第39話─前門の虎後門の狼


ホーホーホー。



夜特有の何の生き物の鳴き声か分からない声がどこからともなく聞こえてくる。



夜になり本日の訓練を終え、夕食を済ませた生徒達は既に自分が寝泊まりする客室に戻っていった。



時刻は22時。高校生が寝るには少し早いが、あれだけ疲労していたんだ。今頃ベットでスヤスヤと寝息を立てて熟睡している頃だろう。



そんな中俺の自室では俺とキョウカさんとテンカがグラスを交わし、なんてことはない雑談に興じていた。



「それでのぉ〜皆動きが良くての〜、本当に一年生か?と何度もおもったもんじゃ。」



「………。」



酒が入ってキョウカさんは普段よりも饒舌になり、逆にテンカは黙り込んでしまった。



キョウカさんとテンカは酒が入るとこんな感じになるんだなぁー。と知らない一面を見ることができて少し嬉しくなる。



「へぇ、そうなんですね。一番誰の動きが良かったですか?」



確かに今の北条達の主人公パーティーは原作よりも力をつけているからキョウカさんが感心するのも納得だ。それはそれとしてキョウカさんが誰に目をつけたのかが気になる。できれば主人公とかに興味をもってくれれば嬉しいが……。



「お~~そうじゃな〜〜。う~んとなぁ〜。」



そう言ってうんうんと頭を悩ませるキョウカさん。何かいつもよりもふわふわした感じでかわいいな。



「特にワシが感心したの金剛ルナかの〜。入学時点では考えられん程に強くなっておったわ。」



あちゃー。主人公くんはお眼鏡に叶わなかったか?確かに金剛は前より大分強くなったけどね。



実際、身体強化によるパワーと雷を用いたあのスピードは反則レベルに強い。というか一年生の中ではトップクラスだろう。



「北条とかはどうでした?あいつの魔法は唯一無二ですし珍しいと思うのですが。」



一応北条のことも聞いてみる。今のキョウカさんは酒で忘れている可能性があるからな。



「あ~?あぁ…あいつな。確かに大分珍しい魔法じゃったなぁ。ワシの魔法を初見で防ぎきったから驚いたわ。」



へぇ…そんなことがあったのか。キョウカさんの魔法を防ぐなんて、中々やるじゃないか。



「まぁキョウカさんは手加減していたわけですしね。それでも初見で防ぎきったのは凄いことですけど。」



「あったりまえよ〜!ワシが本気を出せばあんな魔法チョチョイのチョイじゃ!」



ほっ。良かった。どうやら主人公はキョウカさんのお眼鏡にかないめでたく顔を覚えてもらったようだ。



コレをキッカケにしてどんどんと交流を深めていって欲しい所である。





それにしても…テンカは本当に喋らんな。もしかして寝てるのか?



ここからじゃ顔も俯いていて寝ているかどうか分からない。



「お~い。寝てるのか〜?」



ツンツンと頭をつついてみる。



するとパシッと俺の手を払い除けて俺のことを睨みつけてきた。



だが、酒が入っているせいで目が据わっていて全く怖くない。



「何よ……。寝てるわけ……ないじゃ……」



そう言いつつも段々と言葉が尻すぼみになっていくテンカ。



「お~い。テンカさ〜ん。」



目の前で手をフリフリしてみるが反応が無い。





「……ぐう。………ZZZz。」





いや「ぐう。」じゃないが。



どうやら俺と話しながら寝落ちしてしまったらしい。



どんだけ酒が弱いんだ…。






「──ところで…なんじゃが…。」





─そんな風に俺がテンカで遊んでいる時だった。



キョウカさんが突然真剣な表情を浮かべて俺の目を覗き込んでくる。



酒のせいか目が潤んでいてとても艶っぽい。



キョウカさんの頬が紅潮していることもあって少しドキッとしてしまう。



「のぅ…アラタ…。聞けばこの前お主は『宣言』を使ったようじゃな?」





……何だその話か。突然真剣な顔になるもんだから何事かと思ったぜ。





「そうですね。生徒達が戦う前から諦めているのが何か勿体ないと思ってしまって…。」



「ほ〜ん。勿体ない…のぉ…。」



納得がいかない。そんな表情をするキョウカさん。



何だ?何がそんなにお気に召さないのだろうか。確かに『宣言』自体は滅多にするものではないが、これは弥勒院家の問題だ。特に口を挟まれる筋合いはないはずだが……。



キョウカさんはポツリポツリと言葉を続ける。



「勿体ないからとかいう理由で『宣言』を使うアホがいるものか…。アラタに限ってはそれはあり得ないしそれは本心じゃないんじゃろう。」



ギクッ…



痛い所を突かれたな…。



本当の所は俺が勝ちを確信していて、このイベントで勝った方が今後の都合が良いからだし。



実際生徒達の都合とかあんまり考えていなかったため、そう言われると少し苦しい…。



「いや…本当に俺は本心からですね……」



「いや…良いんじゃ…。分かっておる。」



俺の言葉を遮り「分かっている。」とそう言うキョウカさん。



え……?



もしかして……バレてる……!?





「アラタ……お前…本当は…。実のところは──






 ──《未来視》で何か見たのではないか?」






眉をひそめ、捻り出すようにその言葉を口にするキョウカさん。



?????



《未来視》……?



一体何のこと……ってああ!



原作知識による展開の先読みをカモフラージュするために俺がでっち上げた魔眼のことか!



