第16話 モブじゃない男の望み
たとえ異能バトルが実在しようが、僕の周りに奇妙奇天烈な連中が集まろうが、バイトは無くならない。
霧素と別れたあと、僕は感情のないロボットへと成り果てて、レジとホールを行ったり来たりしていた。
「末永くん、湯白ちゃんは?」
店長に話しかけられた。
「え、来てないんですか?」
「そうなんだよ。家に電話しても出なくてさ。あの子スマホ持ってないでしょ。まいったなー。真面目な子だから、サボりではないと思うんだけど」
異世界やらSOBAやらが関係しているのだろうか。
霧素に聞けばわかるか? でも僕、あいつの連絡先知らないしな……。
一抹の不安を抱えながら、バイトを終える。
なんとなく、巡凪先輩と出会った小道に寄ってみる。
誰もいない。
先輩、いまなにをしているんだろう。
ただの恋愛相談だったはずなのに、とんでもないことになってきたなぁ。
僕の家があるアパートまで自転車を漕ぐ。
途中、コンビニで妹のためにミルクティーを買った。ちなみに僕はシスコンではない。
そして店から出た瞬間、
「こんばんわ」
ユーイチロウが現れた。
「え……」
彼の隣には、知らない緑色の髪の女性。
警戒するように僕を睨んでいる。
「逆の立場になったな。はじめて話したときと」
こいつ、なんでここにいる。
偶然? 制服姿だ。こいつもバイトをしていたのか?
「少し、話そうか」
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緑の髪の女性はユーイチロウと一言二言話して、いなくなってしまった。
「彼女は未来から来たのさ。宇宙人との抗争で家族を失ったんだ。……家族を蘇らせて宇宙人を殲滅したいらしい」
無視して、歩き出す。
自転車を押しながら、ひたすら夜道を歩く。
できれば可愛い彼女が隣にいてくれたなら嬉しいが、あいにくユーイチロウだ。
ていうかこいつ、僕になんの用なんだ。
「霧素とも仲がいいみたいだな」
「同じクラスだから。そんだけ」
「ふーん」
ユーイチロウと視線を合わせない。
さっきから僕は、ずっと下を向いている。
なのにわかる。こいつ、僕を見下ろしている。
「霧素も秘密主義みたいなところがあってさ。まぁつまり何が聞きたいかっていうと……君は何者なの?」
そうなるよな。
いきなり現れたぽっと出の男子。
一般人とは思えないよな、シチュエーション的に。
「何者って、普通の高校生だけど」
「普通の高校生は普通の高校生とは名乗らないものだよ」
だとしても普通の高校生なのだからしょうがない。
周りが普通じゃないだけで。
「戦えば、わかるかな?」
「戦う? スマブラなら得意だけど」
「くく、面白いな。でさ、ぶっちゃけ……霧素からどこまで聞いた? 巡姉ちゃんはなんで検査を受けている?」
「…………」
こいつは知らない。
先輩こそ神の娘であることを。
組織のエースだが、信用されていないんだ。
他の勢力とも繋がりがあるから。
うわ、僕ってば自然と異能バトルの住人みたいな思考してる。
「知らないよ」
「だよね、君は何も話さないと予想していたよ。じゃあ逆に俺から一つ教えよう」
「?」
「ピユシラ……。今は湯白か」
ユーイチロウが突然僕の肩を抱き寄せた。
口を耳元に近づけ、ささやく。
「彼女にはもう会えないよ」
「は?」
「この街は、特に学校は戦闘禁止区域だからさ、決まりを破ったピユシラに、罰を与えたんだ」
「な、なにを……」
ゾッとする。
寒気がする。
鳥肌が立っているのがわかる。
湯白に、会えない?
元の世界に帰った? 監禁されている?
それともーー。
「ピユシラとも仲が良いんだな。やっぱり君は普通ではない。もう一度聞く、巡姉ちゃんはーー」
「湯白に何したんだよ」
「そう大声を出すなよ。近所迷惑だ。……俺はさ、ある日当然すべての異能の力を授かって、それからいろんな種族や人間と交流を深めたんだ」
「自分語りすんな!!」
「そこでたくさん恋愛もした。悲しい想いもしてきた。みんな、それぞれ事情があって生きている。大切なモノのために、神の娘を欲している。たとえばそう、さっきの子や、湯白のようにね。ーーそして思ったんだ。俺は、みんなを幸せにしたい。可能な限り大勢の人間が幸福になるエンディングを目指したいって。そのために……神の娘の力を使いたい。その気になれば、誰であろうと、どんな力を持っていようと、一瞬で存在ごと消せる奇跡の異能。さらに望む物を生み出すこともできる」
ユーイチロウが俺を突き飛ばす。
地に伏し、こいつを見上げる。
「俺は神に等しい存在になりたい。悪を抹殺し、弱きを救う神に。みんなが幸福になるために。なのに霧素は協力してくれない」
「ふざけんな天パ野郎!! お前の独善に付き合ってられないんだよ!! 湯白をどうしたんだ!!」
「俺は考えていた。ずっと疑問に思っていた。霧素は本当に神の娘なのか? 神の娘は実在する。それは間違いない。だって、ほぼただの一般人だった俺が、いきなり様々な異能を使いこなせるようになったのだから。組織も、神の娘の力によるもので間違いないと言っていた」
いい加減にしろ。
我慢ならず、胸ぐらを掴もうとしたのだが、呆気なく腕を弾かれてしまった。
「あの日、偶然にも巡姉ちゃんがピンチのときに遭遇して、俺は能力に目覚めた。なぁ、どう思う? もしかしてさ、神の娘は……」
「黙れ」
殴りかかるも、簡単に避けられてしまう。
くそ、しょうがないだろ喧嘩なんてしたことないんだから。
「もし俺の推理通りならこれほど喜ばしいことはない。霧素と違って、巡姉ちゃんは扱いやすいからね。いや、むしろ俺が上手く使ってやるべきだ」
自分を好いてくれる女の人に、なんて物言いしやがる。
「考えてもみろ。とても神とは程遠いほど無知な巡姉ちゃんが力を暴走させたら、世界はきっとぐちゃぐちゃになる。俺が代わりにコントロールしてやるしかない。なぁ末永、真実を知ってるなら教えてくれ。俺の理想に共感できないか?」
できるわけないだろ。
「聞く耳持たずか。はぁ、もういいよ末永。もともと期待していなかったし、帰る」
「おい待てよ!!」
「わかったよ、さすがにこのままじゃ君が幸福になれないからな。安心しろ、彼女は死んじゃいない」
生きている?
よかった、最悪のケースは避けられた。
なのに会えないということは、どこかに閉じ込められているのだろうか。
「じゃあな末永。記憶は消さないでおいてやるよ。友達になったよしみだ」
ユーイチロウが手をかざす。
その手が眩く光る。
光が止むと、ユーイチロウの姿は消えていた。
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※あとがき
終盤に入ります!!
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