第6話 神の娘の裏の顔

 今日で二度目だ。

 謎の転校生、家須霧素の発言に驚かされたのは。


「先輩とユーイチロウが、嫌い?」


「はい」


 笑顔で即答されてしまった。

 どういう意味だ。

 なぜ嫌いなのに彼氏だと言い張ったんだ。


 家須霧素。

 こいつは何を考えている? 感情が読めない。

 その眩しい笑顔すら、作り物に見えてくる。


「ウザいですよねぇ、どっちも」


 クラスメートたちと話しているときと違う、低い声だった。


「ユーイチロウさんは優柔不断な日和見野郎。巡凪さんは能天気なおバカ。なーにがクイーン・オブ・アイスマンだよって感じじゃないですか? 男なのか女なのかハッキリしろよ、みたいな」


 完全に同意。


「巡凪さんはまだ愛嬌があるのでギリギリ許せますけど、ユーイチロウさんは……ふふふ、死んじゃえよ。ですね」


 驚いた、これが家須霧素の本性。

 こんなに口が悪くて先輩を嫌っているのに、どうして……。


「わかった、巡凪先輩の妄想に嫌々付き合わされているんでしょ」


「近からず遠からずです。ていうか……末永さん、本当にいろいろ教えてもらっているようですね」


 勘のいい女だ。

 別に、絶対に秘密にすべきことじゃないけどさ。


「一般人が我々の情報を得てしまうことは、稀にあります。ですが不思議ですね、巡凪さんはきちんと記憶処理をするタイプなのに」


「力が回復していないらしい。あと、僕の前で謎設定の話はしないでほしい。疲れる」


「信じていない様子。当然ですね」


「なら君が僕の記憶を消してみればいい」


「残念ながら、わたしには催眠系統の念波は送れないのです」


 ほら、結局言い訳して逃げる。

 こいつも先輩と同じだ。

 嘲笑うつもりはないが、信じてやるほど僕は寛容じゃない。


「それで? 君はどうしてユーイチロウと付き合っているの?」


「彼がとても危険な存在だからですよ」


「危険? ふーん。なるほど、彼女のフリしてコントロールしてやろうってわけか」


「彼に接近する各勢力の女性たちも、同じ考えでしょう。だからこそ、巡凪先輩の恋の成就は不可能だと念頭に入れておいてください。わたしのそれは恋愛感情ではなく、任務なのです。嫌いだからこそ、絶対にユーイチロウさんを手放すつもりはありません。これまで耐えてきたわたしの精神に報いるためにも」


 それのどこが有益な情報なんだよ。

 あぁなるほど、確かに予め不可能であることを知っておくのは有益か。


「それを教えて、僕にどうしてほしいんだ」


「わたしの邪魔をせず、適当にやってくださいって話です」


「君は守られる側なんでしょ? 神の娘だとかなんとか」


「ふふふ。『守られる』と『監視する』は両立するんですよ、末永さん」


「そうかい。けど残念ながら、僕は今の話を素直に聞き入れて先輩に報告する気はないし、活動の方向性を変えるつもりもない。何度も言うが、僕は君らが演じる20年前のライトノベルみたいな設定には付き合いきれない。今は令和だ」


「では、どうして巡凪さんの応援を?」


「勢いと成り行きでそうなっただけ」


「そうなんですか? ほう、てっきり、偽彼氏を演じるフリをして巡凪さんの好感度を上げたいのかと。ほら、あるじゃないですか、恋愛相談をしながら横取りを狙う、みたいな?」


 バカを言うな。

 そりゃあ、先輩のように美人と仲良くなれたら嬉しいだろうが、僕にだって選択権はある。

 あんな電波さん、こっちからお断りだ。


「僕はできれば先輩と関わりたくないんだ」


 瞬間、家須が僕の腕を握った。


「なっ!?」


「よかったです。余計な仕事が増えないみたいで」


「よ、余計な仕事?」


「過度に巡凪さんと親密になる人間を、排除しなくてはいけないのです。同性ならともかく、異性はマズイ」


「は?」


 相変わらずの天使みたいな笑顔で、物騒なセリフを吐きやがった。

 排除? なんで、巡凪先輩と親密になった相手を?


「今の関係が最もバランスがよくて、安定しているんですよ。もし巡凪さんの心をかき乱したりなんかしたら……」


「意味不明なことばかり言うな。うんざりなんだよ、その謎設定。だいたい、君や先輩が記憶を消せないっていうなら、君らの組織の人間に、僕の記憶を消させればいい。そうだろ?」


「正論ですね。ですが、遠慮しておきます」


「な、なんで?」


「巡凪さんと同じように、わたしにとっても貴重なんですよ、ここまで事情を知っている部外者は。ここからわたしたちとどう関わり何を喋るのか、観察対象として面白そうです。組織の人間あるまじき行為ですけど」


 勝手に観察対象にするな。

 したって面白いものでもないぞ。


「わたしも、あなたにするかもしれませんね、恋愛相談」


「それこそ遠慮したいね。そもそも、君には好きな人がいるのかよ」


「実は末永さんのこと、ちょっぴり気になっているんですよね」


「ダウト。僕は前世からの呪いで女性に嫌われる体質なんだ」


「そういうのは信じるんですね」


「そう思ってないと心が辛い」


「ふふふ、ユニークな人ですね。弄びたくなっちゃいます」


 たぶん、心からの笑み。

 美少女を笑顔にして僕の自尊心がちょっぴり刺激されたけど、油断は禁物。

 こんな女、裏でイケメンに僕の悪口を言いまくって笑いのタネにしているに決まっている。


「僕はもう帰るぞ」


「あらら、そうですか。また会いましょう。……それからわたしのことは、霧素ちゃんとお呼びください。これからも仲良くしましょうね、末永さん」













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※あとがき

毒のある女の子……しゅき。

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