第3話 恋愛相談、終わり!!
少子化の現代において、僕が通う高校はかなりの生徒数を誇っている。
一学年六クラス。
例のユーイチロウとやらは最後の6組に在籍しているらしい。
僕のいる2組からはかなり離れている。
渡り廊下を超えて別棟までいかなくてはならない。
だからかな、ユーイチロウなんて同級生の存在を知らなかったのは。
「とりあえず一目見てちょうだい。天然パーマの男の子よ」
手を引かれ、6組のドアから教室内を覗く。
天然パーマ? あぁ見つけた。すぐにわかったよ。
だって他の男子みんな坊主だったんだもん。
なんで? みんな野球部なの? それとも仏教徒専門クラスなの?
「あそこにいるのがユーイチロウよ。SOBAのエース。入隊3ヶ月でAクラスまで上り詰めた天才なんだから」
「ふーん」
話半分に聞き流す。
ユーイチロウ、傍目に見る限りでは普通の男子。
男女交えて、友達らしい連中と談笑してるし、変わった点はない。
天然パーマだけど、黒髪黒目のれっきとした日本人のようだ。
ていうか実在していたのか。
妄想の産物かと。
「そ、それでアヤメくん。私はどうするべきかしら? この胸のトキメキ、どうするべきかしら!! 私、恋愛なんて初めてだから大混乱よ!!」
「落ち着いてくださいクイーン・オブ・アイスマン。そもそも彼はえっと……イエス? なる女と付き合っているんですか?」
「
家須霧素ね。
神の娘、家須霧素。
安直な名前すぎるよ。似たような設定と名前のキャラ、探せば10億人はいそうだね。
「では、明確に彼女が好きだと言ってましたか?」
「いえ……」
「チューしたのも、救命処置なんでしたよね?」
「そうよ、ユーイチロウは魔法使いの素養もあるの。だから霧素ちゃんが体内に魔力を送り込んで、ユーイチロウの致命傷を完治させたのよ」
普通の回復魔法とかなかったのかね。
どうでもいいけど。
「なら単純な話じゃないですか。まずユーイチロウの本心を聞くんですよ」
「そ、それができたら」
巡凪先輩がみるみる赤くなっていった。
「苦労はしないわよ」
「でしょうね」
「お願い、アヤメくんが聞いてくれないかしら!!」
「僕が? 話したこともないのに?」
「同じ男の子同士じゃない」
男子同士でもいきなり恋バナなんてしないのですけれども。
「聞いてくれたら……くっくっく、私が
「見たくないです」
「じゃあバーガーキング奢るから!!」
「やりましょう」
何なら毎日聞いてあげましょう。
オニオンフライも注文してやるから覚悟しておけ。
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SOBAの隊員は、基本的に事件が起こるまでは一般人として生活しているらしい。
昨晩は宇宙からの侵略者との戦いに身を投じ、なんとか世界を守ったのだとか。
僕が呑気にバイトをしていた裏側でね。
もちろん信じちゃいない。
なんの証拠も提示されていないから。
仮にそんな与太話を誰もが信じるっていうのなら、僕も実はイギリス王室の血筋だって公表してやるね。
ついでに皇族の血も混ぜておこう。
さて、僕はいま、下校中のユーイチロウを尾行している。
話し出すタイミングを伺っているのだ。
ほいで、僕のことを巡凪先輩が尾行している。
トラブルが起きたらすぐに対処できるように、だってさ。
ユーイチロウがコンビニに入った。
アイスを買って出てきた。
しょうがない、行くか。
バーガーキングのオニオンフライのためだ。
「あ〜、ユーイチロウくん?」
「ん? 君は……」
「2組の末永。単刀直入に聞きたいんだが、ユーイチロウくんは今、彼女とかいるの? 好きな人とかさ」
「なんで君に教えなくてはいけない?」
ごもっとも。
ていうか、背が高いなこいつ。
近づいてみて実感する。180cmはあるよ。
