#007 Barcarola
東京都・26歳男性「ある女の事が苦手過ぎて、名前を聞くだけで蕁麻疹が出ます。命の恩人かつ師匠なんですけど、そんな事どうでも良いぐらいには苦手です。そんな相手に厄介事を押し付けたのですが許されますか?」
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リュックに荷物をまとめた茅沙紀は医院の入り口前に立っていた。
約束通り5時に目覚め、相変わらずベッドの端に突っ伏したまま寝ている麗慈の肩をトントン叩く。
「若乃宮さんっ、朝ですよ!朝ー」
うぅ…と唸りながらゆっくりと上半身を起こした麗慈の顔にはシーツのシワがくっきりと付いていた。朝までピクリとも動かず熟睡していたのだろう。
「お疲れですよね…?」
「…いや、そういう訳じゃねーけど…」
頭の上にハテナをいくつも浮かべている茅沙紀を置き去りにして、麗慈はそそくさと病室を出た。
診察室に戻り、やはり書類の下に埋もれていた黒電話を救出すると徐にダイヤルを回し始める。
1分程待ったが、未だに呼び出し音が鳴り続けている。一度受話器を置いた麗慈は、すぐにまた同じダイヤルを回し始めた。何度もその作業を繰り返し、やっと相手に繋がるものの、その第一声は耳を劈くような怒鳴り声だった。
『やかましいわっ!何時だと思ってんだ!』
受話器を顔から遠ざけ、耳鳴りが治った頃に元に戻す。
「…ご無沙汰してます、師匠」
『ん?…え?麗慈!?何だよ急に!』
電話をかけてきた相手がわかるや否や、その女の声は嬉しそうな様子に急変した。しかし、次に麗慈から切り出された言葉に訝しげな声色が戻る。
「お願いがありまして…」
『お願いだぁ?面倒事なら他当たりなよ』
「いや、コレは…師匠にしか頼めないんです、本当に。マジで尊敬している師匠なら、何とかしてくれるって信じてるんで…」
相手を煽てる言葉を並べる麗慈だったが、その表情は無そのものである。心からの言葉ではないようだ。しかし、電話口の相手は麗慈の言葉を間に受けているようで、調子良く返した。
『まぁ…お前がそこまで言うんなら、私にしか頼めないような重要な事なんだろうな……。良いよ、任せな』
彼女の反応に、麗慈は無言でガッツポーズをする。
「渋谷の医院に来てください。なるべく早い方が助かります」
『アンタが押し付けられてる
「ありがとうございます、師匠…詳細はお会いした時に」
受話器を置いた麗慈は、素早く立ち上がるとデスクの下から引っ張り出したキャリーケースに必要な物を素早く詰め込んで診察室から廊下へと放り投げる。
物音に気が付いた茅沙紀は、彼が病室に置きっぱなしにしていたヴァイオリンをジュラルミンケースに入れた物を抱えて廊下に飛び出した。
廊下に転がっているキャリーケースを訝しげに睨んでいると、診察室から白衣を脱いだ麗慈が飛び出してくる。
酷く慌てた様子でキャリーケースの持ち手を引っ掴むと、茅沙紀の方目指して走り出した。
「わ、若乃宮さん!?どうかしました!?…っていうか、私何故かすっごい元気になってて…」
「茅沙紀、元気でやれよ」
へっ?と聞き返す間も無くジュラルミンケースを引ったくっていった麗慈は、ポカンと口を開けて立ち尽くす茅沙紀の視界から消えていってしまった。
ふと足元に視線を落とすと、ルーズリーフが1枚落ちている。拾い上げて、罫線を無視して走り書きされた文字に目を通した。
「荷物をまとめて玄関で待て…?何これ……」
意図が不明な内容ではあったが、彼は無意味な事をさせるような人間には見えない。身体がいきなり全快した事も、麗慈が何か施したに違いないと考えていた茅沙紀は、大人しく彼の指示に従う事にした。
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あてもなく待ち続けるのは結構しんどくて、虚空を見上げながら何度もため息をついていると、遠くの方から排気音が聞こえてきた。
音の方向をじっと見つめる。すると、一台のスポーツバイクがこちらに近付いてくる様子が見えた。そして医院の前に差し掛かり、スピードを落として停車する。
スタンドを掛けて降車したライダーは、フルフェイスのヘルメットにぴっちりとした黒のライダースーツを纏っている。身長は高く、180センチは超えているだろう。
ツカツカと近付いて来るその姿に、茅沙紀は身構える。
「え?なに?アイツは?」
しかし、ヘルメットの中から聞こえてきたのは敵意の無さそうな女の声。
「ここに来いって言われたんだけど」
「わ、私は荷物まとめて待てって言われてて…」
茅沙紀の返事を聞き、ライダーは一瞬固まる。そしてヘルメットを外し、長い黒髪を風に靡かせながら正体を現した。
「…あの野郎……私をはめやがったな」
「へ!?」
颯爽と踵を返した女は、バイクの方へと戻っていく。そして、エンジンを掛けてぐるりと車体を回して茅沙紀の真ん前で止まった。
「乗りな、お嬢ちゃん。察しはついたけど、詳しい事は別の場所で聞くから」
状況が飲み込めていない様子の茅沙紀の腕を引っ張り、見かけに寄らない怪力で彼女をひょいと持ち上げると、タンデムシートに跨らせる。
「えっと、あなたはいったい…」
「馬鹿乃宮麗慈のお師匠さんだよ」
そう告げると、女は茅沙紀に自身のヘルメットを被らせて腰に捕まるように指示を出す。そして間髪入れずにアクセルを蒸して急発進していった。
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イースト・アラベスクの船内に招かれた京哉達は、豪華絢爛な船内の造りに圧倒されていた。
中央が吹き抜け構造となっており1階フロアに配置された大編成のオーケストラの演奏を全方位から聞くことができるように設計されている。
上を見上げれば特殊硬化ガラス張りの全天窓で陽光が差し込んでいるのに、船内はひんやりとした空気が流れていて非常に過ごしやすい温度に調整されていた。
足元に敷かれているフカフカのカーペットの感触を踏み締めながら、三人は護衛対象であるオリヴァー王子を探して回る。
「王子っていうからどんなもんかと思ったけど…」
依頼人である彼の母親から預かっているオリヴァー王子の写真には、小太り、低身長、O字禿げの三拍子が揃った冴えない中年男の姿が写し出されていた。
「未だにママに心配されてるようじゃ、結婚もしてないんだろうな」
写真を覗き込んできた麗慈がそう呟くと、シェリーが首を傾げる。
「レイジも独身じゃん」
「え…俺ってそんなに老けて見える?」
ショックを受けている麗慈を見て、京哉が笑いながら彼の肩を叩いた。
「シェリーは医者は皆オッサンだと思ってるからな」
「違うの?」
「26だから、まだ」
