第58話 艪《ro》。
「残念ですが、この船の設計図は未完成です。しかし、東の海の造船技術を応用すれば、弱点を克服できるかもしれません」
「なんでえ、その東の海の造船技術ってのは?」
「
「ろ? なんだそれ??」
「実物を見ていただけるのが一番でしょう。一週間ほど時間をいただけますか?」
・
・
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一週間後、俺は丸太から艪を削り出すと、船尾に取り付けた船をトマス師匠やノルデンに見せる。
「これが艪です」
「ゲオルク殿、見たところ、オールが一本、船尾に取り付けられているようにしか見えないが……」
「うん? よくみりゃ、オールよりもずいぶんと水面にひたっているな。そんなもんで本当に船が進むのかい?」
「ん!」
艪を見ていぶかるノルデンとトマス師匠(あとパパン)を前にして、ルルが頬をふくらます。
「む……おまえらは伝説の魔道武具師のゲオルクおじさまの事が信用ならないの?」
「まあ、疑われてもしょうがないさ。俺も初めて見たときは驚いたからな。論より証拠、実際に動かした方が早い。さ、みんな船に乗ってくれ」
最初に俺が船に乗り、トマス師匠とノルデン、そしてパパンを抱っこしたルルがつづく。俺は艪の取っ手を掴んで港を出航した。
俺は船に横向きに立つと、水中で斜めに水を切るように艪を前に押し、今度は艪の傾きを反対にして後ろに引く。
キィ……キィ……
船は、櫓と船尾がこすれる音を上げながら、するすると前身をはじめた。
「ん!」
「風が気持ちいいの」
「おお、こりゃすごい! ウソみたいにすいすいと進んでいくな!!」
「ゲオルクさん、見たところ、さほど力を入れていないようだが?」
「ああ、艪の押し引きに多少の慣れが必要だが、オールのように、力任せにこぐ必要は無い」
俺は入海の付近を10分ほど航海したのち、ゆっくりと旋回をしてから港に戻った。
「どうです? トマス師匠?」
「ううぬ。角度のついた板っ切れを弧を描くように操作することで、水を効率よくかき混ぜて推進力にしてるって訳か。東の海の連中は、面白いことを考えやがる」
さすがは師匠だ。わずかな時間で艪の仕組みを完全に理解するとは。
「だが……この複雑な動きを蒸気の力で再現するのは難しいんじゃないか?」
「いえ。問題ありません。この艪のしくみを師匠もすでに、実用化していますよね?」
「なんだと……!?」
俺の言葉に、トマス師匠は腕組みをするとしばし沈黙をする。
「ん! ん!!」
ヒマを持てあましたのだろう。パパンは石のように動かなくなったトマス師の匠髭をぐるぐるとねじりあげると、限界までひねったところで「パッ」と手放した。
「ん♪ ん♬」
パパンは、くるくると回転をする髭をみて大喜びだ。その様子をみたトマス師匠が、ガッテンと拳を打つ。
「そうか! 判ったぞ!! 地下水のくみ上げに使っている原理か!」
「そうです。艪の構造を模した板を水中で断続的に回転させることが出来れば、理論上は十分な推進力を確保できるはずです」
「なるほどなるほど! 断続的に回転させるとなると、それなりの強度が必要になるな!」
「はい。おそらく鋼鉄である必要があるかと。加工が難しいので長らく机上の空論でしたが、この地にある豊富な石炭を使った魔晄炉なら、鉄を一度液体にしてから形成をすることも可能です」
「がっはっは! こいつは面白くなってきやがったぜ!!」
こうして俺とトマス師匠は、海の荒波をモノともしない、蒸気船の開発にとりかかることになったのだ。
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