第22話:新たな仲間、旅立つ鉱山都市へ。

​ 静かな朝の光が、木々の間から差し込む。

 遂に出立の日。

 響夜きょうや、ティア、リゼッタが、準備の再確認今をし、話し合っていると、穏やかな空気を破るように、静かに、しかしはっきりとした声が響いた。


​「私も同行するわ」


​ リアーナが口にしたその言葉に、響夜とティア、リゼッタは目を丸くした。


​「え、リアーナも?でも、森の守護はどうするの?」


​ 真っ先にティアが尋ねる。

 リアーナは、そんなティアに優しく微笑んだ。


​「ちょっと空ける程度なら問題はないわ。『古代樹こだいじゅ』に守護の力を一時的に託すことが出来るから。それに……」


​ リアーナは、まっすぐ響夜に視線を向けた。


​「今のキョウヤの状態を放ってはおけないもの」


​ その力強い言葉に、響夜は少し気恥ずかしそうに目を伏せる。

 彼の頬が、うっすらと赤く染まっていた。

 そんな中、ギルドから戻ってきたコハクが、小走りで響夜たちの元へやってくる。

​ 彼女のふわふわとした猫耳が、風に揺れていた。


​「キョウヤさーん!ご無事で何よりですぅー!」


​ 彼の無事な姿を目にして、コハクは心底安心し、走りながら大きく手を振る。

 だが、また足を躓かせ、体勢を崩したコハクは「にゃ…ッ?!」と可愛らしい悲鳴を上げた。

​ その瞬間、響夜は素早く動き、コハクを支え、受け止める。

 彼女は彼の胸の中に、すっぽりと収まった。

​「大丈夫?相変わらずだね、コハク」


​ 響夜は優しく微笑み、コハクの体を起こし、彼女の目線に合わせ、しゃがみながら頭を優しく撫でる。


​「コハクにも心配かけたね。ありがとう」


 彼の真っ直ぐな瞳と、優しさに満ちた笑顔に、コハクは一気に顔を赤らめた。


​「いっ…いえ!そそそそんな!と…っ、ととんでもないですぅ!!」


​ どもりながら必死に言葉を紡ぐコハクを見て、リゼッタは口を尖らせながら問う。


​「なに?誰?あの獣人」


​ リゼッタの質問に、ティアが説明する。


​「ああ。貴女はまだ会ってなかったわね。彼女はコハク。ギルドの受付嬢をしているわ。今は出張と言う形で、キョウヤ専属の案内人を、しているの」


​ リゼッタは、やや不機嫌気味に「ふーん」と相槌を打った。

​ その間に、コハクはポシェットから何かを取り出しながら、朗報を告げる。


​「あ、そうそう!ギルド長からの正式な通達です! キョウヤさんとティアさんは、共に『ランクB』へ昇格となりました!」

​「えっ?」

​「本当?コハク!!」


​ 響夜とティアは驚きと喜びの声を上げ、互いに顔を見合わせた。


​「ええ、おめでとうございます!」


​ コハクは、二人に新しいギルドタグと通達書を手渡す。

 キラリと輝く新たなギルドタグには、Bランクの証である『金鉱石』が埋め込まれている。

 二人は、その輝きを手に、満面の笑みで笑い合った。


​「おめでとう、二人とも」

​「流石、私のマスターだ!」


​ リアーナとリゼッタも、笑顔で二人を祝福する。

​ こうして、新たなランクへと昇格した響夜と彼女たちは、武具を新調するため、洞窟鉱山都市へと向かうのであった。



 * * *



 二日間の旅路を経て、響夜たちはついに洞窟鉱山都市『イーストブルグ』へと到着した。

 目の前に広がる光景に、響夜は思わず息を呑む。


「うわ……すご……」


 切り立った崖の合間に、まるで洞窟そのものが生きているかのように、石造りの建物がひしめき合っている。

街の中は、昼間だというのに薄暗く、しかしいたる所にきらめく魔石ませきの光が、幻想的な雰囲気をかもし出していた。

 人口はおよそ五千人と小さな街だが、そこに暮らす住民のほとんどが鍛冶職人だという。

 街のあちこちから、カンカンと金槌の音が響き渡り、活気に満ちている。

 生活用品から、武器、防具に至るまで、彼らが作り出す品々はどれも質が高く、『旧王都ルアール』名産の酒と並び、この街の主要な収入源となっていた。

 『ルアール』との交流も深く、友好な関係を築いていることが伺える。


 カインズから送られた紹介状を手に、響夜きょうやたちはこの街で一番と言われる、ドワーフの老夫婦が営む工房へと足を運んだ。

 古びた木製の看板がかかった入り口をくぐると、奥から元気な声が聞こえてくる。


「はーい、いらっしゃいませえー!」


 姿を現したのは、見覚えのある褐色かっしょくの肌の少女だった。


「あーーーっ!君ぃ!あの時の!!」


 少女は響夜の顔を見るなり、目を輝かせた。

 響夜も驚きを隠せない。


「…!あ。君は……!」


 まさかこんな場所で再会するとは。

 響夜と少女の意外な反応に、ティアとリゼッタは顔を見合わせた。


「誰?キョウヤの知り合い?」

「どういうこと?マスター!」


 二人の問いに、響夜は苦笑しながら答えた。


「ああ、この間、森で偶然会ったんだ。ちょっと会話しただけ…なんだけど……」


 少女はにこやかに頷く。


「そうそう!僕だよ僕! まさかここで会えるなんてね!」


 彼女が差し出した手に、響夜は思わず目を瞬かせた。


「あ…えっと……」

「僕の名前はラジアナ!よろしくね!」


 ラジアナは屈託のない笑顔で自己紹介した。

 差し出した手を、少し照れながら掴み、握手を交わす。


「俺は、響夜きょうや。これからお世話になります」

「うん!歓迎するよ、みんな!」


 ラジアナは嬉しそうに、響夜の言葉を受け取った。

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