第32話:真贋見極める聖剣、知恵と力の共闘。

 岩と岩がぶつかり合う激しい轟音ごうおん

 まるで雑草のように無造作むぞうさに突き出した岩の塊が、行く手を阻むように道を塞ぐ。

 響夜きょうやはそれらを全て回避し、斬り伏せながら、ずっと『あるもの』を探し続けていた。


(微かに気配は感じるのに……)


 もどかしい気持ちを抑えながら、その場その場に応じて対応していく。

 巨大な岩の手が、またしても死角から響夜を襲う。

 避けきれないと判断した響夜は、咄嗟とっさに剣を振るい、迫る岩を寸断した。


パキ……。


 乾いた、嫌な音が響いた。

 剣に明確なひびが入る。


「!」

「あっはははは!!そろそろ限界じゃーん!!その玩具おもちゃ!!」


 岩人形が、響夜きょうやの剣の限界を見透かしたように、耳障りな甲高い声で挑発する。

 しかし、意に返さず受け流した。


「そうみたいね」


 響夜の冷静な態度に、岩人形は苛立ちを覚える。


(なんだ…コイツ……。そろそろ体力的に限界が来てもおかしくないのに…? 何故まだ動ける?!)


 苛立ちを隠しきれず、更に攻撃を強化する。

 周囲は足場の悪い岩場になっているにも関わらず、響夜は臨機応変りんきおうへんに攻撃を避け続け、同時に敵の弱点を探っていた。


「さっさと死ねよオォォオ!!!」


 岩人形は、怒りのままに岩礫がんれきを無数に生み出し、それを響夜目掛けてぶつける。

 響夜は、先の岩壁に身を隠しながら、再び岩人形に向かって一閃を繰り出した。


「ははっ!!バーーーーカ!!僕は本物じゃないよーーだ!!無駄無駄ァァァ!!!」


 岩人形の嘲笑ちょうしょうが響く。

 響夜の剣が空を切った、その瞬間──


バキン!


 鈍い音と共に、剣の刀身が根元から折れた。


「!」


 最悪のタイミング。

 ここぞとばかりに、岩人形は更なる追撃を仕掛ける。


「くたばれえぇーー!!!」


 巨大な岩の槍が、響夜目掛けて空を切り裂いた。

 だが____…届かない。


「なっ…?!何ぃ?!!」

「残念」


 響夜はそう呟く。

 同時に、手には今まで見たことのないわずらわしいほどの光を放つ。

 折れた剣と入れ替わるように、光のつるぎが象られていた。


聖魔法剣アークライト


 それは、彼の純粋な魔力で形成された『魔法剣』。

響夜は、その『聖魔法剣アークライト』で迫りくる岩の槍を軽々と斬り裂き、そのまま勢いを殺さずに岩人形を粉々に砕いた。


「!」


 だが、また背後から悪寒が走る。

 素早くその場を離れると、巨大な岩の手が、先ほどまで響夜がいた場所を鷲掴わしづかみにしようと襲いかかった。


(ああ…もう。埒が明かない)


 若干の苛立ちを抑えながら、距離を取る。


「無駄無駄無駄ァァ!!無駄なんだよぉ!!」


 耳障りな声と共に、またどこからともなく岩人形が岩から生えてくる。


 瞬間。

 何かが上空から高速で落ちてくるのを察し、響夜は大きく後ろに跳んだ。


 ドォン!!


