第4話 恋愛相談、はじまり!!
二人と別れて、家に帰る。
不愉快だな。モテる男は全員あぁなのか?
巡凪先輩はあいつのどこに惚れたのだろうか。きっと宇宙誕生の真理よりも究明不能だろうね。
この感じ、学園ラブコメを接種したときと同じだ。
頭のネジが外れた男と女の現実離れした恋愛模様を見せられたときのようなイライラ感。
「はぁ……」
やめよう。どうせ他人の恋愛だ。
僕には関係のないことだ。
異能バトルもラブコメも、僕の人生には存在しないものなのだ。
すべて妄想。ぜんぶ嘘っぱち。
スマホに電話が掛かってきた。
妹のサアヤからだった。
『あにちゃん、ミルクティー、忘れないでね』
「わかってるよ。いま買って帰るから急かすな」
『いひひ。なんだかんだ、あたしの面倒見てくれる。あにちゃん、優しい』
「言っとくが、大学進学と同時に僕は一人暮らしをするからな。いつまでも甘えるなよ。自立の準備をはじめておけ。靴を新調しろ」
『ついてく』
ついてくな。
どうしてこんなブラコンに育ってしまったのだか。
いい加減反抗期でも迎えて僕から距離を取ってくれないものか。
「なぁ、サアヤ」
『ん?』
「実は僕にはお前以外にも妹がいて、全員とラブラブだって言ったら、どうする?」
『いひひ……あにちゃんの妹はサアヤだけ。それ以外は…………消す』
「お前のガリガリボディじゃ無理だろう。1ラウンドKOで返り討ちだ」
『でも、がんばって、消す。毒とかで』
そうだよな、普通は嫌だよな。
好きなやつが、自分だけを見てくれないのなんて。
けど、だからってどうする。
僕が口を挟むことじゃないだろ。
スマホにメッセージが届いた。
巡凪先輩からだ。バーガーキングを奢ってもらう約束をしたから、連絡先を交換したのだ。
ちなSMS。ラインではない。
メッセージの内容は至ってシンプル。
次の土曜なら空いているということ。
ユーイチロウと正式に恋人同士になったということ。
「…………」
あぁもう、今日の僕はどうかしている。
振り返り、来た道を逆走する。
いた、まだあのふたり。のんきにお喋りしている。
「巡凪先輩!!」
「アヤメくん!? どうしたの? 忘れ物かしら」
「はい、言い忘れていたことが」
荒れる息を整え、ユーイチロウを睨む。
イケメン男子のユーイチロウくん。僕より20cmは背が高いユーイチロウくん。
確かめさせてくれよ、モテ男子にとっての恋愛ってやつを。
スーッと息を吸い、勇気を補充する。
「僕も先輩が好きなんだ。みんなハッピーエンドが良いっていうなら、先輩が僕とも付き合おうが、構わないだろ?」
「……」
言った、言ってしまった。
足が震える。ぶっちゃけ怖い。しょうがないだろ、誰かに面と向かって喧嘩を売ったことなんかないんだから。
「うん、もちろん。君が巡姉ちゃんとなにしようが、幸せなら問題ない。ただし、それが事実なら」
そうですか。
よくわかったよ。
お前にとっての「好き」がどの程度なのか。
「先輩、僕と帰りましょう」
「え? ちょ!?」
巡凪先輩の手を引き、速歩きでその場を去る。
ユーイチロウのやつは追いかけてこなかった。
数100mほど歩いたところで、巡凪先輩が立ち止まった。
「ま、待ちなさい。そろそろ説明してほしいわ」
「すみません。どうしてもあいつが気に入らなくて、嘘ついて横槍を入れちゃいました。でも先輩、世界を救っただとか様々な異能が使えるだとか、そんなもん抜きにしてもう一度よく考えたほうがいいですよ」
「……」
「あいつが愛するに値するのか、一旦冷静になってくださいよ。僕、このままじゃ心置きなくバーガーキングを食べれません。今の先輩なんかにオニオンフライを奢ってもらいたくないです」
「…………」
黙ったまま、先輩は視線を落とした。
怒らせたか? 何も知らないくせに偉そうだと、不愉快に感じたか?
