第29話:鍛冶師の魂、巨人との戯れ。

「ぐおおぉぉおおッ!!!」

 激しい雄叫びと共に、ジャイアント・オーガの拳が何度も地面を抉る。

 その一撃一撃が地響きとなって谷に響き渡った。


「ヒュー! あはっ! 凄いパンチ力だ!」


 ラジアナは、まるで鬼ごっこでもしているかのように、ジャイアント・オーガの猛攻を軽々と躱していた。

 その姿は、既に竜変化を解き、人型に戻っている。

 それには理由があった。


「うん! 結構軽いね、この防具! 強度はどうかな~?」


 ラジアナは、わざとジャイアント・オーガの強烈な一撃をボディで受け止め、そのまま弾き飛ばされた。

 大きくを描いて岩壁に叩き付けられる。

 ドォン! と鈍い音が響いたが、彼女は即座に受け身を取っており、大したダメージは受けていない。


「うーん……強度は…まずまずかな…」


 受け身を取りながらガードした腕の篭手こてに、ごくわずかなひびが入る。

 防具の性能を確かめるように、ラジアナはニヤリと口角を上げた。


「さて…と、次は……」


 次の防具を試そうと思った、その時だった。

 遠くで、激しい爆音が幾度も鳴り響く。


「おっと。あまり時間はかけられないみたいだな! 早く片付けて、みんなの加勢に行かないと!」


 ラジアナが呟いた瞬間、ジャイアント・オーガが、岩に張り付いている彼女に向かって、その巨腕を振り下ろした。

 全てを叩き潰すかのような、渾身の強烈な拳だ。

 ドゴォォオォーーン!!! と、周囲の岩壁が震えるほどの轟音と共に、彼女がいた場所の岩肌が深くえぐれる。


「……?!」


 ジャイアント・オーガは驚愕に目を見開いた。

 先程までいたはずの小さな娘が、どこにもいない。

 その拳は、空虚な空間を叩きつけたはずだった。

 しかし、その驚愕の表情は、すぐに苦痛へと変わる。

 メキリ……! と、不気味な音を立てて、オーガ自身の拳がゆがんだ。

 いつの間にか、その拳を、竜変化したラジアナが正面から受け止め、そのまま握り潰していたのだ。

 

「があぁぁあぁぁぁぁああぁ!!!」 


 驚愕きょうがくと、骨が砕けるような激痛に、ジャイアント・オーガが悲鳴を上げる。


「うるさーーーい!!」


 ラジアナは、その巨体の悲鳴に苛立ったように叫ぶと、ぶん! と自身の尻尾でジャイアント・オーガの側面を思い切りぶん殴った。

 今度はジャイアント・オーガが、まるで軽石のように宙を舞い、はるか遠くの岩壁に叩き付けられる。

 轟音と砂煙すなけむりが上がる中、ラジアナは即座に追い打ちをかけた。


「これで…っ! おわりぃ!!」


 再び人型に戻り、素早くジャイアント・オーガの間合いへと踏み込む。

 右腕だけを巨大な竜の腕へと変化させ、その拳をオーガの顔面へと叩き込んだ。

 ゴォンッ! と、肉が潰れるような鈍い音が響き、ジャイアント・オーガは絶命する。

 その巨体がゆっくりと地面に倒れ伏した。


「もう少し、防具の性能試したかったんだけどなぁ…」


 ラジアナは、不満げに、しかし少し残念そうに呟いた。

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