「実は知り合いがあんたに好意を抱いていてね、代わりに僕が聞いているわけ」
「…………」
怪しんでるなぁ。
あー、悪いけど黙って見つめるのは勘弁してくれ。
怖いんだよ高身長イケメン一軍男子に睨まれるの。
過去のトラウマが蘇るから。
「なるほど。まぁいいや、うん、いるよ。好きな人がいる」
「へー。それって、どんな人? 名前は?」
ユーイチロウが口を開く。
瞬間、
「ま、待ったあ!!」
電信柱の陰から巡凪先輩が飛び出してきた。
「や、やっぱり心の準備ができないわ!! ストップストップ!!」
「巡姉ちゃん?」
「ユ、ユーイチロウ」
「まさか……俺に好意があるっていうのは……」
「あ、あぅ……」
こうなっては僕は必要ないだろう。
あとはふたりで好きにやってくれ。
でも、もう少しだけ様子を見ておこうかな。一応、恋の行方が気になる。
「そ、そうか、巡姉ちゃんが、俺を……」
「うぅ……」
耐え難い恥ずかしさに、巡凪先輩がしゃがみ込んだ。
クールというより、ウブな小学生だろう、これじゃあ。
「俺も……だよ」
「え?」
なんですって?
「俺も……巡姉ちゃんが好きだ」
真剣な顔で、ハッキリとそう告げた。
マジか。まさかの大逆転ホームラン。
巡凪先輩も呆気に取られている。
霧素とは何ともなかったんじゃないか。
まさかはじめから家須霧素なんて存在していなかった、とか?
「ユーイチロウ、本当なの?」
「3年前のあの日、巡姉ちゃんに助けられて、それからたくさんのことを教えてもらって、俺にとって巡姉ちゃんは、かけがえのない存在なんだ」
「そ、そうなの……。でへへ、でへへへへ。そうなの」
嬉しそうだね。
おっと、つい僕も頬が緩んでしまった。
他人の恋愛なんてクソほど興味ないはずなのに、眼の前でドラマチックな展開を繰り広げられると感情移入してしまう。
「て、てっきり霧素ちゃんが好きなんだと思っていたわ」
「霧素? うん、霧素も愛してるよ」
「……へ?」
思わず僕も思考が停止してしまった。
どういう意味だ?
「霧素も巡姉ちゃんも、俺に力を貸してくれる他の女の子も、みんな大好きさ。みんな俺にとっての一番だよ。そこに優劣なんかない。誰か一人を選ぶなんて、可哀想でしょ? 一夫多妻なんて、この世界だけの常識なんだから」
「あ、あー、えっと」
「俺はハッピーエンドが好きなんだ。すべての世界のすべての人間に幸せでいてほしい。だから、みんなが幸せになる結末を選びたい。それって、とても素敵なことじゃない?」
「そ、そうね。たしかに、そうかも。あはは」
なに笑ってんだよ巡凪先輩。
こいつが何を言っているのか、理解しているのか?
適当な理屈をこねて浮気を正当化しているだけなんだぞ。
「よかった。巡姉ちゃんならわかってくれると信じていたよ。もし理解できないのなら、残念だけど俺には巡姉ちゃんを幸せにすることはできない」
意味がわからない。
お前が浮気する=先輩が幸せになる。
とはならんでしょうが。
先輩が唇を噛み締めている。
笑顔を隠しているのか、何かを堪えているのか。
ユーイチロウのスマホが鳴る。
「もしもし、アミカちゃん? うん、わかった。じゃあ夜、俺の家に来て」
これがモテる男か。
きっと異能バトルや学園ラブコメの主人公も、似たような感じでハーレムを築くんだろうな。
ユーイチロウが話している間に、先輩が俺に頭を下げた。
「あ、ありがとうアヤメくん。おかげで上手く進展できたわ」
「……そうですか」
あんたがそれでいいなら、構わないけどさ。
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※あとがき
死ぬまでに書いてみたかったですよね、20年前のライトノベルみたいな話。
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