第31話:閃光の矢、闇を貫く独創の輝き。

 迫りくるダークエルフの連撃に、ティアは万事休すかと思った。

 しかし、その刹那、漆黒の装束の背中に、まばゆい光の矢が突き刺さる。


「ああああぁぁぁああ……!!」


 悲痛な叫びが夜の平野に木霊した。

 光の矢は、ダークエルフの体を内部から崩壊させ、やがて彼女の存在は風に舞う塵と化した。

 先刻、ティアが放った光の矢は、予め僅かな細工を施していたのだ。


『反射【リフレクト】』 


 それは、一度放った矢が、文字通り返ってくる支援型魔法。

 そしてもうひとつ。

 自身の『光』の魔力を、矢に少しだけ仕込み、対象に命中した際に、相手の『闇』の魔力を感知し、逆流させるという、ティア自身が独自に編み出した荒技。

 その効果は絶大。

 特に闇の魔力を扱う者には、光の魔力が逆流するだけでも大きなダメージとなる。



『魔法が苦手でも、最小限の魔法しか使えなくても、使い方次第でなんとかなるもんだよ』



 あの時、一緒に剣の稽古をしてくれた響夜きょうやの教えが、今、この瞬間に生きた。

 彼に教えてもらった『反射【リフレクト】』。

 そして、ティア自身が編み出した『閃光の矢』。

 ティアは、拳を胸に当て、静かに感謝を示す。


「キョウヤ…。ありがとう」


 その瞬間。

 張り詰めていた緊張感が切れ、一気に疲労の波が押し寄せた。

 ティアは、がくりと膝を付く。


「はぁ…はぁ……ッ、早く…お…応急処置を……」


 肩の傷に魔力を集め、簡易的な治療をほどこそうとしたその時だった。

 草陰に潜んでいた低級魔族が、ティアの隙を狙うかのように数体、一斉に襲いかかる。


「しまっ…!」


 間もなく迫る魔族の群れ。

 その時、上空から数本の鋭く赤黒い剣が降り注いだ。

 鮮血のような輝きを放つ刃が、総ての低級魔族に正確に命中し、一瞬にしてちりへと変えていく。

 ティアは、驚きに目を見開き、攻撃が飛んできた方を見上げた。


「あーあ…。やられてやんのぉ〜」


 聞き覚えのある皮肉めいた声。

 月明かりを背に、上空からふわりとリゼッタが舞い降りてくる。

 その表情には、勝利を確信したような不敵な笑みが浮かんでいた。

 リゼッタは、チラリとティアの様子と、周囲に散らばる魔族の残骸ざんがいを見回した。


「ふぅーん。倒したんだ。やるじゃん」

「……ええ、倒したわよ」

「…ふーん。取り敢えず治療に専念しなよ。その間は私が火の粉を祓うから」


 意外なリゼッタの態度に、ティアは思わず目を丸くした。

 まだ、低級魔族が押し寄せてくる。

 リゼッタは、不敵にわらい、また襲いかかる残党を一掃する。


「フフフ…。足りない…。まだまだ足りない…!もっと私をたのしませろ!!」


 リゼッタの様子に、ティアは少し引き気味に問いかける。


「あなた…頭でも打った?」

「フフフ♡今の私は絶好調!まだ殺し足りない!ああ、マスターの血の甘美な香りが全身を満たす……!」


 ティアは、その言葉に呆れたように呟く。


「ま……魔族って…」


 リゼッタはティアの言葉など気にもとめることなく、恍惚こうこつとした表情で、ただたのしげにわらい続け、周囲を血祭りにあげていた。

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