第8話 赤ちゃんの正体2
妹は確かに金髪だった。
私と半分しか血が繋がっていない妹は、茶色い髪の私と父とは違い、母親と同じ金色の髪をしている。
アイゼルと赤ちゃんは同じ黄金色の金髪をしているけど、妹はここまで見事な黄金色ではない。
薄い金色で、光がさすと白くも見える透ける様な金髪をしていた。
赤ちゃんをじっと観察する。
まだ髪は生え切っておらず、綿毛にような髪が頭を薄く覆っている。
雨により暗い空と、十分でない部屋の照明、ベビーベッドが赤ちゃんに暗い影を落としている。
この状況で正確な色は見えなかった。
アイゼルの隠し子かもと思いながら見ていたから、暗い影の中で金髪が黄金の様な輝きを放って見えたのかもしれない。
本来の色はもっと薄い様な気もした。
明るい場所に連れて行けばハッキリするけれど、赤ちゃんが気持ちよく寝ているのに起こしたくはなかった。
この子が妹の子?
金色の髪と透ける様に白い肌は似ているけど、それだけで妹の子だなんて信じる事は出来ない。
「待って下さいアイゼル、妹はまだ18歳で結婚もしてないんですよ。子供なんて……」
「連れて来た者が、この赤ん坊は君の妹の子だと言っているだけだ。確証はない」
隠し子じゃない!?
アイゼルの口ぶりは赤ちゃんを連れて来た女性とは面識がない様だった。
赤ちゃんが妹の子かどうかよりも、それが気になった。
「愛人の隠し子じゃない……」
知らずにそんな事を呟いていた。
「下らない噂だ」
アイゼルがにべもなく言う。
そうか、違うのか……!
知らずに笑みが漏れた気がする。
アイゼルはそんな私から目を逸らした。
「君の妹は確か帝都に居るはずだね」
「ええそうですけど……」
とりあえず妹に話を戻さなくてはならない。
「一年程前からでしょうか? かねてから妹が希望していた帝都の大学で学べることになったと手紙がありました」
妹とは私が嫁いでからも頻繁に手紙のやり取りをしていて、実家の様子や自身のことなどを報告し合っていた。
とは言っても、私には言えないことがあったけど……。
チラリとアイゼルを見る。
あまり心配させたくなくて、
「夫婦仲は良好です。アイゼル様はこの間も仕事で長期留守にされた後にプレゼントを買って来て下さいました♪」
などとありもしない嘘を混ぜたりもしたけれど、他に嘘をつく必要はなく妹に辺境の城砦の様子を報告するのは楽しみでもあった。
妹の手紙も特に私が実家にいる頃と変わらない様子が綴られていて、日々の様子の中に嘘が混じってるとは思えなかった。
けれど、妹が帝都の大学に行ってからは手紙が減り、ここ数ヶ月は妹からの手紙は受け取っていない。
帝都には勉強をするために行ったのだし、寂しいけれど忙しいのだろうと思っていたけれど……。
妹はきっと帝都の生活が合うのだ。
私たちの実家は貴族と言え田舎でのんびりした所だった。
私たち姉妹は、たまに近くの大きな都市に遊びに行たけれど、沢山の店や品物と人の活気にワクワクする妹と違い、私は疲れてしまうくらいで、帝都には行った事がなかった。
帝都は田舎の都市とは比べ物にならないくらい賑やかな所なのだし、妹が勉強の合間に夢中になって手紙を書く暇がなくても無理ないと思っていた。
んっ?
そう言えば、帝都に着いてからしばらくは変わらず頻繁に届いていた妹からの手紙にも、
「姉様、素敵な方に出会いました♡ 帝都はやっぱり素晴らしい場所ですね♡」
なんて書かれていた様な気がする……。
する……。
サーっと血の気が引いていく。
まさか?まさか?
素敵な人って!?男の子!?
妹に限って!?
でも!でも!
この後から、手紙が少なくなった気がする!!
ええっ!?
ベビーベット中では相変わらず赤ちゃんが幸せそうに眠っていた。
グッと身を乗り出して覗き込む。
赤ちゃんの月齢と言うものを私は知らないけれど、なんだかとても小さく見えた。
ひーふーみー、思わずベビーベットの横で指折り計算してしまう。
手紙を貰った正確な時期も分からないけれど、赤ちゃんが一歳になっていると言うのでなければ、計算が合う!
本当にこの子は妹が未婚で産んだ子なの!?
「この赤ん坊の母親が君の妹かどうかはそれほど問題ではないんだ」
ふいにアイゼルが言う。
「え?」
「問題は父親だ」
アイゼルの顔は何かを憎悪する様な瞳が暗く光る。
確かに父親が誰かは重要だ。
父親が誰でも、子供が出来たなら結婚させてしまえば良いのだから。
結婚より先に子供がいるなんて順番の違いはそれほど問題にならない。
でも、それが出来ない相手だったら?
未婚のまま子を産んで一人で育てるしか無いのだろうか?
いいえ、結婚は出来なくても援助してくれたりするのではないかしら?
愛人を別宅に住まわせているなんてよくある事だ。
私とミアがさっきアイゼルの愛人と隠し子の事を疑っていた様に、身分の高い人なら、自宅に愛人や子供を連れて来なけれ、愛人をずっと囲っておくなんて簡単だ。
なら、妹の相手は身分もお金もない人なんだろうか?
いや、それも違う。
私達の父は健在だし、母だっているのだし、実家を頼れば良いのではないかしら?
辺境に住んでいる結婚した姉を頼って、赤ちゃんを他人に頼んで届けてもらう理由があるだろうか?
……。
しばらく考えて思いついたのは、貧乏な男の子供を未婚で産み実家から勘当された妹が、病気になり最後のお金で唯一頼れる姉に子供を届けてくれる様に頼んだと言うものだ。
最悪の状況だ。
妹が病気になっていたら心配だし、あの父が可愛がっていた妹を勘当するのも考えられないけど。
もしかしたら父にも何かあったのかもしれない!
「妹と皇帝陛下との関係は?」
またアイゼルにふいに質問される。
私はそれどころではなく、ぼんやりと答える。
「皇帝陛下? いいえ……知りません」
田舎の貴族の娘が帝都に居るからと、皇帝陛下になどそう簡単に会えるものではない。
まだ20代の皇帝は、噂ではかなりの美青年だと言う。
アイゼル程ではないと思うけど。
急に赤ちゃんと関係のない話になり、どうしたのかしらと不思議に思う。
「それはおかしいな」
アイゼルが言う。
?
「この子は皇帝陛下の子だ」
んん?
またもやとんでもない言葉が飛び出した。
「ええ〜!!? 皇帝陛下の赤ちゃん!!?」
さっきまで、妹の子だと言っていたじゃない!
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