えー、見えない!と驚いているシェリーの姿が彼に追い討ちをかけた。ヨシヨシと京哉が麗慈を慰めている間に、シェリーは乗客とオーケストラとを隔てる手摺の近くまで歩み寄っていった。
近くで演奏する様子は圧巻で、彼女は初めて生で聞くオーケストラの重厚な音楽に目を輝かせている。
しかし、同じように周囲で音楽を聞いていた人間達は、シェリーを見るとあからさまに彼女との間に距離を取っていた。その様子に気が付いた本人は、彼らの方に視線を移す。そして、自分の方を見ながらヒソヒソと話し出す仕草でそれが何を意味しているのか悟ってしまった。
唇を尖らしながら帰ってきたシェリーを見て、京哉は小首を傾げた。
「え、拾い食いでもした?」
「してねーよ、馬鹿!」
ふんっと外方を向いた彼女の顔を通り過ぎる群衆がチラチラと見ている事に気がついた京哉。麗慈もそれに気が付いたようで、すぐさまシェリーの手を引くと屋外に繋がるラウンジの方へと向かった。
人通りの少ない場所に置かれたベンチに腰掛けた京哉は、海を眺めながら口を開く。
「なー麗慈…火傷痕って時間経っても綺麗に治ったりすんのか?」
彼の問いかけを聞いて、シェリーはハッとした表情で麗慈の方を見上げた。しばらく考え込んだ彼は、眉を顰める。
「程度によるな。色素沈着してる場合は難しい事もある。それに……訳あって俺には治してやれない」
左右の頬を両手で覆ったシェリーは、残念そうに項垂れると京哉の隣にドカっと腰掛けた。
「あーあ、こんなに美少女なのにな。火傷さえ無ければ…」
その顔や首、肩に残る火傷の跡は、2年前に彼女を所有していた藁科によるもの。彼が狂乱の最中、シェリーを燃え盛る炎の中へと放り投げたのだ。
強がってみせたシェリーだが、彼からいつも通りの軽口が返ってこない事に焦る。
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「そ、そんなに気にしてないから…っ!さっきは初めてあんな大勢の前に出たから、たまたま…」
京哉の方を振り向くと、彼は何か考え事をしているようだった。そして、ニヤリと笑うと勢い良く立ち上がって何処かに走り去ってしまう。
数分後、待ちぼうけを食らっていたシェリーと麗慈の前に、若くて派手な見た目をした女達を引き連れた京哉が現れた。
「えー!超可愛いんスけど!」
「鬼化けるんじゃね?マジでウチらでやっちゃって良いの?」
京哉が連れて来たのは、所謂ギャルと呼ばれる絶滅危惧種の女達であった。
今の日本で自由に自分を着飾れる余裕のある生活ができる人間は富裕層に限られている。派手な見た目の女達を横浜港で遠目に見ていた事を思い出したシェリーは、物珍しそうに彼女達を観察し始めた。
「ど?何とかできそう?」
京哉が彼女達の顔を覗き込んで尋ねると、黄色い声と共にピースサインで返事の代わりを寄越す。
一体何の話をしているのかと呆けているシェリーの両脇を抱えた女達。シェリーは左右を交互に見ながら助けを求めた。
「な、何!?どこ連れてくの!?」
ズルズルと連行されていく彼女に手を振った京哉は、ニヤニヤしながら再びベンチに座った。
「…何アレ?シェリーは大丈夫か?」
「だーいじょうぶだって。ギャルに悪い奴はいねーから、多分」
多分、と付け加えた所に彼の適当さが滲み出ており、麗慈は深くため息をついた。そして、視線は前を向けたまま顔を近付けると、京哉に耳打ちをする。
「此処なら見張りやすいな、例の王子」
彼らが避難してきたラウンジは前面がガラス張りになっており、船内の様子がよく見渡せるようになっていた。
先程まで1階でオーケストラの演奏を間近に聴いていたオリヴァー王子は、3階のテラス席に上がっていた。
流石はエージェントとして育てられた男達。何気なく対象の位置は把握していたようで、それとなく任務をこなしている。
「亡霊…ってのはきっとそう見えてる何かなんだろうな」
「シュミラクラ的な?」
「人間がそう思い込んでるだけで、実際調べるとなんて事なかったり」
夜、客室で寝ていた人間が怪しい光を放つ何かに誘われて海に堕ちる、というのが溟海の亡霊の噂話。
「噂話があるなら、亡霊に会いながら生還した奴がいる訳だ。死んだ奴と死ななかった奴の行動に違いがあれば、解決に近付きそうだが…」
ぼんやりとそう呟いた麗慈は、目を輝かせながら自分の方を見つめる京哉に何故か悪寒を感じる。
「…何だよ?」
「つまりそれって、敢えて亡霊に狙われる状況を作り出せるって話??しかも、麗慈がその大役を引き受けてくれるの!?」
助かるわぁー…とニヤニヤしながら宣う彼の性格の悪さは、完全に父親譲りだった。彼の悪巧みに気が付いた様子の麗慈は再び大きく溜め息をついて返す。
「お前、まだ狐狩りの時の落とし前付けてないよな?」
「ゔっ…」
「それなのに、まだ俺に貸し作りたい訳だ」
無表情で詰め寄られ、徐々に萎縮していった京哉は最後に小声で「も、もちろん僕がやらせていただきます…」と
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再び移動したオリヴァー王子を離れた所から追跡する。そこに合流したシェリーは恥ずかしそうに顔を伏せてモジモジとしていた。
京哉から依頼を受けたギャル達によって、シェリーの顔には見事なメイクが施されており、火傷痕も完全に消えている。
遠くの方で手を振っていたギャル達に手を振り返した京哉は、何故か顔を見せてくれないシェリーの様子に小首を傾げた。
「何だよ、気に入らなかったのか?」
「そうじゃなくて…どうせ馬鹿にするから見られたくないもん」
京哉は麗慈の方に視線を送るが、肩を竦められる。お前が悪い、と。背中をバシッと叩かれた京哉は、オリヴァー王子の見張りを麗慈に任せる。そして、シェリーの手を握ってラウンジから屋根の下へと連れて行った。
絨毯貼りの廊下を引き摺られていくシェリーは、不満げな様子で唇を尖らせている。
「何で僕が馬鹿にするって決めつけんだよ?」
「…日々、馬鹿にしてくるじゃん……」
そういえば…と日頃の行いを思い出す。
オーケストラの演奏を囲う手すりが据え付けられた往来に戻ってくると、シェリーは周囲の視線を気にし始めた。
「大丈夫だから」
京哉の言葉に、視線だけそっと持ち上げる。すれ違う人間と目が合うことはない。
「不思議だよな…後ろ指差すぐらいなら見なけりゃ良いのに、わざわざ覗き込んでまで『お前は人と違う』って言ってくんの。最初からテメェとはまるっきり『違う』人間だっての」
オーケストラの演奏が盛り上がりを見せ、より多くの人間が押しかけてきた。当たり前だが、全員違う顔、違う体格、違う服装だ。
「可愛いじゃん、いつも通り」
そう告げられたシェリーは、ふと顔を見られていた事に気が付き慌てて背中を向ける。
「見られたくない相手の前では隠せば良いよ。お前がそう望むなら」
