第九話「ラーメン屋は修羅場の交差点」

土曜の夜。揚州商人町田店。

 俺はいつも通り、油にまみれた厨房で餃子を焼いていた。

 横では同僚の屑宮がため息をつき、悠木がレジをいじっている。


「なあ北山、お前またSilent Riotのタオル首に巻いて来ただろ。バイトにまで持ち込むなよ」

「うっせーな! 俺にとっては仕事用タオルだ!」

「ラーメンスープ吸ってる時点で推しへの冒涜だろ」

「やかましい!」


 そんなやり取りをしていたら、ホールに女子二人組が来店。

 振り返って、俺は絶句した。


「……え」


 橘陽菜・紅葉姉妹。狂言回しにして、町田ユニバースの“爆弾娘”。

 よりによって俺のバイト先にやってくるとか、地獄か。


「いらっしゃいませー♪ ……って、あれ北山じゃん!」

「ちょ、やめろ! 店内で名前呼ぶな!」

「うわ〜ほんとにここで働いてるんだ。似合う〜」

「煽るな!」


 屑宮と悠木がにやにや。俺のプライドはズタズタ。

 そのうえ——


「すみませ〜ん、冷やし担々麺ひとつと……」

 聞き覚えのある声。


 振り返ると、そこには植村さん。

 仕事帰りらしいスーツ姿で、柔らかく微笑んでいた。


(うわああああああああああ!!!)


 よりによって、俺の最低な労働現場を、植村さんに!!

 しかも橘姉妹の冷やかしつきで!!


「へぇ〜隣の人が、北山の言ってた“おばさ……」

「だーーーかーーーらーーー!!」


 叫び声と鍋を振る音。

 油跳ねる厨房、笑う同僚、ニヤつく橘姉妹、そして柔らかく見守る植村さん。


 ——俺のバイト先は、今日も修羅場だった。

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