【近況で画像公開中!】パワードスーツ・クロニクル:鋼鉄の天敵

宇宙大輔

第1話:降下する神々

漆黒のビロードを鋭利な刃で引き裂くように、無数の光条が宇宙空間を走り抜ける。

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それは流星ではない。



惑星連合宇宙軍、その最精鋭である陸戦隊が誇る最強の攻撃フォーメーション


  ――「カプセル降下攻撃」。


その尖兵となるべく、地上の目標ポイントへと突き進む初代パワードスーツ(PS)の一群だった。

大気圏との摩擦で灼熱する降下カプセルの表面は、さながら地上に罰を与えるために降臨する神々の戦車のようであった。




旗艦「アンドロメダ」のブリッジは、張り詰めた静寂と電子音の交響に支配されていた。

中央に鎮座するメインスクリーンには、赤熱したカプセル群の軌道を示す幾何学的な光線と、

目標惑星エルピスの青い輪郭が冷徹に映し出されている。


元PSパイロットであり、今はその卓越した戦闘経験を買われて司令部付きの技術顧問となっているタカシ・ミヤザワ大尉は、腕を組み、その光景を苦々しい表情で見つめていた。

彼の瞳には、スクリーンに映る神々の進軍と、脳裏に焼き付いて離れない過去の戦闘の残像が二重写しになっていた。



「見事なものですね、大尉。まさに神の雷(いかずち)だ」



隣に立つ、制服を着こなしたばかりの若き参謀が、感嘆と畏怖の入り混じった声を漏らした。

彼の目には、この圧倒的な光景は純粋な力の顕現として、輝かしく映っているのだろう。



「神、か…」タカシは、誰にともなく呟いた。



その声はブリッジの喧騒にかき消えるほど小さかったが、確かな重みを持っていた。

「だが、神は自らを過信した時、地に墜ちるものだ。そして、その墜落は、いつだって地上にいる者たちを巻き込む。」



初代PS(Powered Suits)。



その正式名称は「戦闘強化服」という、どこか無機質なものだが、兵士たちの間では畏敬を込めて「神の甲冑」と呼ばれていた。

一機で通常兵力一個師団、実に一万人規模の戦力に匹敵する戦闘力。

その力の源泉は、胸部に搭載された超小型核融合炉。

微細な「水素パレット」を燃料とし、恒星の中心で起こる現象を掌サイズで再現する。

そこから生み出される莫大なエネルギーは、あらゆる物質を蒸発させる一億度の超高温プラズマを撃ち出す「プラズマキャノン砲」や、飛来するミサイルや実体弾を寸分の狂いなく迎撃する「パルスレーザー砲」を、まるで手足のように駆動させる。



その設計思想は、極めてシンプルかつ暴力的だった。


「やられる前にやれ。」


従来の兵器が防御と攻撃のバランスに腐心していたのに対し、PSは防御という概念を、より高次の攻撃によって達成する。

敵が引き金を引く前に、その存在そのものを戦場から消し去る。



それがPSの戦い方だった。



敵陣地の真只中に直接降下し、中枢を破壊し、混乱が極まる前に離脱する。



完璧な電撃戦。

理論上、彼らを阻むものはなにも存在しなかった。


だが、その絶対的な力は、敵だけでなく味方をも恐怖させた。

ブリッジにいる誰もが口には出さないが、皆が心の底で同じ危惧を抱いている。



PSによる軍事クーデターの可能性。

…もし、彼ら陸戦隊が一斉に反旗を翻せば、惑星連合の中枢ですら、一夜にして灰燼に帰すだろう。

彼らはあまりにも強力すぎた。



人の手に余る、神の力だった。



タカシはスクリーンから目を逸らし、自身の右手の義手を見つめた。

冷たい金属の感触が、現実を突きつけてくる。


かつて彼も、あの神々の列にいた。

最高のパイロットとして、数々の戦果を挙げた。


だが、その力の傲慢さが引き起こした悲劇で、彼は仲間と、そして自らの右腕を失った。

あの日の炎と絶叫は、今も彼の悪夢の主役だった。



「降下シーケンス、最終段階へ移行。各機、逆噴射開始」



合成音声がブリッジに響き渡る。

スクリーンの中で、神々の戦車が最後の減速を行い、エルピスの大地へとその鉄の脚を降ろそうとしていた。

地上では今、ゲリラたちが空を見上げ、絶望に顔を歪めていることだろう。



タカシは再びスクリーンに視線を戻した。

彼の懸念は、この戦いの勝利の先にある。


この圧倒的な力が新たな憎しみを生み、更なる悲劇を呼び起こすのではないか。

その恐怖こそが、やがてPSの「天敵」と呼ばれる、もう一つの神をこの世に生み出すことになる。

そのことを、この時のタカシはまだ知る由もなかった。

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