見られたくない相手とは誰だろうと考えた時、そんな人間の名前は頭に思い浮かばなかった。彼女の周りにいる人間は皆、受け入れてくれたし、自然な自分のまま接してくれていた。
自分ともあろうものが、有象無象を気にするとは情け無い。シェリーは思わず自嘲してしまう。
「……キョウヤのくせになんか偉そう」
ボソリと呟いたシェリーは、京哉の腕をバシバシ叩きながら最後にその腕に抱き付いた。
「折角こんな豪華な船に乗れたんだから、美少女のエスコートぐらいさせてやっても良いよ」
顔を背けている彼女の耳は真っ赤になっている。機嫌が治った様子のシェリーを見て目を細めた京哉は、ハイハイと返事をして人混みの中を歩き始めた。
一歩進めば人とぶつかりそうになる程の雑踏を抜けると、ホールの中心にそびえる螺旋階段を登り始める。
「レイジと逸れちゃったけど大丈夫なの?」
「ああ、連絡取り合えるように
そう言いながらタキシードの襟元を捲ると、小型のマイクが見えた。通信機の類であろう。
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螺旋階段を上りきった先は客室のエリアに繋がっていた。京哉達が歩いているのは最高級客室の連なるゾーン。
「アタシ達が泊まるのって一般客室じゃないの?」
「コレは仕事だから」
そう言うと、シェリーに少しの間待っているように指示を出し、フロアの清掃をしていた船内スタッフの女に声を掛ける。
「すみません、ちょっと良いですか?」
「はい、どうされましたか?」
上品な笑顔で対応するスタッフに、京哉は満面の笑顔を見せる。
「おねえさん、溟海の亡霊について何か知らない?」
京哉の質問に、スタッフは疲れた表情を見せた。
「申し訳御座いませんが、口外を禁じられておりまして…」
「禁じられてるって事は、言えない情報を持ってるって事かー」
納得した様子で独り言のように呟くと、一瞬の隙をついてスタッフの腕を掴み、清掃中の札が下げられた客室に押し込んだ。壁際に追いやった京哉は彼女の両手を片手で頭の上に押さえ付け、両腿の間に自分の膝を捩じ込んで身動きを封じる。
「教えて欲しいなー…おねえさんが知ってる事全部……ね」
スタッフの耳元で囁いた京哉はシェリー達の前では見せた事のないような嬌笑を浮かべていた。
暇を持て余して毛足の長い絨毯をほじくって遊んでいたシェリーは、満足げな表情で戻ってきた京哉を見上げる。
「おっそいんですけど!」
キッと睨み付けて立ち上がると、彼の後方をスタッフの女が顔を真っ赤にして過ぎ去るのを目の当たりにした。
「…何やってたの?」
「仕事、仕事」
何かを隠すような京哉の態度に、シェリーは訝しげな表情で首を傾げる。
情報を手に入れたという京哉は、続いて展望デッキの方に向かった。船内どこにいてもオーケストラの演奏を聞くことができるように至る所にスピーカーが設置されているようで、巨大な船上プール内の人々で賑わうこの場所でも勿論、クラシックが絶え間なく流れていた。
「乗客が海に飛び込んだのはこの展望デッキの先にある『幸福の鐘』で、専用の鍵を持たない人間が辿り着く為にはこのプールの横を通るしかないらしい」
「さっきの女の人が教えてくれたの?」
「まぁな…あと、もう一つ聞き出せたのが…」
プールサイドのビーチベッドに並んで横たわる外国人の老夫婦。二人に近付いていった京哉は、またしてもわざとらしい程の笑みを顔に貼り付けていた。
「こんにちは!…少しお話ししませんか?」
ゆっくりと上半身を起こした老夫婦は、突然流暢なフランス語で話しかけてきた日本人に驚いた様子だった。
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「ははっ、日本人かい?フランス語上手だねぇ」
白髪に白髭を蓄えた、サンタクロースのような見た目をした老人と、長い白髪を後ろに束ねた老婆。
「この船で色んな国の人と話す為に練習してきたんです。今朝、横浜の港から乗ったのでまだ色々とわからない事ばかりでして。…先程偶然お話をしたスタッフの方から、お二人はこの船旅が長いと聞いたので」
お互いに見つめ合って和かに笑った老夫婦は、快く京哉を受け入れた。近くに立っていたシェリーにも座るように促す。
老夫婦が注文したアイスティーをストローでズビズビ啜っているシェリーを横目に、京哉が話し出す。
「お二人はどんな目的があってこの船に?」
「それはもちろん、生のオーケストラの演奏を堪能する為さ」
「エネルギー革命以降はフランスでも徐々に規制がきびしくなっていてね…あぁ、貴方の国ほどではないのよ」
そう答えた老婆は、ビーチベッドの下に置いていた藤網のカゴを手元に手繰り寄せ、中から掌サイズのパンフレットを取り出す。
「モーツァルトにベートーヴェン…ムソルグスキーのプロムナードも良いわね。特に今回はヘンデルのメサイアが聴けるとあって、前回の船旅からあまり日をおかずにまた乗船したのよ」
「君もこの船に乗るぐらいだ。聴きたい曲があったのだろう?」
「セットリストがあるんですね!知らなかったな…調べてくれば良かった…」
穏やかな会話を続ける三人を、シェリーはつまらなそうな表情で眺めている。しかし、京哉の次の質問で老夫婦の顔色が変わった。
「それだけ常連さんなら、オーケストラの中には顔馴染みの人が多いんじゃないんですか?」
何ら問題の無さそうな質問内容であったが、二人の反応が変わったのを見た京哉は手応えを感じた。
「暗黙のルールなんだけどね、オーケストラの子達にはたとえ休憩中であっても話し掛けたり個人的な贈り物を渡してはならないのよ」
神妙な面持ちでそう語ると、老夫婦はまた顔を見合わせた。
「…私達が知っているだけで今年1年で5人……海に堕ちたそうなんだが、彼らは皆オーケストラの奏者と関係を持とうとした人間らしいんだ」
ほぅ…と相槌を打った京哉に、老爺が続けた。
「アラベスク・フィルには7人の女性がいてね。その演奏する姿は華やかで艶があって美しく…この船に乗った男達は皆、恋に落ちてしまうと聞いたよ」
「え?…ということは、おじいさんも?」
京哉が尋ねると、老爺は髭を触りながら豪快に笑い飛ばした。
「ワシは60年間バァさん一筋じゃよ」
あらぁーと笑っている二人のやりとりを京哉の通訳伝いに聞かされたシェリーは、心底どうでも良いという表情を見せていた。
和かに手を振ってくる老夫婦と別れ、二人は船内へと戻っていく。
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再び螺旋階段を降りながら、シェリーが話し掛けた。
「今度はオーケストラの人に話聞くつもり?」
「よくわかったじゃん」
サラッとそう答える京哉のタキシードの袖を彼女はグイグイ引っ張った。
「御法度なんじゃないの、ソレ?それに、そんな事したら呪われちゃうじゃん…亡霊に!」
