第二十五話「影はもう隣まで来ている」

 夜のスーパー三和。

 仕事帰りの俺は、植村さんと一緒に買い物をしていた。

 献立を考える彼女の横顔は、落ち着いていて、それでいてどこか幸せそうで。


(……ずっと、こうして隣を歩けたら……)


 そんなことを思った矢先。

 ふと背筋が冷たくなる。

 精肉コーナーの鏡越しに——視線。


 人混みの向こう、スーツ姿の男がこちらを見ていた。

 煙草を持つ指。笑っていない目。

 元旦那。


「……っ!」

 一瞬で血の気が引いた。

 だが、気づいたときにはもういなかった。


「北山さん? 大丈夫ですか?」

「……あ、いえ。なんでも」

 ごまかしながら笑う俺。

 けれど心臓はずっと早鐘を打っていた。



 その夜。

 アパートの廊下で、猫丸が缶ビール片手に待っていた。

「兄ちゃん、もう影はドアの前まで来てるぞ」

「……わかってます」

「じゃあ、逃げるか? それとも立つか?」


 べすが低く唸る。

 俺は答えなかった。

 でも、心の奥ではもう決まっていた。


——次、来たら俺は逃げない。



 その頃、アパートの外れの街灯の下で。

 元旦那が煙草を踏み消し、低く呟いた。


「……やっぱり隣に入り込んでやがるな。潰すしかねぇか」


 闇が濃くなっていく。

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