第4話 犯罪奴隷コンビ、洗われる



 メッキのティースプーン(雑貨)


 何度見てもわかるのはそれだけだ。

 メッキ。

 確か金属の膜を張る技術だったかと思う。


 無造作にお嬢の部屋に置かれている四角の塊を鑑定すると『紙』(五百枚)。


 紙ってあれだ。植物を加工してつくる高級品だ。書物はごく限られた者しか持たないし。

 獣の皮をなめした物に記録をとるか木簡、石碑文が学習の主流だ。

 紙?


 棚に並んでいる瓶を鑑定すると『液体石鹸』(雑貨)『砂漠の砂』(雑貨)『液体石鹸』(雑貨)。

 液体石鹸?

 石鹸。確か油脂をどうにかしてつくる物だと聞いている。

 王都ではそれを洗濯に使って川の生物がいっとき荒れたとか情報があったような気がする。

 ただ、布はとても美しくなるとか。

 希少品でおそらくこれも高価。

 ガラス瓶。ガラス自体が高価。

 中身はスライムの魔核。ガラスの玉。メノウにサンゴ。


「液体は辺境伯様へのストレージバッグには入れられないらしいわ。砂も粒を数えちゃうんですって」


 メイリーンがずた袋から瓶や布束を棚に乗せ置いていく。


『物干し竿』

 合金製の棒。長さ調節可能(雑貨)


「武器じゃないのか……」


「えー? 武器じゃないの? かなり強力そうって思ったのに」


「物干し竿。洗った物を干す時に使うらしい」


「ジェフを洗ってこれに突き刺しておくの?」


「使い方を間違っている発想だと思うが?」


「あ。ジェフ」


「……なんだ?」


「えーっと、エキタイセッケンカミヨウってどれかわかる?」


『液体石鹸』のあたりを注視するとぼんやりと『手』『身体』『髪』と見えてくる。

 液体石鹸。種類があるらしい。


「許可貰ったスキルが十全に扱えないのはご主人様との忠誠度合いね。ご主人様にとって私たちの技能がどこまで必要かわかっていないんですもの。だから、ジェフが役立たずでもしかたないと思うわね」


「髪用の液体石鹸はこれとこれのようだぞ。お嬢を守るためには俺もメイリーンも必要だろう。俺たちは犯罪奴隷だ。つまり、過去はないんだし、すべてにおいてお嬢に決定権がある。ひとりでひとりの人間を守ることは無理だぞ」


 ふたりでもおそらくキツい。

 お嬢は八歳の『聖女』だ。

 しかも高額(物質)をうみだす金のたまご。

 今俺は俺自身の実力も不明。

 仲間であるメイリーンの能力も不明。

 お嬢の実家であり、辺境伯の庇護下の実験農場は安全だろう。

 だが、干魃対応の巡回は終わった。

 公式の巡回でなく個人で行く迷宮に警備の騎士は派遣されない。(たぶん)


「異性であることが警戒対象である事実はわかってほしいかしら?」


 いや、同じただの犯罪奴隷で行動制限かけられているもの同士だろ?

 なに考えてるんだ。この小娘。


「協力できないことで危険度を上げている自覚は?」


 犯罪奴隷にかけられている制限の強さを舐めてるのか?


「私に問題があるというの?」


「言葉通りだが? 『液体石鹸』、持ってこいって言われてるんじゃないのか?」


「そうよ! あんたも同行ね!」


 ならそう言えよ。

 小娘、わけわからないな。


 その後、小娘と俺は液体石鹸の実験的に洗われた。

 あのドス黒い水。

 俺も小娘もそんなに汚れてたのか。

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