんが立ち上がって大きな声で言う。
「花火を買いに」
「天気もいいし、決行は今日の夜ね!」
天使ちゃんが腰に手を当てて言う。
「花火は各自で持ち寄り?」
あたしが聞くと天使ちゃんは小首をかしげて少し考える。
「今からみんなで買いに行こう!」
みんなで雑貨屋に行くことになった。
雑貨屋には色とりどりの花火が並んでいてワクワクする。
「花火、いろいろ」
「蛇玉、面白いなぁ」
静かに煙を上げてにょろにょろする蛇玉をしゃがんで見つめる。うさぎ王子と吟遊詩人はロケット花火に火をつけてどこまで飛ぶか競っている。
「苺姫、一緒に手持ち花火やろ?」
天使ちゃんに声をかけられて、いろいろな種類の手持ち花火から一つを選んで蠟燭から火を移す。
「夜はこれから」
買ってきた花火をやり尽くして、残るは線香花火だけになった。
「なんだか線香花火って寂しくなるよね」
うさぎ王子がぽつりと呟いた。
「賑やかだったから余計そう感じますわ」
吟遊詩人がしみじみと言う。
「まだ終わってないじぇ。誰が最後まで残るか競争ね!」
あたしはくすりと笑った。
「天使ちゃん宅にて」
今日は天使ちゃんに呼ばれて、天界の天使ちゃんの家に来ている。
「で、何をするの?」
「吟遊詩人たちに何かあげたくて」
こういうところがみんなに愛されるゆえんなんだよな。
「吟遊詩人なら天使ちゃんお手製なら何でも嬉しいと思うよ?うさぎ王子も喜ぶと思うけど」
うさぎ王子がおまけで不憫。
「秘密の贈り物の相談」
「吟遊詩人はカップかな?でも王子は何がいいのかわからんゆえ困ってる」
「実用的なところで万年筆とか?」
「さすが苺姫」
嬉しそうに天使ちゃんが微笑む。さっそく買いに行く流れになるかと思ったら、今日は違った。
「せっかく来てくれたんだし、うちでお茶しよ」
明日は洗濯しない方がいいかも?
「迷子」
天使ちゃんと天界にある街に買い物に行く。実は展開にある街に行くのは初めてなのでちょっと緊張している。
「わぁ、見たことのないものがいっぱいあるね」
「そうかな?普通だと思うけど」
天使ちゃんは見慣れてるだけだと思うけど。
珍しくてきょろきょろしていたら、天使ちゃんとはぐれた。
「いるはずのない人」
さっきまで隣にいたはずの天使ちゃんがいなくて、迷子になったことに気づく。
「あー。はぐれちゃったな」
困ったな、と思いつつ辺りをきょろきょろしていると、懐かしい人影が。こんなところにいるはずがないのに、もう二度と会えないと思っていたのに…。
「あの…黒い羽のお兄さん?」
「え?」
「他人の空似」
振り向いたその人は全くの別人だった。座っていたからわからなかったけど、驚いて立ち上がった人は背の高い少しがっちりした人だった。雰囲気がびっくりするぐらい似てたからあの人だと思ってびっくりして、涙が溢れ出す。
「あ、すみません。人違いでした」
少し涙声になりつつも必死で謝罪した。
「声をかけてきたのは悪魔っぽい彼女と…」
泣きだすあたしとおろおろとしている青年はちょっと周囲の視線を集めてしまったようで。
「どうしたずら?」
「あら、どうしたの?どこか痛いの?」
カップルと思われる二人組が立ち止まって、声をかけててきた。恥ずかしい、あと申し訳ない。
「すみません、大丈夫です」
二人組に謝罪する。
「深々と…」
とりあえず気合で涙を止める。改めて三人に深々と頭を下げる。
「ほんっとーにごめんなさい、すみませんでした!!」
「いいのいいの」
そう言って朗らかに笑う角が悪魔っぽい女性。なんかかっこいい。
「そして、あの人違いした上に泣き出してごめんなさい」
青年にも深々と頭を下げ謝罪する。
「人だかりと天使ちゃんと」
