黒い部屋
奇奇
前編
玄関のドアが開いた。
「お邪魔します」
村上樹里が言った。
佐藤零二が振り返って
「どうぞー」
と言った。
樹里は今までの事を思い出した。
同じ学年の樹里と零二は、初めは高校の図書室で出会った。零二から樹里に声をかけたことがきっかけで、二人は徐々に仲良くなっていった。
デートの帰り道に、零二が
「今度、家に来ないか?」
と言った。
「うん!行きたい!」
樹里は、明るく答えた。
零二の家
零二の部屋で、二人は雑談して盛り上がっていた。気が付けば、数時間が過ぎていた。
「あっそろそろ帰らなきゃ」
樹里は、携帯を見てそう呟いた。
「泊まってきなよ」
「えっ」
樹里は、驚く。
「今日は、お父さんもお母さんも家に居ないんだ」
零二は、樹里の目をまっすぐ見た。
樹里は、零二と目が合ったまま
「分かった。泊まる!」
と笑顔で言った。
夜
樹里は、風呂で気持ちよさそうに鼻歌を歌う。
数分後、樹里は風呂場から出て二階へ上がった。
ドタッ
零二の部屋の向かい側の、ドアの閉まった部屋から音がした。
樹里は気になりその部屋の前まで近づく。
「どうしたの?」
背後から零二の声がした。
樹里は、ビクッとなって零二を見た。
「なんか、この部屋から音がしたみたい」
樹里が言うと、零二はドアの方にいきドアノブをまわして開けた。
「ほら」
零二が振り返って言った。
「えっ」
樹里は、目の前の状況に困惑した。開いたその部屋は、真っ黒だったのだ。そこに部屋はなくて、大きな穴があいているみたいだ。樹里は暗闇に吸い込まれそうな恐怖を感じた。樹里は、後退り零二の部屋に入ると床に座り込んだ。零二も部屋に入ってきて
「あの部屋は、あまり近づかない方がいい。僕も家族もそうしてる」
と言った。
「あの部屋は、どうしてあんなに暗いの?」
樹里は、怯えた声で言った。
「さあな。それは分からないんだ。前は普通の部屋だったんだ。それがいつしかあんな姿に」
零二が俯いて言った。
数時間後
二人は、寝る準備をした。樹里は、零二の部屋の床に布団を敷いて寝ることにした。零二は隣のベッドで。
真夜中
零二の部屋で樹里は目が覚めた。視界に黒い人影が部屋の隅で立っているのが見えた。樹里の体は固まった。
金縛り?
黒い人影はこちらを向いてる。樹里は恐怖を感じて、目を閉じた。
夢であって!
と樹里はそう願った。
だけど、目を開けても人影はずっとそこに立っている。
お願い!消えて!
樹里は力強く目を閉じた。それからすぐに、金縛りはなくなり目を開けると黒い人影は消えていた。
いない……
樹里は、その後もずっと部屋の隅を見つめていた。
次の日
樹里は、零二と一緒に通学路を歩いていた。
「どうした?疲れてるみたいだね」
隣を歩いてる零二が、樹里の顔を覗き込む。
「うん。夜あんまり寝れなかったんだ」
樹里が言う。
零二が申し訳なさそうに
「あっごめん。あんな不気味な部屋を見せてしまって」
樹里は暗い部屋を思い出す。
「いや、違うの」
本当の事を話すべきか……
樹里は迷う。
「その……」
樹里が口を開いた。零二には言っておくことにした。たとえ、信じてもらえなくても。
「私、夜に金縛りにあったんだ。それで、黒い人影が零二の部屋の隅に立ってたの」
零二は、困惑した顔をした。
それは、そうだよな……
樹里は思った。
「僕は、寝てたから気づかなかった……」
樹里は恥ずかしくなり
「いや、良いの!私の気のせいだから」
そう言うと、零二より歩く速度を速めた。
学校
昼休みになり、樹里は零二とお弁当を一緒に食べる約束をしていた。樹里と零二の教室は違うので集合場所を屋上と決めていた。屋上にはいくつか座れるとこがある。樹里は、お弁当を持って教室を出た。廊下は、昼休みで外に出てきた生徒達で賑わっていた。樹里は、そのまま廊下を歩いて階段を上がった。
えっ
樹里は、どこからか視線を感じた。同時にとてつもない寒気で全身が震えた。
「嘘でしょ……」
樹里は咄嗟に言葉に出た。
階段の上に黒い人影が立っていたのだ。樹里は階段を降りて逃げた。咄嗟に図書室を思い浮かべた。後ろを振り返ると、黒い人影がこっちに向かって降りてきてる。樹里は、必死に逃げた。そして、図書室に辿り着いた。中は誰もいなかった。樹里は本棚の陰に隠れた。しばらくして、図書室の扉が開く音がした。樹里は、心では焦っていたが慎重に音を出さないように、扉の方を覗いた。
本当に最悪……
樹里はその気持ちを声に出さずに耐えた。
黒い人影が図書室に入ってきた。樹里の方にだんだん近づいてくる。樹里は、本棚の陰に隠れながら人影との距離を離していく。樹里は、背中に何か当たるのを感じた。
行き止まり?
樹里がそう思って振り返ると、そこには黒い人影が立っていた。樹里は黒い人影に当たったのだ。樹里は、お弁当を落としてその場に倒れた。樹里は動けなかった。樹里は頭の中で、零二の姿を見ていた。今まで二人で過ごしてきた事を思い出していた。
もう、私はここで終わる……
樹里がそう思った時だった。
「零二には気を付けて」
黒い人影から、声がした。
「えっ」
樹里は、黒い人影が徐々に消えていくのを見ていた。
樹里が、最初に黒い人影を見た夜
零二は起きていて、黒い人影に冷たい視線を向けていた。
続く
黒い部屋 奇奇 @Otarun
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