獅子と猫
ヤマ
獅子と猫
その町のボランティア団体には、二人のリーダーがいた。
一人は、
角刈りに太い眉、汚れた作業着を身に着け、口を開けば下品な冗談や皮肉が飛び出し、時折、夜の街で酒と女に溺れる姿も目撃された。
だが、彼は誰よりも早く現場に立ち、ゴミを拾い、処理場と交渉し、自腹で資材や協力してくれた人への報酬も出す。
捨てられたペットの保護や、不法投棄の監視カメラ設置にも尽力した。
口では何を言おうと、彼の行動はすべて「結果」を伴っていた。
もう一人は、
涼やかな目元に整ったスーツ姿。
口調は丁寧で、話すたびにSNSには「素敵なお言葉」と称賛が並んだ。
彼は「心の清掃が先」と掲げ、ゴミ袋は持たず、スピーチばかりしていた。
だが、町のゴミは減らず、改善案は出すが、他者に行動するよう語りかけるのみ。
それでも報道は、彼を「クリーンなリーダー」と持ち上げた。
ある日、川沿いに不法投棄された廃家電が原因で、子供が怪我をした。
それを黙って見過ごせなかった獅子堂は、夜中に一人でクレーンを借り、廃棄物を撤去した。
翌朝、作業中の写真が、彼を追っていた記者によって撮られ、SNSにアップされた。
その日のニュースにて。
「獅子堂氏、夜間に無許可作業か? モラル問われる行為」
「猫山氏、『子供たちを想う清き心を』と声明」
ネットの掲示板には、「あんな輩に町を任せるな」「子供に悪影響だ」などと罵詈雑言が並んだ。
事務所でそれを読んだ猫山は、冷たい笑みを浮かべて呟いた。
「勝つのは、いつも『正しく見える奴』なんですよ」
一方、獅子堂は、その夜も一人で河川敷を掃除していた。
黙々と。
淡々と。
誰も見ていない場所で、町は少しずつ綺麗になっていった。
やがて、町のとある小道は、「猫山通り」と呼ばれるようになる。
ある日、その通りにある町内会の掲示板で、小さな張り紙が見つかった。
クレヨンで書かれたと思われるその文字は、辛うじて、こう読むことができた。
「きれいにしてくれてありがとう サトル」
その文字の下で――
泥だらけの服と大きな手の人物が、川のそばで、にっこり笑っていた。
獅子と猫 ヤマ @ymhr0926
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます