あのとき、さよならをくれたあなたへ
@ast7536
第1章 新しい扉と、まだ開かぬ扉
7月ももうすぐ終わるロサンゼルスは、日差しがまぶしく感じる。
あれだけ運転が怖かったのに、今では毎日車を走らせている。
遅い車にイラッとする自分に、ふと苦笑いした。
オフィスの扉を開けるたび、「新しい人生が始まっている」と思う。
ここでの暮らしは、自分で選び取ったものだ。わたしは自由で、周りの人にも恵まれている。
忙しい毎日の中で、「もう大丈夫かもしれない」と思うこともある。
でも、ときどき心の奥が、ふいに静かに揺れる。
あの時間を、思い出にするには、まだ心のどこかが揺れている。
だからこそ、ちゃんと向き合って、胸にしまいたい。
今日は、少しだけ過去に立ち返ってみようと思う。
出会ったのは、アメリカでの暮らしにようやく慣れてきた頃。
12歳年下の彼は、あどけない笑顔の奥に、驚くほど深い優しさを持っていた。
ときに無邪気で危なっかしくて、まるで少年のようだった。
けれど、不思議と人の感情には敏く、私が言葉にできない気持ちも、そっとすくい上げてくれる人だった。
感情の揺れにそっと寄り添いながら、涙の意味まで理解しようとしてくれた。
その優しさは、大人のふりをした誰よりもずっと、まっすぐで、誠実だった。
けれど、未来の選択を前にして、私たちは手を離した。
年齢差、国籍、経済的な現実――すぐには埋められないものもあった。
それでも、あのとき私は、確かに誰かを深く愛していた。
その事実だけは、これからも変わらない。
——これは、わたしと彼の物語。
いま、こうして新しい道を歩きながらも、
あの時間が、静かに、でも力強く、背中を押してくれる。
もう一度ちゃんと向き合って、きちんと手放すために。
そして、自分の足で、前に進むために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます