第19話 犯罪奴隷、迷宮管理局へ行く

 ザナがきた頃には西瓜、緑の瓜(中は赤かった)を切り分け終えていた。


「おはようございます。みなさま。本日も雑用にまいりました。芋粥の素と肉団子のタネがあるので朝食の準備をしますか?」


「おはようございますぅ! ザナさん、それは夕食に回して一緒にスイカ食べましょう!」


「ザナでいいですよ。お嬢さま。……すいか?」


 疑問符掲げて小首を傾げたザナにお嬢はにっこにこの笑顔で頷く。


「西瓜です!」


 お嬢、答えになっていない。

 西瓜は赤く甘く瓜としての瑞々しさがあった。

 小さな黒い種が少々よけるのに苦労を強いてくるのが難だろうか。

 その種は庭から水路に流してしまう。

 水路のスライムや魔獣が処理するだろう。





「おはようございます。迷宮探索したいです!」


 役所と冒険者ギルドと兵舎の三つからさほど遠くなく、それとなく神殿とは距離がある場所に迷宮管理局はあった。そのこじんまりとした受付ブースに座る受付嬢にお嬢が元気よく要求を述べる。


「はい。いらっしゃい。レベル十五及び十五歳以上なら自己責任で好きに探索していいわ。もちろん、適正迷宮は紹介してあ・げ・る」


「レベルはよんです!」


「か・え・れ」


 朗らかな受付嬢と朗らか笑顔のお嬢の会話である。

 受付嬢はピンクの髪を揺らして呆れたような眼差しで保護者に見えるであろう俺とメイリーンを眺めた。


「なんとかならないの?」


 メイリーンが受付嬢ににじり寄る。


「なるわよ」


 ピンク髪を揺らして受付嬢が微笑む。


「元々辺境伯様には許可を出すように言われているもの。いくつか注意事項やこちらからの要求条件付きで問題ナ・シ」


 ぱちりとウィンクされる。


「おおお! 迷宮探索ぅ!」


 うわぁいと両手と声をあげ、お嬢が喜びを表明する。


「ま、最速でせめてレベル十にはあがってね。セイジョサマには貴方達がついているからの許可だから。そう、ね。十日後。十日後にはレベル八か十くらいにあがっておいてくれると冒険者ギルドから私が文句をつけられないで済むわ。そこのところ、よ・ろ・し・く」


 なかなか難しい条件かも知れない。


「それでいいかしらぁ?」


「うん!」


 お嬢が元気よく返事をする。


「じゃあ迷宮カードをつくりましょ。冒険者カードとも紐付けするからそっちも出して。書類に名前と得意スキル書いてね」


 ふんふんと頷きながらお嬢が書類作成している。


「えー。アンシェミナちゃんっていうの。かわいいお名前ね。愛称はアンシーって感じかしら? あら、聖女は公式じゃないの?」


「りょーしゅ様やみんなが言ってくるだけで神殿では聖女認定されてないし、たまたま適性能力が人を助けるのに向いていただけだよ。えっと?」


「あ? ああ、ごめんごめん。私はシンクレア・クレメンテ。シーアって呼んで。アンシーちゃん」


 お嬢が名乗りをあげなかった受付嬢から名前を引きだす。


「シーアちゃん?」


「そそ。かわいい子にお名前覚えてもらえるっていいわねぇ! 面白いスキル持ってるみたいだから、時々シーアのお楽しみのために使ってくれたら嬉しいなぁ」


 一人称を『シーア』にかえた受付嬢がにこにこと迷宮探索カードと冒険者カードをまとめて落とさないように縁を留めている。

 仕込まれた小さな魔石により本人が迷宮で死んだ場合管理局へ伝達され、それが冒険者ギルドに報告されるための処理のはずだ。


「りょーしゅ様の許可を得てなら?」


 お嬢としては避けたいのか、どちらでもいいと思っているのか、辺境伯様の顔を立てる対応を選んでいる。


「そのあたりは許可を得ているから大丈夫」


 にこにこしているが疑わしいな。


「タダとは言わないわ。シーアがオススメの迷宮への扉をちゃんと斡旋してあ・げ・る」


「え。それならいいかなぁ。でも、りょーしゅ様の許可は本当?」


 お嬢、ちょろい。


「もちろん。それに出所を洩らすつもりはないの。迷宮から出るお宝と似た物があるようだからって調査依頼でもあるの。つまりね。異世界からの勇者サマや聖女サマが欲しがる物かもっていう確認ね」


 迷宮内で出るよくわからない品物を召喚されたり迷い込んできたりした異世界人達が知っているというのはよくあることだと知られている。

 お嬢の『くじ引き』が彼らの住んでいた異世界から呼び出しているのであれば、一方通行の召喚に研究余地が生じないか?


「美味しい物はりょーしゅ様喜んでいると思うなぁ」


 そして、お嬢。

 お偉い方は特別で特殊で希少な物を好むんですよ。

 お嬢の身を守るには本人にやはり少々防衛力は必要か。


「それは間違いないわね! 十日後にレベル確認とその『くじ引き』楽しみにしてるわ。辺境伯には『疑われちゃったから保証書出して』って手紙書いとくから安心してね。アンシーちゃん」


 根回しはしっかりとするつもりらしいシーアにお嬢がほっと安堵した笑顔を見せる。


「うん。ありがとー。シーアちゃん」






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