あれ以降特に話にあがる機会がなかったし完全に忘れていた。



「おそらく…この『陰陽大祭』で勝たねばならぬ事情があるといった所か…。違うか?」



そう尋ねてくるキョウカさん。



確かに『陰陽大祭』では優勝しておきたいのが本音だが、そこまで切羽詰まった様なものじゃない。



「………よくわかりましたね。」



だが、何かいい感じに深読みしてくれたっぽいからなんとなくその設定に乗っかってみる。



「………!やはりか…!」



案の定、といった感じで納得するキョウカさん。しかし、キョウカさんは悲しそうな表情を浮かべている。



どうしてそんなに悲しそうな顔をするのだろう?俺まで悲しくなるからキョウカさんには笑顔でいてほしいものだが……。



「お主が…アラタだけが傷つく必要はないんじゃ…!《未来視》は負担が大きいのだろう!?ワシにも…ワシにも何か手伝わせてくれ…!」



鬼気迫る表情でそう真剣に訴えかけてくるキョウカさん。



しかし……負担云々とか何の話だ?心当たりが全くない。



一体いつからそんな話になったんですかねぇ…。





いつの間にか俺が自分を犠牲にして《未来視》を発動させる立派な人間になっていた件について。





「『陰陽大祭』でお主の『黄陣営』を無条件に勝たせることはできんが……。ワシに何か手伝えることはないか…?」



あぁ…だから今回の合宿にも来てくれたのか。普通に楽しそうだから遊びに来たのかと思った。



だとするとキョウカさんはそこで座ったまま幸せそうに寝ているテンカから『宣言』や合宿の話を聞いて、俺を手伝うためにわざわざ休日に生徒の指導をしてくれたのか。



『陰陽大祭』は世間の目もあるし不正をするわけにはいかないから直接的な加担はできないが、間接的に『黄陣営』を手伝うことならできるっていうことだな。





ありがたいなぁ…。





何か勘違いをしているっぽいが、その心遣いに関しては本当に嬉しいと思う。



「もう十分手伝ってもらってもいますよ…。キョウカさんには本当に助けてもらっています。」



だから俺はそう言って笑顔で心からの感謝を伝える。



「……!アラタ……!」



その言葉を聞いてキョウカさんは顔をパアッと明るくし、こちらに近づいていくきて──





ガバっ





「えっ…。」



酒が入っているせいか、感極まってこちらに抱きついてくるキョウカさん。





うえぇぇぇえええ!?





なっ何事!?



キョッキョウカさんが俺に……!



何がとは言いませんが当たってますよぉぉぉ!



キョウカさんに抱きつかれて思わずテンパってしまう俺。



まずい…!このままでは何か問題が起こってしまうかもしれぬ…!



「アラタぁ…。」



俺の胸に顔を埋め俺の名前を囁くように呟くキョウカさん。



おうふ。



こ〜れ、やばいです。



逆に考えるんだ…。問題が起こってしまってもいいさと。



いやダメだろ。



もはやまともな思考ができなくなっている。





──そんな風に俺が崩壊しかけている自分自身の理性と戦っている時だった。






コンコンコン──






「えっ?」



ノックが鳴り響き扉の外から声がかかる。



『ご当主様。カエデでございます。お夜食などいかがですか?』



カエデさんの声によって一気に現実に引き戻される俺。



「あっ、ああ!じゃあいただこうかな!」



「あっ…。」



ドアを開けるためにキョウカさんから離れることに成功した俺。






あっぶねぇーーー!



何だか知らねぇが助かったぜぇ……!



慌ててドアを開けるとそこには、心なしか冷たい表情をしたカエデさんがいた。



あれ…?何か怒ってる?



「カエデさん。……どうされました?」



「いえ……小腹が空いていましたらお夜食などいかがですか……と思ったのですが。」



冷淡な口調でそう答えるカエデさん。



やっぱり怒ってる……!



俺何かしたっけ…?



「カエデさんの作るご飯は美味しいですもんね。是非いただきたいです。」



ピクッ



俺がそんなふうな言葉をかけると、一瞬眉をピクッと反応させたカエデさん。



「そうですか……。それは素直に嬉しいですね。それでは丹精込めてお作りいたしますので少々お待ち下さい。」



少し表情が柔らかくなったカエデさん。



これは機嫌が治ったってことでいいのか…?



「あっ、そうだカエデさん。カエデさんも一緒に飲みませんか。テンカも寝ちゃったしカエデさんがいたらきっと楽しいと思うんですよね。」



先程のことがあって少しキョウカさんと二人きりは気まずいからカエデにも来てほしい。


テンカはスヤスヤと寝ていて役に立たないしな。



「……!それは……是非お邪魔させていただいてもよろしいでしょうか。」



「はい!是非!」



夜食を作りに行ったカエデさんを見送り、無事に飲みに呼び込むことに成功したのにホッとしつつ部屋に戻ると、そこにはふくれっ面のキョウカさんがいた。



あれぇ〜?今度はこっちがご立腹か〜?



「キ、キョウカさん…怒ってます?」



「いや、怒っとらんが…。」



そう言いつつも俺と目を合わせようとしないキョウカさん。



絶対怒ってんじゃん…!



一体どうしてだ?俺は訝しんだ。







──────────────────────


「たまたま」都合よくノックがされたことで助かったクソボケアラタくんなのでした。


それと、今回みたいなのはあざとすぎてキョウカさんっぽくないかなぁ〜とか思いつつも、大切な友人が自身のあずかり知らぬ所で傷ついていたらこれくらい心配するかなぁと。


さて、とうとう『陰陽大祭』本番ですね。


盛り上がるように頑張ります。



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