眉を下げたシェリー。どうやら彼女は亡霊とやらを信じているらしい。
「そんなのいる訳ねーだろ。僕は神様も信じてないからね」
そう言いながら最後の1段を降りると、目の前の往来の中に麗慈の姿を確認した。
彼の前方10メートル程の所に、オリヴァー王子がいる。手すりに腕を置き、真剣に演奏を聴き入っている様子だ。
麗慈の後ろにそっと近付き、隣に並ぶ。何やら手で合図を送りあっている二人の様子を後方から睨み付けているシェリーは、自分の隣にも誰かが並んだ気配に慌てて振り向いた。
そこには、ニッコリと笑顔を見せる椙浦の姿があった。
「またお会いできましたね!奇跡だと思いませんか?」
「お…思わないっ!付き纏わないでよ!」
再び出くわしてしまい声を掛けてくる彼のしつこさに顔を引き攣らせたシェリーは、慌てて京哉の手を掴んで後方に引っ張った。
「ってぇな…何だよ?」
「へ、変なの!きた!また!」
変なの?と聞き返す京哉は、椙浦の姿を確認するとすぐに納得した。そして、彼の方に向き直るとトラウザーズのサイドポケットに手を突っ込みながら低い声で尋ねる。
「連れに何か用?」
「あ、あの…」
京哉が凄んだ途端に弱々しく後ろに下がった椙浦。自分より頭ひとつ分背が高い京哉に威圧され、口をパクパクしていた。
「言いたい事あんなら言えば?」
「えっと……」
そう口篭った椙浦だったが、突然人が変わったように今度は不気味な笑みを見せた。
「勿体無いですよ…連れて回るだけなんて……」
「…は?」
それだけ言い残すと、椙浦は人混みに流されてどこかに消えてしまった。
ただの一目惚れストーカーだと思っていたあの男だったが、その言葉の意味がわからず京哉の中では懸念が残る。
「追い払った?」
麗慈の影に隠れていたシェリーが周囲をキョロキョロしながら京哉の前に出てくる。彼女も椙浦を相当警戒している様子だし、自分が近くにいれば問題無いだろう。京哉は本来の仕事に集中すべく、再びオーケストラの方に向き直った。
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ちょうど昼の演奏を終え、休憩に入ろうとしていたオーケストラの面々。京哉は先程老夫婦が話していた7人を目で追っていた。
色取り取りのドレスを纏い、その手にはクラリネットが抱えられている。ちょうど手すりに一番近い所を歩いて下手に下がろうとしており、これはチャンスとばかりに京哉は早足で近寄る。
「やあ、少し良いかな?」
京哉は目を見開く。あと一歩と言うところで先を越された。しかも、それは彼らが任務で監視を続けているオリヴァー王子である。
オーケストラの人間に話し掛けた輩がいる、と周囲は騒然とした。そして、一瞥すると皆が去っていく。
どうやら、老夫婦の話していた暗黙の了解とやらは乗客の間で浸透しているもののようだ。
それを破ってまで話しかけたという事は、彼もまた溟海の亡霊の真実に近付きつつあるのだろうか。
京哉はタキシードの襟を少し持ち上げて口に近づける。
「麗慈、王子が亡霊に狙われるかもしれない」
『…は?どういうことだ?』
オリヴァー王子の動行に注視しながら、先程老夫婦から得た情報を麗慈に共有する。
『王子の方が一歩先を行ってたって訳か。見かけによらねぇな』
「一応任務も失敗したくないし、護衛に回るしかないな…」
『見張ってれば亡霊の正体もわかるだろ。むしろ一石二鳥だ』
襟を正した京哉は、乗客たちが捌けて静かになったホールを見渡す。麗慈に合図を送ってシェリーを別の場所に連れて行かせると、京哉もまた彼女達の近くに歩み寄った。
オリヴァー王子との会話に気を取られているうちに、白いドレスを着ている女の持つリードケースを背後からそっと奪う。
そして、何事もなかったかのように話しかけた。
「すみません、少しよろしいですか?」
ニコリと笑ってみせると、7人の視線が一斉に京哉の方に向けられる。
「あら?どうかされましたか?」
赤いドレスの女が返事をしてきた。
50代から30代と、歳の差があるように見える女達。顔はどことなく皆似ている。
「これ…手すりの近くに落ちてて…オーケストラの方のものだと思うんですけど」
そう言いながら京哉が差し出したのは、先程白いドレスの女から盗み取ったリードケース。
「あっ…!私のです、それ!」
手荷物を確認した白いドレスの女が小さく手を挙げた。この中では一番若いようだ。
「リリィはおっちょこちょいなんだからー…ありがとうございます」
黄色いドレスの女が代わりにリードケースを受け取って京哉に笑いかけた。
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7色の女達は何故か色めき始め、先に話しかけてきたオリヴァー王子の事など忘れてしまったかのように京哉を取り囲んで質問攻めにしてきた。
「日本人ですか?ヨコハマから乗ったの?」
「この船は初めて?誰かと一緒?」
「もうラウンジには行ってみた?あそこは眺めが良くて最高なの」
「次に寄港する上海は乗客にすごく人気の観光スポットで…」
一斉に飛んでくる言葉と混ざり合った香水の匂いで、京哉は笑顔を引き攣らせる。
「そうだ!この後夜の演奏まで時間があるから、お茶しましょうよ!」
青いドレスの女の提案に、残りの6人が「ねっ!」と声を合わせて京哉に圧を掛けた。
「あっ…えーすごいなー……でも、あの方とのお話を邪魔しちゃったみたいですし…」
京哉はあの方と言ってオリヴァー王子の方に意識を向けさせる。すると、あぁ…と薄い反応を見せた彼女達。
「じゃあ、貴方もご一緒にどうです?」
と、少し冷めたトーンでオリヴァー王子に問いかけた。
貸し切られた個室ラウンジは一等社交室にあり、オリヴァー王子が彼女達から話を聞く為にあらかじめ予約していた空間だった。
「えぇ!?じゃあ、オリヴァーさんはイギリスの王子様ってことですか?」
「王位継承順位的にはかなり下の方だけどね。こうして自由に旅ができるのもそのおかげさ」
「それでも、王族ってことですよね?すごーい」
王子が自身の正体を明かした途端、女達の反応が変わった。彼の素性を知る京哉も一応「すごーい」と声を合わせておく。
「じゃあキョウヤ君は普段何をしてるの?モデルさんとか?」
「いえ…僕、実は国籍がオーストリアにあってウィーンの交響楽団でお世話になってます」
完全に嘘とも言い切れない情報で誤魔化す。
「それじゃあ、何で日本にいたの?あそこって今、入国するのも大変だし、音楽に関係してる事柄ぜーんぶ取り締まってるって聞いたけど?」
緑色のドレスの女が問うと、京哉はハンカチを目元に当てながら答えた。
「父が…亡くなりまして、葬儀に……。イースト・アラベスクに乗るのがその父の夢だったんです。僕はその無念を晴らすために…」
