羊のいけにえ
かんぽうやく
1
「何してんの」
その一声で、床に転がる
「はあ?」
「っだよ、うぜーな」
男子たちは、苛々と背後を振り返った。目線の先にいた生徒は、セーラー服を着ている。
「かんけーねーだろ、えらそーなツラすんじゃねーよ」
男子の一人は真新しい学ランに身を包み、変声期も遠い甲高いままの声で、懸命に脅し文句を口にする。その他の男子はむくれて地面を見ているだけだ。
「…」
彼女は無言で天井の隅を指さした。小さく黒光りする目が、じっとこちらを見つめている。
「は?!」
「事前説明を聞いてなかったんだね、先生に聞けば、ログの確認は―」
「う、わああ!」
「ふざけんなクソが!」
男子たちは奇声を上げながら、廊下へ飛び出した。先生に話をすれば、記録をなんとかしてもらえるかもしれないと。
「撮られたら困るようなことするなって」
「…」
「…、キミ、大丈夫?」
草壁は起き上がる隙を見失い続けていた。蹴られた痛みも治まってきたし、もうそろそろいいだろう。そう思った矢先、優しく声をかけられて再度固まってしまった。ぎこちなく喋りながらも、辛うじて身を起こす。
「だい、だいじょぶです。ありがとう」
「良かった。あいつらもさすがに懲りると思う」
「あ、ハイ…」
草壁のたどたどしい喋り方にも、彼女は動じない。コミュニケーションが苦手な草壁をおもちゃにしたさっきの男子たちとは違う、平等で公平な態度だった。授業開始のチャイムに席へ向かう彼女の背中は、真っ直ぐのびていた。
彼女の名前は、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます