めたにんち

有馬千年

第1話

「次の方、どうぞ」


 診察室に、見慣れた顔が入って来る。

五茂いつもさんですね。いつもご苦労さま。最近、調子はどうですか?」

「見ての、通りですよ」

「と言うと?」

「すごぶる良くない」

 ため息が聞こえた。納得してはいけないのだが、思わず納得を深めてしまう。

 五茂さんは、いつもこのようにして顔色も調子も優れない状態で来る。

 もしかしたら病院に来る日は殊更ことさら、緊張と心的疲労から症状を悪化させているのかもしれない。元気な日もあるのかもしれない。

 それでも毎週、病院に来て懇々と窮状を語る彼は少なくとも全快とは言えないし、こういった人々を治すのが心療内科医である私の仕事だ。

「毎週こうして来てるのに、ちっとも改善しない。あの薬、本当に効いてるのか?」

「投薬治療は長期間かけてじっくり行なっていくものですから。焦らず、ゆっくり直していきましょうね」

「そうは言っても…飲み始める前と何も変わらないし…」

「一ヶ月、二ヶ月と続けることで効果が出始めるものなんです」

「わかりました…。心配なので来週また、来てもいいですか?」

「もちろんです。引き続き、いつもの薬出しておきますね。お大事に」

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