第18話:騒がしき目覚め、迫りくる次の序曲。

 別の部屋で眠っていた響夜きょうやがゆっくりと目を開ける。

 まだ体は重いが、激しい疲労感の中に、どこか温かな安堵が広がっている。


「……あれ? ここ…」


 少し辺りを見渡す。

 そして、さっきまでに起きた出来事が、フラッシュバックする。


「…ッ!そうだ!リゼッタ……!」


 響夜は慌てて起きようとするが、まだ体が上手く動かせず、またベッドの上に崩れる。

 不安な気持ちが募る中、すぐに部屋ドアが開いた。


「キョウヤ。目が覚めたのね…!」


 安心するリアーナを他所に、その後ろから勢い良くリゼッタが飛び出してきて、真っ先に響夜に抱き着いた。


「キョウヤぁ!!気分はどうだ?!大丈夫か?!」


 響夜きょうやの体を遠慮なくベタベタ触りまくるリゼッタ。

 そんな光景を見逃さない人物がひとり。


「ちょ…!吸血鬼!きっ…気安くキョウヤにさ……ささ触らないでよっ!」


 顔を真っ赤にし、リゼッタを指差しながらながら、叫ぶティア。

 リゼッタは挑発するように、更に響夜にべったりと体を密着させ、ニヤニヤしながらあおり倒す。


「なあ〜にぃ?嫉妬かよ?見ッッ苦しいぃ〜!」

「なっ…!ちっ…違っ……!」


 言葉が上手く出てこないティア。

 リアーナは大きく溜め息を吐いて、リゼッタを響夜から引き剥がす。


「ちょっとぉ!なにするんだよぉ!」

「いいから離れなさい、リゼッタ」

「!」


 リアーナの圧に、リゼッタは少し恐怖を覚える。

 笑顔のはずなのに……目が一切笑っていなかった。

 仕切り直して、リアーナは響夜きょうやに優しく話しかけた。


「気分は?」

「あ……はい。…まだ、ちょっと視界がフラつくけど、大丈夫です…」


 そして、リアーナは響夜に軽くデコピンをお見舞いする。

 驚いて額を押さえ、目を丸くする響夜。


「どうして、私の守護の範囲外に出たの?」


 母親が子供にさとすように、強く言い放つ。


「あ…そか。す…すみません。ちょっと先日、討伐した場所が……ちょっと気になって…その…」


 申し訳なさそうに理由を話す響夜。

 その言葉にリアーナは、はっ…とし、また溜め息を吐く。


「……そうね。ごめんなさい。私も先に貴方に話しておくべきだったわね。…でも、もう解決したわ」

「え…?」


 先日の大規模討伐の後、まだ何かしら違和感を感じていたのは、響夜も同じだった。

 しかも、彼の性格を考慮するなら、誰も巻き込まないように、きっと独りで行動する。

 少し考えれば判る事だった。


「でも、よかった…」


 響夜がそう呟くと、リアーナは「え?」と問う。


「……リゼッタが…みんなが無事で…」


 体中包帯に巻かれ、痛々しい姿で、安心の笑みを浮かべる響夜。

 自身の痛みより、他人の無事を先に案じるその姿に、周りの皆は心が痛んだ。

 しかし、彼の安堵な台詞にまた、切なくも心が暖かくなる。


「ティアもリアーナさんも…本当にごめんなさい。心配かけちゃって…」


 ティアは、響夜きょうやに近付き、両手でそっと彼の手を包む。


「ううん。いいの…。貴方が無事ならそれで…」


 その時突然、リアーナが『なにか』の気配を感じ、目を見開いた。

 彼女は窓の外へと視線を向け、集中するように目を細めた。


「ギルド長?!」


 驚きに満ちたリアーナの声が響いた。

 響夜きょうやたちが窓から外を見ると、そこに立っていたのは、ルアール統括のギルド長、瑠華るかと、その隣に立つ秘書長のカインズだった。

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