第8話─弥勒院家の家族たち
足早に訓練場を去る俺─弥勒院アラタ。
駐車場に停めてある自家用車に乗り込み、周りに誰にもいないことを確認してから大きくため息をはく。
「はぁ~(クソデカため息)。つっかれたぁ〜。」
先程までの金剛ルナとのやり取りを思い返して再びアラタはため息をつく。
「はぁ~(超クソデカため息)。」
先程までの金剛との訓練はまぁ、中々上手くいったのではないだろうか。うまいこと金剛の本来の魔法の使い方を教え、さりげなく主人公との仲を取り持ってやる。
我ながらパーフェクトコミュニケーションだ。
だがしかし、その成果とは別に精神的な疲労が身体に蓄積されていた。
なんだかなぁ~。やっぱり原作キャラとの関わりは精神的に疲れるなぁ〜。それが原作にないイベントならなおさら。
あぁ、はやく原作にあるイベントが来てくれないものか。切実にそう思う。原作イベントならば俺のセリフは決まっているし、ただの台本読みbotになればいいものを。おのれ金剛ルナ、許すべし!!
この後は…主人公が寮ぐらしで身の回りの日用品が足りないからと、買い出しに出かけその出先でクラスメイトと遭遇する等のイベントがあるのだが…
まぁ特に介入すべき重要な案件でもないし、勝手に主人公が上手くやるでしょ。
だから俺は帰る!!主人公の行動を見守って、さりげなくヒロインに根回しして(できてない)、なんて…転生者忙しすぎるだろ!!
やってられるか!!
こうなったら原作をぶち壊して、何もかも破壊し尽くして…
おっと危ない。危険な方向に思考が回っていた。反省☆反省☆。なまじ今の俺には実力的に可能なのが恐ろしいよな。
どうしてこうなった(自業自得)。
…と言いつつ車を自ら運転しているところ、街の中心部である繁華街に差し掛かり、アラタは横目に主人公の存在を確認した。
「…あ。主人公いるじゃん。一緒にいるのは…よし。原作通りだな!えがったえがった。」
これで心置きなく帰れるぞ〜。心の中でそうひとりごちり、家への帰路をウキウキで運転したのだった。
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──────
バタン…。
車のドアを閉じ、鍵をかけると、俺の帰宅に気づいたのか使用人が並び、俺の帰りを待っていた。
「「「おかえりなさいませ。ご当主様。」」」
「あぁただいま。…毎回言ってるけど、そんな並んで待ってなくてもいいよ?」
そう、毎回並んでいるのだこいつらは。
それ以外にも俺が何かものを落としたらすかさず拾うし、「〇〇いいなぁ〜」と軽く言おうものなら数日以内にそれは俺のものになっている。
なんか…気を使わせすぎて悪いことをしている気分になる。逆に心が休まらないのだが。
「そうおっしゃらないで下さい。我々はご当主様にお仕えできて光栄なのです。嫌々やっているような者は一人もございません。」
使用人を代表してメイド長のカエデさんが言う。
ふ~んそうなん。なんかそれは悪い気しないけど。
まぁ、どーしても俺に仕えたいって言うんなら?仕えさせてあげないことはないけど?的な?
カエデさんはかわいいし。黒髪ショートカットスコスコのスコや〜
「そうか。」
別に照れてねぇし!!
それにしても…さっきの自宅の駐車場に停まってた車といい、先ほどから慌ただしく動いている使用人といい…
来てるな…これは。
「カエデさん…もしかして…。来てる?」
俺のその言葉にピクッと反応し、少し間を置いてから答える。
「……はい。前ご当主様がおいでなさってます。どうやら今回は──」
バンッ!!
「おお!!アラタ帰ってきたか!!」
クッソジジイ〜。帰って来んなやボケ~。
前当主であり俺の実の父である弥勒院クヌギがドアを勢いよく開け、俺の目の前に現れる。
何と言うか、このジジイは思考が古臭いのだ。
使用人は同じ人間と思っていないし、女は夫の3歩後ろを歩いて男を立てるべしと本気で思っている。そういう男だ。
根本的に俺と考え方が合わない。だからこそ俺が当主になった際に別荘を建て、親父の好きそうな趣味探しにもわざわざ付き合って、そんな親父にとって天国のような環境で二度と表舞台に出てこないように隠居させているというのに…
事あるごとに、別荘からこちらに突撃しいろいろと言いたいことをまくし立てては満足そうに帰っていくのだコイツは。
「父さん。一人でどうしたの?母さんは一緒じゃないの?(監視役の母はどこ行った!一人であんまウロウロすんなボケ!!)」
「おお。母さんな!あんまアラタに迷惑をかけてはいけませんよとかゴチャゴチャ抜かしよるから、友達と出かけてる間に抜け出してきたわ!!」
こ、コイツは〜(怒り)
「そっか。母さんには後で謝らないとね。それで、父さん僕に何か用かい?これでも結構忙しいんだが…。(あんまり母さんを怒らせんなよ〜。怖いんだから。それに何も用がないんだった帰れよ?ん?)」
使用人が俺の言外に込めた意味に気づいているのか、父クヌギとのやり取りをハラハラしながら見ている。
「今日はな!お前にお見合いを持ってきたんじゃ!」
……は?