託斗を勝手に殺し、彼女達の同情を誘う。
「あらー…大変だったのね。可哀想…ほら、元気出してね」
青いドレスの女が京哉の前に皿に取り分けたベリータルトを置いた。
その様子を見て咳払いをしたオリヴァー王子は、話を切り出す。
「そういう事情だったら、君に聞かれても困らないな。私は今回、溟海の亡霊の謎を解明しに乗船したんだ」
「亡霊…」
そう呟くように繰り返した白いドレスの女。
「あぁー…悲しい事故よね、どれも。皆とても良い方だったし」
「わかる……だってすごい元気だったのにさ…」
乗客の怪しい光に誘われて海に身を投げるというオカルトじみた事件。しかし、その事件の通り名が話題に上がった途端に彼女達が示したのは意外な反応ばかりだった。
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「溟海の亡霊というのは?」
京哉は敢えて知らない体でオリヴァー王子に尋ねる。彼が知ってる情報を聞き出せるかもしれない。
「イースト・アラベスクの船内で発生した奇妙な事件のことさ。ここ最近では1年で5人もの乗客が海に飛び込んで亡くなっている」
えー、こわーい…と、7人と京哉が相槌を打つ。
「奇跡的に生き残ったとされる男性がいて、彼に話を聞いたんだ。夜、客室で寝ていると奇妙な気配を感じた彼は、部屋の外を確認した…そして、部屋の前にプカプカと浮かんでいる奇妙な光を見た…と。そして、気がついたら頃には幸福の鐘の柵を乗り越えようとしていたって…」
京哉達の読み通り、亡霊に目を付けられながら生き残った人間がいた。しかし、彼の証言の内容だけではあまりにもオカルトが過ぎる。
「海に飛び込む前、彼らは全員オーケストラの演奏を最前列で聴いていた様子を目撃されてる。そして、君達7人姉妹と接触していると聞いたんだが…」
お互いに顔を見合わせている7人。血縁関係がありそうだと思っていたが、やはり姉妹であった。
王子は『接触』と言葉を濁してはいたが、聞いていた話と少し違う。老夫婦曰く「乗客の男は漏れなく恋をする」との事だったが、その場に居合わせた二人は違ったようだ。つまり、そう言う事である。
「ええ、お話したわよね」
「お茶もしたし」
「すごく紳士的な方達ばかりだったわよね」
彼女達は思い思いに彼らとの記憶を語り出す。
「ダリア姉さんは、あの貿易商の方が気になってたよね」
「陶芸家の人が良いって言ってたのはベロニカちゃんよね」
「ポピー姉さんも陶芸家が良いって言っててちょっと気まずかったよね、私たちも」
頬をポリポリと掻いたオリヴァー王子は、困ったような表情で手元のメモに記入する手を止めた。
「…彼らからのアプローチを好意的に感じていたにも関わらず、全員何故か海に飛び込んでしまったのか…」
「本当に、皆さんどうしちゃったのかしら……」
うんうんと頷く彼女達に嘘をついている様子はみられない。
「それはそうと、キョウヤ君!」
「は、はい?」
突然話し掛けられて声が上擦る。7人姉妹は全員彼の方を向いていた。
「結婚についてはどう考えているのかしら?」
あまりにも予想外の問いに、しばらく目をパチクリさせる。そして、彼女達から集まる熱視線に、ジワジワと嫌な汗が滲み出てくる。
「女には家庭に入って欲しい、とか、子供は欲しい、とか…ああ!妻の両親と同居は大丈夫かとか…」
「え、ええ?ちょっ…そういうのは考えた事ないっていうか…まだ考えてないというか……」
「こんな時代だもの、しっかりと将来に関する具体的な自分の考えを持っておくのはとても大切よ?そうね…どんな人がお好みなのかしら?私達の中で言うと…」
命の危険に準ずるものを感じた京哉は、咄嗟にオリヴァー王子の方に視線を移す。苦笑いを浮かべていた彼は、腕時計を確認する素振りを見せながら手を挙げた。
「済まないが、お開きにさせてくれるかな。17時にはこの部屋を明け渡さないといけないんだ」
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周囲を山々に囲まれた片側一車線の道路を進む一台の大型バイク。奥多摩の自然豊かな土地の一角に、彼女の…
ガードレールの切れ目から道路を脱し、背の高い雑草に行手を阻まれながら、バイクは森の奥へと進んでいく。
「よーし、着いたよ。大丈夫?茅沙紀チャン」
フルフェイスのヘルメットを外すと、緊張した面持ちで瞬きを繰り返す茅沙紀がふぅ…と息を吐く。
「は、はい…なんとか…」
梓の助けを借り、タンデムシートから降りた茅沙紀は目の前に広がる煉瓦造りの洋風な屋敷に圧倒されていた。
「大きい……梓さんのお家ですか?」
「いやいや、ココは別荘みたいなモンかな。あの馬鹿弟子が日本に戻ってきた時にヴァイオリンを叩き込んだ場所」
転がっていた錆だらけの草刈り鎌を拾い上げ、雑草をザクザク切りながら進む梓の後ろに続く。
「もう長い事使ってないからねぇー…今日は一日中掃除になっちゃうかも」
玄関の手前まで辿り着くと、ライダースーツのポケットから鍵を取り出し、錆だらけの鍵穴に突き刺す。案の定鍵は回らず、ガチャガチャとやっているうちにバキッと不穏な音が響いた。梓はそっと鍵を引き抜くが、やはり中で折れてしまったようだ。
「まー、古いしね、仕方ないな」
そう言うと、取手を両手で掴み壁面を片足で踏み付けてドアを思い切り引っ張り始めた。すると、先程も見せ付けられた怪力によって、メリメリ音を立てながらドアがこじ開けられていく。
「こ、これは…良いんですか?」
「ん?良いの良いの!周りにはクマぐらいしか住んでないし」
クマ!?と繰り返す茅沙紀は、どんどん先に進んでしまう梓の後を必死に追いかけた。
室内は埃こそ被っているものの、それ程荒れてはいない。リビングには譜面台が2つ並び、アップライトのピアノが据えられていた。
「へぇ……ヴァイオリンを叩き込んだってことは、住み込みか何かでやられてたんですか?」
「そう。色々あって12歳のアイツを日本の孤児院からオーストリアに送り出したんだけどさ……医者になって帰って来た所で私がヴァイオリニストとしてしごいてやった訳」
次々と聞かされる初耳の事実に目を丸くする茅沙紀。どう見ても目の前の女は30代手前ぐらいにしか見えない。14年前の話をしているようだが、麗慈はどう見ても成人している。彼が子供の時を知っている彼女は一体いくつなのだろうか…。
「さて…掃除始めますか!せめて寝るところぐらいは今日中に綺麗にしておかなくちゃね」
梓は窓という窓を開け放ち、部屋の中に陽光が差し込む。新鮮な森の風が肺に心地良い。
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仰げば満天の星。
潮風に吹かれながらナイトプールでに浮かぶ人々の様子をつまらなそうに眺めていたシェリーは、大きな欠伸をしながら麗慈の方を仰いだ。