 巨大な尻尾が、響夜がいた場所の岩人形を粉々に叩き潰す。


「ラ…ラジアナ?!」


 響夜は、そこにいる竜の名前を呼んだ。


「キョウヤ!!大丈夫か?!」

「大丈夫」

「嘘だ!!怪我してるじゃないか!!」

「掠り傷だから、それより……」


 会話を続けていると、再び轟音ごうおんが大地を揺るがした。

 岩の手が、二人目掛けて容赦なく襲いかかる。


「キョウヤ!乗って!」


 ラジアナの呼びかけに応じ、響夜は迷わずその背に飛び移る。


「ははははは!!!逃げるのか? 逃げるのかぁ?!弱虫!弱虫ぃ!!」


 ケタケタとわらう声が、岩の谷に響き渡る。

 壊したはずの岩人形が、またどこからか湧き出てくる。


「こう言う系統のモンスターって、どっかに本体があると思ったんだけどな…。読み違えたかな?」

「いや、キョウヤの分析は当たってる!でも、あの人形を壊しても、アレは止まらないんだ」


 容赦無く襲いかかる岩の壁を、ラジアナは巧みに避けながら話を続けた。


「鉱石だ」

「え?」

「アイツは、上級モンスター『ドルミンハイド』。岩を操り、岩人形を本体と信じ込ませ、相手を翻弄ほんろうさせる。面倒なヤツだよ」

「どうしたらいい?」

「キョウヤ。僕がヤツの弱点の鉱石を見付ける!必ず見付け出すから、その鉱脈を追う間、ヤツの目を引き付けて時間稼ぎ出来るか?」

「うん。問題はないよ」


 響夜は、ラジアナの背中から勢いよく飛び降り、再び岩人形との交戦を始める。


「しつこいなしつこいなしつこいなァァァ!!!」


 ドルミンハイドは、先程と同じ、無数の岩礫がんれきをぶつける攻撃を繰り出してきた。

 一方、ラジアナは人型に戻り、片手を岩壁に当てる。

 瞳を閉じ、その奥に眠る鉱脈を辿たどるように集中した。


(近い!)


 鋭い岩の槍がラジアナを襲うが、響夜が『聖魔法剣』で一閃でそれを弾き砕いた。


「いい加減、それやめない? 疲れるでしょ」

「煩い煩い煩い!!!さっさと死ねぇ!!!」


 ドルミンハイドの怒声が響く中、ラジアナの鉱脈を感じ取る『眼』に、明確に『脈』が姿を現す。


(視えた!)


「キョウヤ!」


 ラジアナは素早く響夜きょうやの手を取り、一瞬で竜へと変化する。

 そのまま一気に駆け上がり、響夜を『鉱石』の元へと連れて行く。


「また逃げるのか?!弱虫弱虫弱虫!!!」

「弱虫は…」


 ラジアナは、怒涛の勢いで岩の窪みを勢い良く引き裂いた。

 そこにあらわになったのは、妖しく光る赤紫色の巨大な鉱石。


「なっ…?!」


 自分の『弱点』を暴かれた焦りに、ドルミンハイドは巨大な岩の塊を投げつけてくる。


「お前だろぉ!!」


 ラジアナの怒号が響くとほぼ同時に、躊躇ちゅうちょなく妖しく光る鉱石に向かって『聖魔法剣』を思い切り振り下ろし、両断。

 ラジアナは迫り来る巨大な岩を、竜の拳で粉々に打ち砕く。


「そんな…ッ、馬鹿なあぁぁあぁぁーー!!!」


 断末魔だんまつまの叫びと共に、周辺に生えていた岩の柱や岩人形が、次々に勢いを失い、ずるずると地面に戻っていく。

 斬り裂かれた赤紫色の鉱石は、ゆっくりと光を失い、ちりとなって消え去った。

 先程まで牙を剥いていた大地が、嘘のように静寂せいじゃくを取り戻す。



「はーーー……」


 響夜は、大きく長い溜め息を吐くと、ずるりと岩壁を背に座り込んだ。

 体中の力が抜けていくような感覚に襲われる。


「キ…キョウヤ?!だ、大丈夫か?!」


 ラジアナが心配そうに響夜の顔をのぞき込む。


「うん……ちょっと疲れた…。ありがとう、ラジアナ。…君が居なかったら、倒せなかったよ」

「ううん。この鉱石は僕の力だけじゃ壊せない!だからキョウヤのお陰だよッ!」


 ラジアナと響夜は、お互い顔を見合わせ、安堵あんどと達成感に満ちた笑顔を交わし合った。


 そこに、駆け足でティアとリゼッタが到着する。


「キョウヤ!!」

「マスターぁぁあ!!!」


 リゼッタは、真っ先に響夜きょうやに飛びつき、その胸に顔を埋めた。

 まるで数十年ぶりに再会したかのような、熱狂的な抱擁ほうようだった。


「ちょっとリゼッタ!やめなさいよ!」


 ティアが呆れて言うが、リゼッタは耳も貸さない。


「マスター!会いたかった!マスターぁぁ!!」

「…あー…はいはい」


 響夜は、困惑しながらも、されるがままにリゼッタの抱擁を受けながら、頭を撫でた。


「キョウヤ! リゼッタを甘やかさない!」


 ティアが再度、注意する。


「あはは!!」


 その様子をみたラジアナは大笑いする。

 響夜きょうやは、照れたように笑った。

 その時、遥か街の方角から、高く響き渡る勝鬨かちどきの声が聞こえてきた。

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【転移したら性転換?!】異世界最強魔剣士の俺(私)が、ハーレム生活を始める。 たちばなきょう子 @kyokotachibana

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