「……は?」
「お前ももうええ歳じゃろうが。ええ加減結婚せぇや。何人か母さんと見繕ってきたからこの中から選べや。」
そう言ってカエデさんに親父はお見合いの資料を次々と渡していく。
「ちょっ!ちょっとまってくれ!俺の結婚云々に関する話は俺に全て委ねてくれって、17歳で当主を交代する時に代わりの条件として誓ったろう!その約束を反故にするのか!?」
そうなのだ。早すぎる当主交代に俺は猛反対した。何よりも原作と違うしね。
でも俺以外の周囲の人間─父・母・弟・使用人・分家の人間まで─皆が賛成するもんだから渋々その話を引き受けたのだ。
しかしながら、タダでは転ばぬと思って日本国立総合学園で教師になることや結婚相手は自分で決めることなど諸々の約束を取り付けたのだが…
「そうは言ってもな〜。お前人気だし。次々と見合いの話がこっちに舞い込んできての〜。鬱陶しいからお前に一度見合いを受けさせに来たんじゃ!」
鬱陶しいってお前…ちょっとは本心隠せよ!
「大丈夫。大丈夫じゃ〜。何もこの中から決めろとは言わんから。あくまでも見合い話をいくつか消化しましたよ〜っていう、外向けのポーズじゃから。」
「そうは言ってもなぁ…。約束だし…。」
一度約束を反故にされたら、次からは他の約束も平気で破ってきそうで怖い。い〜やコイツはやるね!絶対に!!
「っかーー!女々しいのぉ!カエデ!お前もコイツはそろそろ結婚すべきと思わんか!?」
クソジジイの矛先がカエデさんに飛ぶ。かわいそう(小並感)。
「ええっ!わ、私ですか!?ええっとー。そのー、ですね。」
カエデさんが俺と親父の間に挟まれて目をグルグル回しながら必死に答える。
「と、当主様は素敵な方ですので、相手がいらっしゃっても不思議ではないなぁ〜とは思いますが…。」
すっごい、ぼかして答えたな。
まぁそうするしかなかったんだろうけど。後なんか顔が赤い気がするが気のせいか。
そしてカエデさんが何かを思いついたようにハッと顔を上げる。
「あっ。…当主様は今日本国立総合学園に通われてなさりますし、そこで良さげな相手を見繕うというのは…どうでしょう、か……。」
う~ん。まぁ、そこら辺が落としどころか?あまり欲張っても良くないしな。ここはカエデさんの案に乗っておこう。
「そうだな。それがいい。父さん。俺は職場で積極的に相手を探してみるからそれで納得してくれないかな。」
はい。嘘で〜す。そんなの探しませ〜ん。
「うーん。まぁそれなら……。じゃが、遅くとも5年以内には見つけろよ!!期限は30歳の誕生日だ!!」
ッチ!期限を付けてきやがったか…。
まあいい。そんなの嘘の相手をでっち上げたり、今からいくらでも細工できるしな。どうとでもなるだろう。
「…あぁそれでいいよ。30歳までに相手をみつける。これでいいかい?」
「うむ!よし!」
ジジイは満足そうに何度も頷いた。そしてなにかに急かされるように急に動き始めた。
「では!!言うことは言ったし、ワシは帰る!!」
バタバタバタ……
そう言って慌ただしくクソジジイは帰って行った。毎度毎度嵐のようなジジイだ…。二度と帰ってくんなよ〜。
「よし。行ったか…。」
「はい。お疲れ様でした…。」
親父の去った後、カエデさんとそう互いの健闘を称え合う。
「いや、カエデさんが一番疲れたでしょう(本当
に)。俺と親父の間に挟まれて。」
「はい…あれは…。少し、大変でした。どうしようかと…。それで、ご当主様。結局どうなさるつもりなのでしょう。私の言ったことでございますが、あんな簡単に決めてしまってよかったのでしょうか…。」
カエデさんが申し訳無そうにそう聞いてくる。
カワイイ。自分が言い出したことだから責任を感じているのだろうか。
「いや、あれは悪くない落としどころだったよ。ファインプレーだね。」
カエデさんは俺の言葉を聞いていくらか表情を柔らかくする。
そんな笑顔なカエデさんもカワイイナリなぁ〜。今後もクソジジイから守ってあげるからねぇ^ ^
それに…
「それに…カエデさん(じゃなくてもいいけど誰かと)と結婚(するフリでも)すればいいと俺は思っているからなぁ〜。だから何も問題ない。」
「えっ…。それって…。」
急にうつむき、下を向くカエデさん。およ?どうしたんや?
「わっ…。」
「わ?」
「わーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「えっ!な、なに!?」
「わーーーーっ!!わっーーーーーーーー!!」
急に奇声を発し走って逃げていくカエデさん…。本当にどうしたんだ!?
「な、なんだったんだ……。」
その疑問に答えるように使用人でメイドの一人が言う。
「ご当主様…。前から思っていましたが本当にクソボケですね。」
(´・ω・`)
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