第2話 そして現代。

──2025年、東京某所。

夜の都市は、彼のためにだけ脈打っていた。


鬼塚蓮華──人ならざる鬼。

かつて都市伝説だった名は、今では裏社会で“月下の語り鬼”として囁かれる。


年齢は30を超えているはず。

だがその姿は、今なお10代の艶やかな面影を保ち続けていた。

漆黒の髪が夜風に揺れ、瞳は月光のように鋭く冷たい。


理由はひとつ。

彼は【鬼ノ遊戯】によって、あらゆる人間的限界を超えた存在となった。


力も、再生も、思考も──

それらすべてが“鬼”として再構築されていた。


ただし、完璧ではない。

この遊戯は「夜間起動型」──蓮華は、日中には一切動けない。


彼の行動可能時間は、日没から日の出まで。

それゆえ彼は、日が沈む前に必ず充電を完了させ、夜に備える。

まるで吸血鬼のように、都市の裏側で息を潜めていた。


しかし、夜になれば──

鬼塚蓮華は、都市を“選別”する側に立つ。


「女か。今宵は、香りのする語りが欲しいな」


蓮華が指を鳴らすと、背後の影が動いた。

彼の“語り”に選ばれ、肩に触れられた者たち。

彼女たちは皆、鬼の力の一部を宿し、【蓮華直属の大奥】として従属する者たちだった。


名を呼ばれること。語られること。それが彼に触れられる資格であり、呪いでもある。


「蓮華様、今宵も語りの供を……」


一人の女性が夜の帳に姿を現す。

彼女は蓮華に触れられた瞬間、視界が黒く染まり、異形の力に目覚めた過去を持つ。


彼女は蓮華に忠誠を誓うと同時に、語りによって感染する者の監視・管理を担っていた。


──蓮華の語りは、今や感染手段であると同時に、快楽でもあった。


触れ、語り、従わせる。


それが鬼塚蓮華の“夜の習慣”だった。


だが、その夜──

“逃亡者”の噂が、都市に再びささやかれ始める。


蓮華は眉をひそめ、月を見上げる。


「懐かしい名が揺れ始めたな……氷室鷹芽、か。あの語り損ねた男が……まだ息をしていたとは」


その口元には、かすかな笑み。


──都市は再び、語りの夜へと沈んでいく。

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