第9話 告解室

重たい扉を押し開けると、狭くて、暗い部屋があった。見た瞬間、思わずため息がこぼれそうになる。室内には小さなランプが一つあるだけ。薄気味悪い木の壁と床をぼんやり照らしていて、奥には仕切りのついた座席があった。


(これが“告解室”かあ……)


さっさと終わってくれるよう願いながら椅子に腰を下ろすと、木のきしむ音がやけに響いた。

目の前の格子窓の向こうには人の気配がある。きっと大司教だ。


(……あーあ、こんなところでお説教されるなんて最悪……)


あまりにも静かで、落ち着かない気持ちでいると、大司教の声が静かに響いた。


「……ジネット。私は説教するつもりで、あなたを呼んだのではありません」

その響きは、思ったよりもずいぶん柔らかかった。


「……違うのですか?」

どういうことか分かりかねて、ひとまず疑問が口をついた。


「まあ、あなたの態度など最初から期待していませんので」


(こ、この男、本当に腹が立つ……)


「それよりも。トマ司祭と、農村を回るそうですね。……彼には、気をつけなさい」


「……え?」

何を言われているのか、よく分からなかった。


いつも優しいトマ司祭と、いつも冷たいラファエル大司教。


(だけど……)


「あなたにも、もう分かったでしょう。この国の聖女は“形だけ”。……けれど、あなたの力が広まれば、トマ司祭たち“保守派”は得をします。教会の権威を高め、国王陛下を“牽制する”手段を得られるのですから」


「陛下を……牽制?」


(一体、どういうこと……?)


「ええ、かつてのように、国政に対する教会の発言力を強めたい、と願う者は少なくありません。あなたが“本物”かどうかなど関係ないのですよ。……本物らしく見えれば、それでいいのですから」


張り詰めた声が、静かな部屋に響き渡った。


「そんなのおかしい……! 教会なのに、神様を信じてないってことですか?」


格子窓の向こうから、ふっと息がもれた。


「さあ、どうでしょうか。……そのこたえは、あなた自身が各地を巡って、確かめてきてください。くれぐれも、望まぬ方向に利用されることだけはないように」


私は、ずっと混乱しっぱなしだった。


優しいと思っていたトマ司祭の姿は嘘だったのか?冷たいと思っていたラファエル大司教は、何が目的で私にこんなことを言うのか?


(どちらにせよ、この巡行で確かめなくては)


私は、気持ちを引き締めて、豊穣祈願の旅への決意を固めた。

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