第1話 兄やんとヨーヨー
押し入れの闇が無限に広がり、カーテンがオバケに見えたあの頃、
僕と兄やんは、同じ時間の中で生きていた。
ひとりっ子の僕にとって、右隣の家に住む兄やんは本当の兄貴だった。
彼の言葉は羅針盤であり、笑顔や、その仕草全てが僕の憧れであり、ヒーローだった。
兄やんは何でもできた。
いや、できなかったことも、彼の純粋さで「できた」ことに変えた。
ある日、ゴミ捨て場のブロック塀で、兄やんはコカコーラのロゴが入った重いヨーヨーを手に持っていた。
「坊、これで世界を変えられるぜ!」
兄やんがヨーヨーを振り回すと、まるで魔法みたいに糸が唸った。
でも、すぐにヨーヨーは電柱に絡まって、だらんと垂れ下がった。
「ちぇ、失敗!」と笑う兄やん。
僕が「世界、変わらなかったね」と言うと、彼は目を細めて、
「変わったさ。坊が笑っただろ?」
その言葉に、僕はキャハハと笑った。
でも、ふと気づくと、商店街のおじさんが遠くから兄やんを冷ややかな目で見ていた。
「兄やん、なんであの人、変な顔してるの?」
僕の問いに、兄やんは「大人なんて、急いでるだけさ」とだけ言って、ヨーヨーをまた振り回した。
その笑顔の奥に、なんか変な影みたいなものが見えた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます