第31話 氷の女王、来訪!! 前編
翌日、日曜日。
理由もなく巡凪先輩に駅前まで呼び出され、僕は買ったばかりの服を着て身支度を済ませた。
今日の僕はジーンズに無地の黒いTシャツ。
ジーンズに無地の黒いTシャツだ!!
これならば間違いない。謎の英語がたくさん書かれた謎Tシャツよりマシのはず。
ちなみにアレは捨てた。
ていうか中学時代から僕のタンスに居座る古参どもはすべて焼却した。
「あにちゃん」
妹のサアヤが部屋に入ってきた。
「またお出かけ。近頃構ってくれない」
「お兄ちゃんは忙しいんだ」
「うぅ、心臓が痛い。頭も。お腹も痛い気がしてきた。でも一番痛いのは……心」
「サキュバスなんだから死なないだろ」
「あにちゃん専用サキュバスは一日100回あにちゃんエネルギーを摂取しないと死ぬ」
「燃費悪すぎるだろ。生きることを諦めるしかないな」
「いひひ……そんな酷いこと言って、あたしが死んだあと後悔するんだ。そして毎晩あたしのパジャマを抱きしめながら発情する」
「お前の中のお前いっつも死んでるな」
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駅にはすでに先輩がいた。
半袖の青いワンピース。
道ゆく人々が、男女問わず先輩に見惚れている。
「あっ!! アヤメくーん!!」
大声で僕を呼ぶな。
恥ずかしいだろ。
周りの男たちの話し声が聞こえてきた。
「彼氏?」
「弟だろ」
「悲惨なくらい似てねー」
悪かったな悲惨なくらい似てなくて。
つーか弟でもねぇよ。
「すみません、遅れました」
「平気よ!!」
「それより、今日はどうしたんですか?」
「えっとねー。特に用事はないの。ただなんとなく、ふたりだけでゆっくり話がしたくて」
「ふたりだけ……」
「ダメ?」
首を傾け、尋ねてくる。
ダメではない。ないが……もう心臓がバクバク高鳴っている。
「いいですけど、どこで?」
「うーん、お金もないし……。あっ!! 私の家はどうかしら?」
「先輩の家!?」
「うん。ここから遠くないし」
それはマズイ。
マズイマズイマズイ。
僕はゴキブリと同等の価値しかない人間だぞ? 実質害虫。そんなもんが先輩の家の敷居を跨いでいいはずがない。
というか、もし先輩の家でくつろいじゃったらますます先輩のことを……ごめん、なんでもない。
「勘弁してください。僕は知り合いの保護者に認知されると萎縮しすぎて素粒子の世界に入っちゃうんですよ」
「一人暮らしよ?」
「余計にダメです!! 密室にふたりきりなんて……は、ハレンチです!!」
恥ずかしがり屋な委員長キャラか僕は。
先輩が不満そうに唇を尖らせる。
どこか、照れた様子で。
「私は……アヤメくんと密室にいてもいいし、ハレンチなことだって……」
「え……」
「む〜。なんでもないわ」
「そ、そうだ。なら僕の家にしましょう」
妹や母さんがいるが、ふたりきりよりマシだろう。
たぶん、ものすごく面倒くさい事態になるだろうが、最悪思春期高校生らしく怒鳴って部屋に引き篭もればいい。
晩飯の量減らされるけど。
「くふふ!! わかったわ!! アヤメくんの家に行きましょう!!」
一応、母さんに客が来ることを伝えておく。
くだらない冗談だと思われたようだが。
僕だって冗談であってほしいっての。
「くっくっく、アヤメくんの家♡♡」
ルンルンな先輩と肩を並べて歩き、マンションへ。
玄関扉を開けると、サアヤが包丁を手に待ち構えていた。
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※あとがき
次回、ついにサアヤvs先輩……。
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