第4話 中原図書館の掟に、ぼくは試される

12時15分になった。

ぼくは図書館の机に本を置いて席を確保してから、近くのうどん屋で軽く昼食を済ませた。


食後、図書館の下階にあるショッピング街を軽く見て回る。

スターバックスは満席。ユニクロもレジに人が長蛇の列。有隣堂、ハンズBe、カルディ、アパレル系…。見て歩いているうちに、気づけば図書館を離席してから45分が経っていた。


あっ、と思って慌ててエレベーターに乗り、閲覧室のフロアへ戻る。

ぼくの席は──空いていた。いや、正確にはまだ荷物はある。けれど、机の上に白い紙が一枚、目立つように置かれていた。


A4用紙を半分に切ったくらいのサイズ。印刷された注意書きだった。


────────

〈図書館からのお願い〉

・これは職員巡回時に「離席」が確認された机に置いています。

・次回の巡回時にも離席していた場合には、長期間の離席とみなし、他の利用者のために、「荷物を撤去」し、席を空けることがあります

・撤去したお荷物は、職員カウンターでお預かりしています

────────


ぼくは、静かに紙をたたみ、ノートの間に挟んだ。ついに掟に触れてしまった、という感じがした。


でも、この紙は1回目の警告だ。

次にまた巡回が来てぼくが席を離れていたら、荷物は撤去されるということになる。


ところで、何分離席したら「撤去」が発動されるのか?


この注意書きに、その時間は書かれていなかった。

30分か、1時間か。はっきりしない。明文化されていない。まさに図書館の「暗黙の掟」だ。


──ここで、強い疑問が湧いてきた。どうして時間を明確にしない? 暗黙な掟を「見える化」してやろう。


実際に調べてみることにしたのである。


13時30分。席に戻ってから30分経過。ぼくは、白い〈お願いの紙〉が置かれている座席番号をメモすることにした。


対象は、6階の全閲覧席。すべて歩いて確認する。方法は簡単だ。30分おきにフロアを一周し、紙のある席番号をノートに記録するだけ。もちろん目立たぬよう静かに立ち歩き、歩くルートは少しずつ変える。


初回──13時30分時点。紙のある席は、合計10席。


いずれも、荷物が置かれたまま、着席者の気配はない。伏せたノート、開いたままの辞書、書架から取り出した何冊かの本。静まり返った空間に、白い紙だけが目立っていた。


14時、2回目の記録。紙のある席は7席に減った。3席の利用者は戻って来ていた。


14時30分、3回目。残る紙は6席。


15時、4回目。ついに、5席だけが、紙を残したまま取り残されていた。


2時間が経過しても、そこには戻ってこなかった。

荷物はそのまま、白い紙もそのまま。時間の止まった島と化している。

それでも──荷物は撤去されていない。


ぼくは時計を見てから、視線をゆっくりと職員カウンターの方向へ向けた。


……なぜ、撤去しないんだろう? ここで、じわりと苛立ちにも似た違和感がこみ上げてきた。これは、掟ではなく、ただの脅しなのではないか?


そう思った時には、すでに立ち上がっていた。

記録したノートを片手に持ち、歩きながら紙のあった席を視線で確認しつつ、ぼくは職員カウンターへと向かっていた。


次話、図書館職員との真剣勝負に挑むことになる──

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