気が付けばちょっとした人だかりができていて、騒ぎに天使ちゃんが迷子のあたしを見つけて駆け寄ってきた。
「苺姫、こんなところにいたの?って…誰だ、私の苺姫を泣かせたやつは!!」
顔色を変えた天使ちゃんが3人詰め寄るのをあたしが慌てて止める。
「違うの、この人たちは何も悪くないから!」
「意味ありげに笑う天使」
3人に今にも掴みかからんばかりで詰め寄る天使ちゃんを何とか宥めて、簡単に事情を説明する。
「確かに彼、あの人に少し雰囲気似てるね」
そう言って上から下まで舐めるに眺める天使ちゃん。失礼だから。
「ほんとに失礼しました」
改めて青年に深々と頭を下げる。
意味ありげに何故笑う、天使ちゃん。
「コミュ力おばけ」
謎のコミュ力で天使ちゃんはあっという間に3人の連絡先をゲットしていた。
「またねー」
にっこにこで3人に手を振る天使ちゃん。あたしはぺこりと頭を下げた。
「ごめんね、じゃあいこ!」
天使ちゃんに手を引かれ当初の目的を達成するべく移動する。物怖じしない天使ちゃんはあたしの憧れ。
「黒い羽の青年」
黒い羽の青年とほとんど目線が変わらなくて、線は細いけど優しく、だけど意志の強い瞳をしていた。
とても穏やかで、だけど正義感の人一倍強い人だった。
何故、彼の羽が黒く染まってしまったのかはわからないままだけど。
どこかで幸せに暮らしていて欲しいと願い続けてる。
二度と逢えなくても。
「のんびりしたい」
カーテンを開けると重たい雲がどこまでも広がっている。
今日は雨が降りそうだし、パジャマのままだらだらとすることに決める。
「天使ちゃんに邪魔されないといいなぁ」
カーテンをぎゅっと握って呟く。こんな時狙ったかのように来るのが天使ちゃんなのだ。
「たまには一人でだらだらしたいなぁ」
「そうは問屋が卸さない」
朝ごはんを食べて、ベットの上でぬいぐるみを抱えてゴロゴロする。
「ああ…何にもない日はなんて幸せなんだろう」
目を閉じて雨音に耳を澄ませて恍惚の笑みを浮かべる。
誰にも邪魔されない、のんびりとした日もたまには悪くない。
そう思い、うとうとしているとドアを勢い良く開ける音で飛び起きる。
「着替え」
飛び起きて玄関に向かうと満面の笑みの天使ちゃんが立っていた。
「こ…こんにちは。今日はどうしたの?」
「雨の日には雨の日にしかできないことしようと思って。まだパジャマなの?早く着替えて!」
そう言われて慌てて着替えをするけど、ダメだしされて天使ちゃんの好みの服に着替え直した。
「虹がかかる空」
傘をくるくる回しながら、水たまりをざぶざぶと楽しそうに歩く天使ちゃんをぼんやりと眺めている。
「苺姫、見て虹!!」
言われて天使ちゃんが指をさすほうを見たら空に綺麗な虹がかかっていた。
「きれいだねぇ」
「雨の日ならではだね!ふんふんふーん」
嬉しそうに水たまりを蹴り上げた。
「14番目の月」
箒で夜空を漂う。ほんの少しだけ冷たさを感じる夜風に吹かれながら、ぼんやりと真ん丸お月様を見つめる。
「14番目の月より三日月が好きだなぁ」
そんな曲もあったなぁなんて思いながら月を見つめる。
こんな感傷的な夜も悪くない。
帰ったら温かいお風呂に入って、ココアを飲んでそして静かに寝よう。
「新しいパン屋さん」
買い出しに街まで来たら、新しいパン屋さんができていたので覗いてみる。
優しそうな店長さんと店員さんがニコニコしながらパンを並べていた。
「いらっしゃいませ」
かわいらしい店内にはおいしそうなパンが所狭しと並んでいてどれにしようか悩んでしまう。店員さんがニコニコと見つめていた。
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