第2話 騎士志望の少女と魔道武具師。

 俺は重い足取りで鉄クズ屋へと向かう。


 もったいないが生きるためだ。背に腹は変えられない。とはいえ、鉄クズとして売り払うとなれば、売値が桁二つ近く変わってくる。

 そしてなにより、愛情を注ぎ込んで作った武器が、本来の役目を全うしないまま、炉の中に投げ込まれドロドロに溶かされてしまうのが忍びない。


「お願いだよ。ボクに剣を教えてよ!!」

「ダメだ! ダメだ!!」

「ボク、おっきくなったら騎士団に入りたいんだ。だからさボクに剣を教えてよ! お願い!!」


 ん? なんだなんだ?? 

 10歳ほどの少女が、剣道場の大男に詰め寄っている。赤いショートヘアーを、サイドに結んだ短いおさげが、まるで炎のように小さく揺れている。


「だから、何度もいってるだろう。剣すら持っていないのに、道場の敷居をまだがせる訳にはいかないんだよ」

「剣なら、すぐに買うよ! 今、家の手伝いをしてお金を貯めているんだ! ホラ、もうこんなに!!」


 赤毛の少女は目をキラキラさせながら、両手いっぱいの銅貨を差し出す。しかし、


「笑わせるな、これっぽちの金で剣なんか買えるわけないだろう!」


 バシッ!

 ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ!


 大男が赤毛の少女の手を払い、銅貨が周囲にばら撒かれる。


「ああ……」


 赤毛の少女は大急ぎで、散らばった銅貨をかき集めている。その瞳には涙がにじんでいた。

 いてもたっても居られなくなった俺は、大男に口を出す。


「なあ、この娘を道場に通わせてやってくれないか?」

「は? なんだお前?? ダメだダメだ。自分の剣を持たない者は、入門を許さない決まりだ!!」

「剣ならここにある」


 俺は、背中に背負ったリュックを降ろすと、バスタードソードを取り出す。


「おじょうちゃん、そのお金で、剣を買ってくれないか?」

「ええ?? いいの? お金全然足らないよ??」

「問題ない。どうせ鉄クズ屋に売り払おうとしていたところだ」

「じゃあ買う! その剣をボクにちょうだい!!」


 赤毛の少女は、目をキラキラと輝かせて拾った銅貨を俺に差し出す。


「いいだろう。商談成立だ」

「やったあ! ありがとう!!」


 赤毛の少女は、俺から剣を受け取る。

 バスタードソードを受け取った少女は、ふらつきつつもなんとか両腕で支えると、意気揚々と剣道場の大男に見せつける。


「これで文句ないでしょ!」

「しょうがない……明日から稽古をつけてやるよ」

「やったあ!!」


 大男は、大きなため息をつくと、俺に向き直る。


「まったく、物好きなヤツだな。あんなはした金で売るなんて、鉄グズ屋に売ったほうが、まだ金になるだろう?」

「せっかく丹精込めて造った武器なんだ。武器として使ってもらうほうがありがたい」

「……なるほどな。おいガキ!!」


 大男が剣を持ってはしゃいでる少女を呼びつける。


「このにいちゃんに礼を言いな。その剣は本来でなら、そんなはした金で買えるような代物じゃない!」

「ええ? そうなの?? ボク、もっとお金出したほうがいい??」


 心配そうに見つめてくる少女に、俺は静かに首をふる。


「構わないさ。大事につかってくれればそれでいい」

「わかった!! 絶対大事にする。ありがとうおじちゃん!!」


 お、おじちゃん?? これでもまだ20代なんだけれどな……。


「おじちゃん、名前は?」

「ゲオルク・バウエルだ。そして俺はまだ20代だ」

「ありがとう、ゲオルクおじちゃん!! ボクはフィオナ! この剣って名前あるの?」

「名前? そういえば着けてなかったな」

「じゃあ、ボクがつけていい? うーんと……そーだなぁ、ヴォルグ!! 『魔剣ヴォルグ』なんてどう? カッコいいと思わない??」

「勝手にしろ」

「わかった! ほんとうにありがとう。ボク、大きくなったらゲオルクおじちゃんのお嫁さんになる!!」

「ははは、これは嬉しいな。期待しないで待っておくよ。あと俺はまだ20代だ」

「うん! おじちゃん! 絶対に、絶対に約束だよ!!」

「わかった。わかった。いずれまたこの街に立ち寄るから、大人になってもお前の気が変わっていなかったらな」

「うん♪」


 俺はキラキラと目を輝かせるフィオナの頭をポンポンと叩くと、宿屋に向かうことにした。


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