僕だって自分の頭がおかしくなった自覚はあるよ。
だけど、抑えきれなかったんだ。
異能バトルだとか学園ラブコメだとか、存在しないはずのものに、干渉してみたくなったんだ。
「私も……わからないの」
「わからない?」
「言ったでしょ? 私、小さな頃から組織の中で生きてきたの。修行と勉強ばかりで、同世代の異性とは、これまでほとんど接したこともなかったって」
「あ、はい」
「恋愛の仕方なんて知らないし、デートもしたことがない。……ユーイチロウのこと、たぶん本気で好きよ。私の初恋。だけどあんなこと言われて、確かにショックだったと思う。恋愛経験がないから、ユーイチロウとの関係も、私の気持ちも、どうあるべきかわからないのよ」
「わからない?」
「そう、経験のない私には、今の自分自身の感情すら、わからない」
僕だって知らないよ。
男と女の恋愛なんて。
学園ラブコメアレルギーが発症するから、百合くらいしか接種してこなかった。
学校でイチャイチャしているやつを見下して、喧嘩や不倫で破局するとほくそ笑んでいた。
でも、でも、こう、言葉にできないんだが、気に入らないものは気に入らないのだ。
「先輩、ハッキリさせましょう。ユーイチロウの視線を独占したいですか? 他の女とキスしたら嫌ですか? 本心で答えてください」
「……イヤ、かも」
「かも?」
「イヤ、すごく嫌。ユーイチロウの青い目は、私だけを見ていてほしい」
僕は、何もユーイチロウとの恋路を邪魔したいわけじゃない。
ただ気に食わないだけなのだ。このままのふたりを放置するのは。
だから、納得のいく形まで持っていってやる。
「なら先輩がすべきことはただ一つ。このまま僕と付き合っていることにして、あいつを嫉妬させてやりましょう。本当の『好き』ってやつを教えてやるんです。あいつが先輩を独占したくなるくらい、恋の炎を爆発させてやりましょう。みんなが幸せになる? 好きな女が他の男と関係を持っても構わない? 僕はそんな恋愛認めません。モテるやつの余裕が透けて見えて実に腹立たしい。僕みたいな人間が、どれだけ努力しても彼女の『か』の字もできない苦労も知らないで。好きになった女が中々手に入らない苦悩をあいつの脳みそにぶち込んでやりましょう」
「う、うん!! 後半ただの逆恨みだったけど、わかったわ!!」
「そして絶対に浮気禁止だって条件で、改めて付き合うんです」
じゃなきゃ、あいつは平然と浮気しまくるだろう。
それはさすがに胸糞が悪すぎる。
「じゃあ、今日から私はあなたの恋人になるわけね!!」
「そ、そうです」
あれ、もしかして僕、取り返しのつかない選択をしてしまったのか?
場の空気やらコンプレックスの赴くままに、誤った道を選んでしまったか?
僕が恋人? 自称超能力者の電波女と?
「よ〜し、ユーイチロウをメロメロにさせよう大作戦、開始ね!!」
「お、おぉ〜!!」
引き下がれないよねぇ。
ーーあれ? 待てよ。さっき先輩、なんて言った?
ユーイチロウの青い目、だって?
あいつの目は黒色だろ。
なにかの比喩、だろうか。
「くくく、それにしてもアヤメくん、意外とやるじゃない」
「なにがです」
「まるで結婚式に乱入して花嫁をさらう王子様みたいで、カッコよかったわよ」
「ど、どうも」
「くふふ。もしかしたら、本気で好きになっちゃうかもね、アヤメくんのこと」
「……そっすか」
こいつ、世界中の男に似たようなこと言ってんじゃないだろうな。
ビッチめ。そうだこいつはユーイチロウに負けず劣らずの浮ついた女なのだ。
そうだ、きっと、そういうことにしよう。
あーもー、勝手な妄想で人を悪人扱いするなんて、最低だろ僕。
だがそうでもしないと、僕はこの人のことを……。
「僕は、なりませんから、先輩のこと、好きになんか」
「へー!? アヤメくんってひどーい!! くく、まぁ当然よね。私、よく言われるから。冷たすぎて近寄りがたいって」
近寄りがたいは正解だろうね。
ネガティブな意味で。
「むむ? もしやアヤメくん、照れているのかしら?」
「照れてないですけど」
「くっくっく、アヤメくんあなた……かわゆいわね!!」
「照れてないですけど!!」
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翌日、僕のクラスに転校生がやってきた。
小柄な、灰色の長い髪の女の子。
柔和な印象を与える、おしとやかな雰囲気の子だった。
「はじめまして、家須霧素です」
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