第15話:光と闇の余波、動き出す森の守護者。

​ その頃、響夜きょうやの捜索をしていたティア、コハク、リアーナの三人は、山脈のふもとから響く激しい地響きと、それに続く「ドン!」という鈍い音に、思わず顔を見合わせた。

 空にまで届くようなその轟音は、平和な森の空気を一変させ、鳥たちが一斉にざわめき、大きな群れとなって空へと飛び立っていく。

 木々の葉がざわめき、動物たちが身を潜める中、三人の間には張り詰めた緊張が走った。


​「な……なに、今の音?」


​ ティアが怯えたように呟くと、コハクが何かを見つけたのか、震える指でその方向を指差した。


​「な…な、なんですか?! あれ?!」


​ 一瞬だけ、森の奥深くからどす黒い光の柱が漏れ出て、すぐに消えていく。

 その光はまるで、闇が森を食い尽くそうとしているかのようだった。

 光が消え去ると同時に、「ドサリ」と、何か重いものを地面に落とすような音が響いた。


​「リアーナさん?!」

「リアーナ!!」


​ その直後、リアーナが突然膝を突き、前屈みになって震え始めた。

 ただならぬ状況に、ティアとコハクは混乱する。


​「…ッ…駄目……! こ、この力は……!」


​ リアーナの苦痛に満ちた声が、森に響いた。

 ティアは咄嗟に深呼吸をして、冷静を保とうと試みる。そして、コハクに指示を出す。


​「コハク。あなたは一旦戻って、ギルド長に報告して。私はリアーナを安全な場所に……」


​ 指示をしようとしたティアの腕を、リアーナが咄嗟に掴んだ。

 彼女の顔は苦痛に歪んでいるが、その瞳には強い光が宿っていた。


​「判ったわ……キョウヤの居場所……」

​「えっ?!」


​ 少し苦しそうにしていたリアーナだったが、次の瞬間には、まるで何事もなかったかのようにすっと立ち上がった。

 彼女の表情は、ただならぬ事態を悟ったかのように真剣そのものだった。


​(これは……『ガーネス』の気配…?…まさか、『漆黒扉ヘルズゲート』が…開放された?!)


​ リアーナはコハクへと視線を向ける。


​「コハクちゃん。あなたはティアの言う通り、ギルド長に報告を!」

​「は…、はいっ!!」


​ コハクが勢いよく返事をすると、リアーナは視線をティアへと向けた。


​「ティアは……」

​「私も行く!」


​ ティアの瞳には迷いがなく、確固たる決意が宿っている。

 それは、何が起きていても響夜の元へ駆けつけたいという強い意志だった。

 それを見たリアーナは、わずかに微笑み、静かに頷いた。

​ ティアとリアーナは、不穏な音がした方角へ向かって走り出す。


​(間違いないわ。この気配……でも…まさか、私が懸念していた事が……?!)


​ 一刻も早く彼の元へ辿り着けるように、リアーナはティアの背中に手を翳し、魔法の翼を付与させた。

 薄緑色に光り輝く木の葉の様な羽根が、まるで彼女の決意を具現化したかのように、ティアの背中に現れる。


​「急ぎましょう、ティア!」

​「ええ!」


​ 光の粒子がまだ微かに残っている方角へ向かって、二人は一斉に飛び立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る