「キョウヤ遅いね?」
「今、王子の尾行しながらこっちに向かってるらしい」
ふーん…と返したシェリーは、プールサイドで優雅にクラシックを楽しむ若者達に目をやった。
「ここにいる人間は私達とは別の世界に生きてるみたいだね」
かつて自分を買い付けた人間達も、同じように豪勢な暮らしをしていた。廃ビルや空き店舗に住み着くような人間の生活なんて考えた事無いのだろう。
「金持ちには金持ちなりの苦労があんだろ。なんちゃら家の名に恥じないようにーとか…」
「たくさん勉強したり?」
「だろうな。自由が無かったり、あっても常に誰かに見張られてたり…」
そういうもんかねぇ…、と年寄りじみた反応をするシェリー。そこに、ようやく京哉が合流する。
「何か掴めたか?」
「掴んだどころか、こっちが色々掴まれそうになった…」
心なしかやつれている様子に見える彼はプールサイドを歩くオリヴァー王子の方を目だけで追った。
結局、7人のクラリネット奏者からは亡霊の正体に繋がりそうな情報は得られなかった。王子の方もアテが外れてしまったといった様子で落胆していた。
「お前が話を聞いた老夫婦からの情報だと、あの7人と接触した人間は狙われるって感じだったよな?」
「あぁ…次も同じ手口なら、幸福の鐘から飛び降りるよう誘われるはずだ」
王子の宿泊する部屋の情報は依頼人より共有されている。客室フロアの出口付近で見張り、出歩くようなら後を追う。
「シェリーはちゃんと客室で鍵かけて寝てろよ。アイツにまた会いたくねーだろ?」
アイツ、と言われて瞬時に椙浦の顔が思い浮かぶ。顔をクシャリと歪ませたシェリーは、激しく首を縦に振った。
一応約束をしてしまった為か、オリヴァー王子はオーケストラの夜の演奏を聴きに1階フロアへと向かっていた。その後を間隔を開けて追跡する。
既に演奏会は始まっており、昼とは違うセットリストで優雅なクラシックが館内の至る所に響き渡っていた。
人混みが既に形成されていた為、三人はホールの端の方で演奏を聞く。
「キョウヤ、フランス人のじいちゃん、ばぁちゃん…あそこにいる」
丁度、京哉達の立っている場所とはオーケストラを挟んで180度反対側に、昼間の老夫婦が立っていた。
「メサイア聴きたいって言ってたもんな……ん?」
この船旅の楽しみにしていたというヘンデルのメサイアが奏でられていると言うのに、何故か彼等の表情は険しい。そして、その視線はオーケストラではなく何故か京哉達の方に向けられているように感じた。
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もう一度目を凝らすが、彼等の前を数人が通り過ぎる間に何処かに姿を消してしまったようだ。京哉はシェリーと顔を見合わせる。
「…忠告聞かなかったから、怒ってるんだ……」
「嘘……なんか御免なさい…」
もう姿の見えない二人にそっと謝罪する京哉だったが、数秒経ってから首を傾げる。
「何で僕が彼女達に話しかけたの知ってんだ?」
あの時、ホールにはオリヴァー王子と自分しかいなかった事を確認している。
「じゃあ、気のせいじゃない?結構離れてたし、そもそも人違いかもよ」
メサイアはまだ終わっていない。そうだ、途中でこの場を離れるなど考えられない。京哉はそう自分に言い聞かせるようにして、見張りの任務に集中する。
「溟海の亡霊?」
「はい。アダンさんですよね?亡霊に誘われながら生還したという噂の…」
突然話しかけられたアダンという初老の男は、またその話か…といった雰囲気でオリヴァー王子に向き直る。
「お話聞かせていただけますか?その日の夜、何があったのか…」
アダンは顎髭を弄りながら少し考え込む。
「もしかして、謎を解いた人には…っていうやつ狙ってるクチですか?」
「はは…それもそうなんですけどね。私は20年以上この船のファンですから、貸し切る事が出来たとすればとても名誉な事です。でも…それ以上に大好きなこの船でこれ以上人死にが出て欲しくないんですよ」
真剣な表情でそう答えたオリヴァー王子の姿を見て、男はニコリと笑った。
「ええ、わかりました。私にわかる範囲の事は全てお話しましょう」
オリヴァーが宿泊している一等客室エリアからラウンジに上がるための通路付近を麗慈が見張る。腕時計に視線を落とすと、そろそろ皆が寝静まる午前2時。
「まだ動きは無いな」
襟の内側に話し掛けて数秒待てば、彼の耳に嵌め込まれたイヤホンからノイズ混じりの返答が聞こえてくる。
「こっちも異常なーし。亡霊とやらもそんな都合良く出てきてくれる訳じゃなさそうだな」
屋外を見張っていた京哉は、プールのある展望デッキから幸福の鐘の方向を眺めていた。
潮風にあたって髪が軋む。夜の海風はひんやりとしており、タキシードを着ていてもうっすら寒さを感じる程。
波が船に打ち付ける音に耳を傾けながら、引き続き周囲を警戒し続ける。
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昼間の賑やかさが嘘のように、静寂が耳に纏わりつく。そして、一歩…また一歩と背後に歩み寄る何者かの気配もまた夜の静けさの中に溶け込んでいた。
月光に反射した金属の煌めきを合図に、京哉は身を翻して上弦からの一振りを回避した。
彼に音もなく近付いたのは、黒い目出し帽を被った人影。その直後、別方向からもう一度斬撃が襲い、相手が複数である事がわかる。
身長差のある二人組は京哉と間合いを取りながら再び武器を構えた。各々の両手に握られていたのは、刃渡30センチはあろうかという大振りの鉈。
「殺意すごいな…あんたら」
フルートはまだ背負っているジュラルミンケースの中。この状況で取り出す余裕はおそらく無い。
その予想通りに再び襲い来る4本の斬撃を後方に回避しながら、京哉はビーチサイドに置かれたままの傘を閉じたパラソルを手に取る。
1人が鉈を振るったタイミングで勢い良く傘を開いてプールに落下させ、続いて切り掛かってきた方に間合いを詰め鳩尾に一発食らわす。動きが一瞬止まった瞬間に相手の腕に掴みかかり、関節に力を入れた。
悶絶する相手の手から次第に力が抜け、甲高い音を立てて片方の鉈が床に転がると、掴んでいた腕を肩に担いで背負い投げる。2本目の鉈も虚しく転がり落ち、京哉はそれらを拾い上げて海の方向に投げ捨てた。
「アンタらの狙い、教えてもらおうかな」
そう言った京哉は、床に転がる一人の襟首を掴んでプールサイドの手すりに押さえ付けた。肘を首にめり込ませると、相手の呼吸が詰まり息苦しそうにもがく。
「あんまり頑張んない方が良いよ…僕、拷問下手だから」
そう言いながら腕に力を込めようとした時、プールから上がってきたもう1人が声を上げた。
「…降参だ……」
聞こえてきたのはフランス語。そして、目出し帽を取ると昼間このビーチサイドで会話をした老爺が顔を出した。
