第9話 ダブルデート② 不法侵入
バスに乗ってモールを目指す。
ユーイチロウと霧素が並んで座って、その後ろに僕と巡凪先輩だ。
今回、僕がやるべきことはワザとらしく先輩とイチャイチャすること。
ユーイチロウに見せつけて、嫉妬心を煽るのだ。
前の座席でユーイチロウが隣の霧素に話しかけた。
「霧素、あそこのフードコートにモスバーガーができたらしいよ」
「モスバーガー? この前食べたマクドナルドとは違うのですか?」
「ははは、じゃあお昼はそこにしようか」
こっちにも同意を求めろよ。
モスバーガーアレルギーだったらどうするつもりだよ。
大好物だけど。
窓際に座る先輩の横顔をチラ見する。
ボーッと、外を眺めていた。
「先輩?」
「あ、ごめん。窓の外で忍者が走ってる妄想してたわ」
僕もするけど、電車とか乗ってるときに。
てかユーイチロウに集中してくれよ。僕はあんたの恋のキューピットなんだから。
「先輩、一応作戦を考えてきました。今日一日、先輩は僕にだけ話しかけて、ユーイチロウには塩対応でお願いします」
「塩対応?」
「そっけない感じです。冷たいというか」
「わかったわ。じゃあ……なにを話す?」
「えっ……」
組織のことは……さっき話したか。
じゃあ他には、なんだ?
流行りの音楽はAdoと米津の有名なやつしか知らないし、芸能関係にも疎い。
ならアニメとか映画とか……とりあえず鬼滅か? 鬼滅の話をしておくのが無難か?
「先輩、鬼滅の映画みました?」
「きめつ?」
「知らないんですか? 刀持って鬼を狩るアレですよ。水の呼吸・壱の型のやつです」
「くふふ、鬼って。ファンタジーね」
あんたにだけは言われたくないんだよ。
てか妖怪の存在は認めるのに鬼は認めないのかよ。
鬼も妖怪の仲間なんじゃないのかよ〜〜!!
「面白いの?」
「そっすね。時間と金をかけてるだけあって、クオリティはガチっす。特に映画はどれもエグいですね。僕、炭治郎みたいなタイプの主人公は苦手なんすけど、やっぱり声優さんの熱演のおかげというか、台詞回しの力というか、炭治郎がキメるシーンは胸に来るというか、熱くなりますね。もちろん、原作自体も面白いですよ。ガンガン話が進んでテンポもいいですし」
「おぉ〜、珍しくアヤメくんがたくさん喋ってるわね」
「っ……」
しまった。
こいつアニメの話になるとお喋りになるな、とか思われた。
興奮すると早口になるオタクのこと内心見下していたのに、僕がそれになってしまうとは。
「そんなに面白いのね。なら、今度見に行きましょうよ」
「え」
「4人で。どう?」
4人か。
そりゃそうだよな。
なにドキッとしてんだ僕は。
「でも映画は原作の途中なんで、まずテレビアニメ版から入らないと。あ、でも総集編があるから……。サブスク登録してます?」
「サブスク?」
「うーん、じゃあどうしよう。僕が登録しているんで、僕のアカウント使って先輩のスマホでも観れるようにできます。って、わかんないか」
「よくわからないけど、こうすればいいんじゃないかしら?」
「はい?」
「アヤメくんの家で観る」
「えっ!?」
「ダメなの?」
「ダ……ダメです。僕の家、橋の下のブルーシートなので」
どんな嘘だ。
「ていうか、ダメでしょ。あなたの本命はユーイチロウで、僕はしょせん偽彼氏なわけですし。たとえ一応は恋人であっても、不埒というか、浮ついているというか。……サブスクの登録なら僕があとでやってあげます。家にWi-Fiありますか? 無いならフリーWi-Fiのとこでダウンロードすればいいです。あと僕の家、引きこもりの妹がいるので。関係ないですけど」
「…………」
ぐぐぐぐぐぐっ!!
またやってしまった。
こいつ興奮すると早口になるオタクだなって100%バレた。
そうだよ、早口オタクだよ。だからなんですか!?
「くっくっく、アヤメくんのこと、だいぶわかってきたわ」
「そっすか」
「アヤメくんって、理屈っぽいのね。くふふ」
愉快そうに、先輩が笑った。
熱い、顔が一気に熱くなった。
「あとアニメが好きで、ネットに詳しい!!」
うるさいうるさいうるさい。
僕を知るな。理解するな。学習するな。
踏み込んでくるなよ、偽の彼女なのに。
どうせ僕をからかうだけからかって、勝手にどっかに行くんだろうが。
散らかすな、僕の心の部屋。
「あと、照れ屋ね。顔がすぐに赤くなる」
「そんなことないです」
「私と同じね」
「どこがだよ!!」
どこがだよ!!
「どこがだよ!!」
やべ、バスの乗客全員の注目を浴びてしまった。
だって、だって。
「どこがだよ……」
それから数十分後。
僕たちはバスを降りて、地元から一番近いショッピングモールに到着した。
正直もうぐったり。帰りたい。
「うわーっ!! 人がいっぱいね!! アヤメくん!!」
「はじめて来たんですか?」
「えぇ、昼間のモールははじめてよ!!」
夜だけしか来ていないってこと?
なんで? うーん、たぶん謎設定関連なのか?
先輩が駆け出していく。
続くようにユーイチロウ、霧素。
少し離れて、僕も。
ん、スマホにメッセージ。
【あにちゃんがいない土曜日、泣きそう】
無視することにした。
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※あとがき
ちなみにアヤメくんが鬼滅で一番好きなキャラは悲鳴嶼です。
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