第26話 犯罪奴隷、聖女を凹ませる
一階層を巡り、お嬢が「レベル六に上がった」とはしゃぎ声を上げたのを褒め称える俺らに少年はあきらかにドン引きしていた。
スキルの発生はなかったらしいが疲れにくく、かつ少々腕力が上がったりもしたようで効率が上がった。
昨日もレベルが上がってからしばらくは狩りを続けていたからだろう。
「すげぇ。不足している薬草がいっぱい生えてる」
枯れ果てた植物が復活しているのだから薬草くらいはあるだろう。
「魔力の偏りが解消されたからでしょうね。さすがです。お嬢さま」
嬉しそうにお嬢を褒め讃えるメイリーン。俺もお嬢すげぇとは思うが、少年がどこにどういった報告をするのかがわからない状況ですべてお嬢の手柄と褒め讃えていいのかどうかが判断できない。
半端にお嬢が『聖女』として神殿に祭り上げられることも回避すべき事柄なのだ。
あまり目立たない市井の『くじ引き屋さん』(どんな商売になるのかよくわからない)店主をお嬢がまっとうするには。
「え。そうなの? メイリーン」
「はい! お嬢さまの出すお水にはひとかけらの魔力も含まれず、流れて触れた大地に凝った魔力を解き、均等な魔力量になるように均していくんです。お嬢さまの活躍をみていて私、解りました。均衡を崩した魔力をお嬢さまの魔力が含まれていないお水が本来に近い環境に戻すまさに呼び水となっているのです。きっとどんな魔法使い様も気がつき難い奇跡に違いありませんわ! さすがです! お嬢さま」
流れるようにお嬢の魔力を含まない水を褒め讃えるメイリーン。
まぁ、魔法っていうのは魔力含んでなんぼみたいなところがあるから、魔力が含まれていない魔法となると基本的に魔法使いとしての将来は見込めないということになる。
飲み水を出せるのはすっごく有用なんだけどな。
というわけでお嬢はわかりやすく凹んでいる。
「え? お嬢さま? とても素晴らしいことなんですよ? お嬢さま?」
「うん。ありがとう。メイリーン。でもわたしの出すお水には魔力が含まれていないから操作はできないんだよね?」
「そうですね。ですが、操作された魔法に触れて解除することは可能かもしれませんよ。今度実験してみましょうか?」
メイリーンは『ソレ』がどれほど素晴らしく特別なのか可能性を秘めているのかを熱をもって語る。
思ってはいたが、こいつ魔法オタク過ぎて道を踏み外した系か?
人の道から外れてしまう魔法使いは多いらしいし。
「ぅうん。いい。わたしが魔法を覚えれたら消えちゃう能力なんだなって思ったから。もうしばらくこのままがいいんだと思う」
しょんぼりしているお嬢にようやく気がついたメイリーンが慌てるが、同時に「ヤダ。お嬢さま聖女様すぎる」と小声で呟いてもいる。
まぁ、ソレはわかる。ひっじょうにわかる。
そんな会話をしながら低木でつくられた迷路をぶち抜き二階層の入り口に立つ。
少年が俺の使う物干し竿を見ながら「伸縮性物干し竿……?」とか呟いていたがふむ。武器に詳しいんだな。
伸びることに気がつくとはなかなかセンスがいい。
レベル十三なら『レベル壱』迷宮の三階層くらいまでは問題ないはずだ。
……そうか。
俺はそういう事を判断できる経験を重ねていたんだな。
「お嬢、二階層、どうします?」
昨日とは違い変異種アシッドマイマイはほぼ居らず手のひらサイズのアシッドマイマイが低木に紛れて毒(ちょっと被れる程度)を吹き散らしてくる微妙に嫌な仕様の迷宮と化している。
致命傷にはならないが鬱陶しい。
「行く」
ぎゅっと棍棒を握り直すお嬢の可愛らしさに自然と頬がゆるむ。
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