「へ?ってことは…」
京哉が腕を離すと、咳き込んだもう1人が目出し帽を取る。やはり、目の前にはあの老婆の顔。
「何でこんな事を……」
彼のその問いに、水をボタボタとプールサイドの床に垂らしながら近づく老爺が答えた。
「それは、ワシらが溟海の亡霊…だからじゃよ」
鉈を床に放り投げた老爺は、疲れ果てたように息を吐いて据え置きのビーチベッドに腰を下ろした。
…………………………………………………………………………………
船員には緘口令が敷かれた。
詳しくを語ってはならない、と。
そして、真実を知ろうとする者が現れたならば、『彼ら』の元へ誘うように、と。
イースト・アラベスク入水式の時から船長を任されていたこの男は、船内で優雅な演奏を続けるオーケストラに所属する1人の娘と恋をした。
そして、共に世界を回り続ける間に結婚をし、8人の子宝に恵まれた。
ダリア、ポピー、ベロニカ、ガーベラ、フリージア、サルビア、リリィと名付けられた娘達は元気に育ち、母親と同じようにクラリネットの奏者になった。
夫婦は、子供達と船乗りの仲間達と共にイースト・アラベスクで幸せな日々を過ごしていた。
しかし、その日は突然訪れた。
年頃になった長女が、ある一人の乗客の男に恋をした、と。そして、男が船を降りる日になり、彼女は男にこう話した。
「ねぇ、結婚式はやっぱり船の中でやらない?船乗りやオーケストラのみんなは私の家族のようなものだもの」
しかし、男は娘を置き去りにして船を降りた。
「君とは結婚できないよ……理由かい?えぇと…そうだ、僕はオーケストラの中で輝いている君が一番美しいと思えるんだ。僕と一緒になってしまっては、船を降りることになるだろう?」
それから三日三晩、娘は泣き続けた。
母親が話を聞けば、実際はたった一度食事を共にしただけだったという。
娘は生まれた時から船の中で育ち、世間を知らない。彼女はとても恋に落ちやすかった。
そして、長女に続き次女、三女と…同じように乗客の男に恋をしては船に置き去りにされた。
その度に泣き濡れ、オーケストラの演奏は台無しになった。
男達は皆、同じ別れの理由を告げていた。
「君はクラリネットを演奏している姿が一番輝いているんだ。船を降りてはいけない」と。
娘達が恋に敗れる度に、彼女達の両親は心を痛めた。いくら彼女達の勘違いが原因とはいえ、何故この子達ばかり悲しまねばならないのか。
それは次第に、彼女達に近付いた男への憎悪へと作り変えられていった。
何故、娘達を裏切ったのか……彼女らを愛するあまり、思考は歪み、やがて実行に移してしまう。
ある時、娘の一人が恋をした男に夫婦が近付き、説得を試みた。
もうこれ以上娘を苦しませないでほしい。結婚してあげてくれないか、と。
しかし、男は「結婚は出来ない」と言う。理由を教えて欲しいとせがむ夫婦に押さえ込まれ、バランスを崩した男は海へと落ちそのまま行方不明となってしまった。
娘が恋した人間を自らの手で奪ってしまった。夫婦は絶望した。
しかし、意外にも娘は悲しまなかった。
夫婦は気が付いた。娘達は船に取り残される事を悲しんでいたのだ、と。
彼は60歳を迎えたその日に船長の任を降りた。船員達から非常に慕われていた彼は、様々な感謝の言葉を受け取った。
「これからもこの船で過ごされるんですよね?」
「ああ…死ぬまでこの船で…これからは、娘達の為に生きていくよ」
夫婦は娘達に近付いた男達を次々と殺し、海に投げ捨てていった。
彼女達を誑かした男共の存在をこの世から消してしまうのだ。
そうすれば、残酷な別れを告げられる前に、娘が泣き濡れる前に、彼女達の心を救うことができる、と。
…………………………………………………………………………………
「私達が殺めた男の数は数え切れません…」
老婆があまり口を動かさない喋り方でそう話すと、続けて老爺が口を開いた。
「正確な数は誰にもわからないんじゃよ。何せ、殺して回っとるワシらですらわからんのだからな」
溟海の亡霊の話として流れている内容は氷山の一角に過ぎないという。
「何千という人間が乗る船にしたって、それだけ人死にが出れば噂話の一つや二つ漏れるだろ?僕は亡霊が鉈で人を切り付けてるなんて話全く聞いてないんだけど」
その時、船内に繋がる入り口が開き、プールの監視人の姿をした男がバケツとモップを持ってやってきた。そして、深夜のプールサイドに立つ三人の影に驚く事なく平然と話しかけて来た。
「あれ?今日は良いんですかい?」
「ああ…これからはもう、良いんだ」
そう老爺が告げると、監視人の男はどこか寂しそうな表情を浮かべて頭を下げた。
それが亡霊にまつわる噂の真実であった。
イースト・アラベスクの元船長夫婦が娘達の為に乗客を殺害した事実は、すぐに船員たちの間に流れた。
しかし、誰も二人を咎めなかった。
それどころか、嘘に嘘を重ねて、真実を捻じ曲げた。
全ては長きに渡ってイースト・アラベスクの航海を支えた男への歪んだ敬意の所為だった。
オーケストラの人間に接近してはいけない。
7人のクラリネット奏者の娘達に恋をしてはならない。
それを破って亡霊に目をつけられた者は、光に誘われて海に落ちる。
全ての真実を知った上で、船員達、オーケストラの人間達はそんな嘘を乗客達の間に流した。
拗らせた親心によって繰り返される身勝手な殺人を隠蔽するために…。
「…結局、あの7人は当事者なのに何も知らないんだな。アンタらのやってることが正しい愛情の向け方とは、全く思えないんだけど」
老夫婦は顔を見合わせて首を縦に振る。
「長女は今年で50になります。でも、まだ誰とも結婚は愚かお付き合いすらしたことがありません…」
「我々夫婦は、娘達を可愛がるばかりに…彼女達の可能性を全て摘み取ってしまったのですから、当然の報いですよ…」
手を繋いだ老夫婦は、ゆっくりと幸福の鐘の方に向かって歩き出した。徐々に昇り出た朝日が彼らの輪郭を縁取り、逆光で伺えない表情を僅かばかり照らす。
「溟海の亡霊の謎を解き明かした者には最高の栄誉を、と申し出たのは他でもない我々夫婦なんです」
娘達の人生を狂わせてしまった彼等は、いつか誰かに暴かれるのを心の片隅で望んでいたのだ。
その鐘を鳴らせば幸福が訪れるとされる場所に立った老夫婦は、最後に一つだけ、と京哉に願い事を託した。
「せめてその時は、彼女達が悲しまないように…」
手すりから乗り出した身体は滑らかに大海原へと吸い込まれていった。その間際、老爺の足が鐘の紐を引っ張り荘厳な鳴鐘が早朝の展望デッキに鳴り響く。
…………………………………………………………………………………
「ああ!昨日はどうも!」
1階のホールに朝の演奏を聴きにやってきたオリヴァー王子に、偶然出会ったというテイで話しかけた京哉。
話したい事がある、と言って彼をメインダイニングに連れ出した。
少し離れた場所に座った麗慈とシェリーは二人の様子を見守っている。
「溟海の亡霊の謎が解けたんなら、もうこの船に乗ってる意味無いんじゃない?」
オレンジジュースをストローでチビチビと飲みながら、目玉焼きの黄身の部分を麗慈の皿に押し付けてそう尋ねるシェリー。
「顧客からの依頼内容は王子の護衛だからな。此処で終わるってのは無理な話だろ…ってか、黄身も食べろよ」
プイッと外方を向いたシェリーは、慌てて周囲を警戒し始める。
「…どうした?」
「アイツ……変なやつが近くにいないか確かめてる…!」
今回ばかりは近くに椙浦の姿は見えず、彼女はホッと胸を撫で下ろした。彼女が船を降りたい一番の理由だろう。
オリヴァー王子と向かい合って座った京哉は、ニコリと笑って話を切り出す。
「溟海の亡霊の謎……わかっちゃったんですよ、僕!」
得意気な表情を見せる京哉に、王子は何やら薄い反応を見せた。
「え…興味ない感じですか、もう?」
「いやいや……何だか申し訳なくて」
彼の口から出た意外な言葉に、京哉は頭上にハテナを浮かべる。
「…犯人は……プールサイドの彼らだったろう?」
プールサイドの彼らで特定できる存在は、京哉が対峙した老夫婦の他にいない。
「……知ってたんですか!?」
「はは…だから、申し訳ないって。昨日、君と彼女達とでお茶をした席…あの時には既に真実に辿り着いていたよ」
教えてくれれば良かったのに…と唇を尖らせた京哉を見て、オリヴァー王子は苦笑を浮かべる。
「彼女達の面前でそんな事言えるかい?…その時は、君はたまたま居合わせた只の青年だったからね。ベラベラと口外する内容でも無いし、少し芝居を打たせてもらったよ」
見かけによらず意外とやり手な雰囲気な王子は、まだ不服そうな表情をしている京哉に続けて述べた。
「亡霊に誘われながらも生還した男に話を聞いたと言っただろ?」
「まぁ、はい」
「……彼が、船長夫婦の最初の子供だったんだ」
謎を解き明かす者が現れたら、もう人を殺めるのは辞めにしよう。老夫婦はそう決めていた。彼らの息子であるアダンは両親の苦悩を知りながらも、イースト・アラベスクの船内で生きる者として、船員たちと同じように嘘をつき続けてきた。
しかし、話を聞きにきたオリヴァー王子が真実を追い求めている理由を知り、全てを明かそうと決意したのだという。
…………………………………………………………………………………
「でも、全部知ってたなら僕が昨日狙われるって知ってたんですよね?酷くないですか?」
もしかしてたら死んでたかも!と大袈裟に言うと、王子は紅茶の香りを嗅ぎながら静かに笑った。
「はは…そりゃあ、彼女達は明らかに君に対して好意を抱いていたからね。でも、
目を丸くした京哉。今回は楽器も外に出してないし、バレるようなことは何一つしていない。
どうして…?と顔に書かれている京哉の表情が可笑しくて暫くの間笑っていた王子。
「母親が私を一人で送り出す人ではない事は息子である自分自身が一番理解しているよ。船旅に出る度に秘密裏に様々なシークレットサービスを雇用していたことは知ってたさ。今回も事前に少し調べていたら、彼女の机から
お茶会の時、京哉の名前を聞いてピンと来たという。
「わざわざ済まないね。こんなオジサンの船旅に付き合わせてしまって……でも、次の上海で船を降りてもらって構わないよ。母親にはもう説得をしておいたから」
「え…でも、大丈夫ですか?お母様ってその過保…すみません…」
「いやいや、その通りさ。恥ずかしい限りだよ。大丈夫、とっておきの話を彼女にはプレゼントしておいたから」
サムズアップする王子の笑顔の意味がわからず、京哉は首を傾げるしかなかった。
「え、バレてたのかよ?」
二人の待つテーブルに移動した京哉は、麗慈の反応にどっと疲れた様子で項垂れる。
「全然子供部屋オジサンなんかじゃなかった…相当やり手だよ、あの人」
「ふーん…じゃあ、お前より先に謎がわかったって事は、望み通り王子が船を貸し切れる訳か」
「そうなるんじゃねーの?」
興味無さげに顔を上げた京哉はシェリーの飲んでいるオレンジジュースのグラスを奪うと、一気に飲み干してしまった。
「あーーっ!自分で取ってこいよ!」
「喉乾いてたんだよ!昨日の夜から何も飲んでねーし!」
ガルガルと犬のように唸っているシェリーの皿から引き続きパンを盗んで食べ始めた京哉は、麗慈に問い掛ける。
「次、上海で降りるとして、どうなるんだ?」
「
麗慈はそう言いながら、皿に乗った2つの目玉焼きの黄身を京哉に押し付ける。
「黄身ぐらい食えよ」
「お前大好きじゃん、ソレ。だからシェリーもくれたんだぞ」
卵の黄身が好きらしい京哉は、皿を受け取ると嬉しそうに口に運んでいた。彼の様子を見て、麗慈がこっそりシェリーに耳打ちする。
「うまくいったな」
「うん、珍しく私達の役に立ったね」
内容こそ聞こえて来ないが、悪口を言われていると確信した京哉は怪訝な表情で二人を睨み付けていた。
…………………………………………………………………………………
溟海の亡霊の謎、オリヴァー王子の護衛任務の二つをクリアした京哉であったが、あと一つ大きな問題を抱えていた。
それは、7姉妹との別れ際である。
老夫婦の遺言では悲しませるな、との事であったが一体どうすれば良いのだろうか。
「いっそのこと…OKしちゃうとか?」
「やめてくれ…僕にも選ぶ権利ぐらいある」
キャリーケースを引き摺りながら客室から出ると、同じく上海で降りる乗客たちの列に入る。
どんよりとした表情で前の乗客に続く京哉は、船内の高速船乗り場に続く階段を降りた先に待ち構えていた7人姉妹とオリヴァー王子を見て顔を引き攣らせた。
「キョウヤ君!ちょっと良いかい?」
笑顔で手招いている人間は依頼人の息子という事もあり無碍にできない。渋々列を抜けた京哉に、麗慈とシェリーも続いた。
「キョウヤ君にも伝えておきたいと思ってね…とっておきの話」
「一体何ですか…?」
できるだけ彼女達と顔を合わせないように、とオリヴァー王子だけを真っ直ぐに見据えて問う。
「実はね、長女のダリアさんとお付き合いさせていただくことになったんだ」
「王子に熱烈アプローチいただいて、ね!」
ゆくゆくは結婚したいと考えており、イースト・アラベスクを貸し切る権利は彼女との挙式披露宴をこの船で行う時に使うのだ、と。まさかの展開に、三人は顔を見合わせて驚く。
「私達もお姉さんと一緒にイギリスで暮らすことにしたのよ!」
不遇な7姉妹全員をゆくゆくはイギリスに招き入れるというのだ。まさかのシンデレラストーリーに、金持ちの道楽というのも捨てたものじゃないと思う京哉達であった。
[7] Barcarola 完
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