第23話

 『血の呪い』対策がないものか、俺は宿のベッドの上で考えている。魔族は人族のように急激きゅうげき継続けいぞくしたレベルアップはのぞめないらしい。『神の祝福』と呼ばれるレベルアップがないというのが理由だ。


 神と魔族が相反する存在というのは何となく分かる。生まれながらにして強大な魔力や豊富なスキルを持つ魔族だから、人族と同じようにレベルアップしたら、今頃人族は滅んでいたかもしれない。ナイラさんは俺をなぐさめるように言っていた。


 勿論もちろん、魔族も経験を積めば新しいスキルを手に入れるあるし、成長もする。レベルアップするスピードが人族よりゆっくりなだけだ。魔族は長寿ちょうじゅだから、一生を通してみたら人族と差がないのかもしれない。


 ただ、俺の場合、『血の呪い』があるため、激しい戦いでないと経験値が積めない。そして、魔力操作スキルがないため魔力が漏れて魔物がよりつきにくい。八方塞がりである。


 魔王の島でヌマグマに遭遇した時、明らかに強いはずのヌマグマが逃げて行った事があった。あれも魔力漏れが理由だったのかもしれない。


 解決策は意外な所にあった。魔力操作のスキル自体は自分で経験を積んで手に入れるしかない。スキル鑑定で分かるのは現時点での所持スキルで、スキル適性とか才能とかが分かる訳じゃないらしい。問題は、スキルを手に入れるには血を浴びる程の激しい戦いが必要だということだ。受け継いだ力のせいで経験値のタネとなる魔物が寄りつかないなら、魔力を抑えるか漏れなくすれば良い。


 ジョリが集めた情報だと魔力を抑える魔導具は少し珍しい部類には入るものの、探せば見つかる可能性は高いらしい。翌日、道具屋や、魔法アクセサリーの店を片っぱしから当たった。見つかったのは、きつね面の形をした魔導具だ。視界がせまくなるが、漏れ出る魔力は半減するらしい。


 早速、郊外の森林地帯で魔物を探した。気合いを入れて探索たんさくしたのだが、以前と変わらず魔物が逃げてゆくような……。結果はかんばしくなかった。


 ナイラさんを訪ねて冒険者ギルドに行く。ナイラさんは滅多に人前に出ない人らしいが、魔王の小僧が来たというと、会ってくれた。きつね面の魔導具を見せて効果が無かったと言うとナイラさんはきょとんとした顔をした。


「言い方が悪かったのぅ……。この魔導具が制御するのは、漏れ出る魔力の量だね。お前さんの場合、漏れ出る魔力の量が問題ではない。質が問題なのだ。魔王に由来する魔力がの。明らかに上級魔族の魔力だ。魔物ってのは所詮、力が至上主義の連中だ。当然、敏感になるのよ、強者のニオイに。マヌケな魔物なら襲ってくるかもしれんがね。」


 俺は黙り込んでしまった。そう言えば、ジョリも似たような事言ってたっけ。でも、どうしようもないではないか。うつむく俺にナイラさんが、救いの手を差し伸べてくれた。

 

「アタシの従姉妹が腕の良い魔導具師でね。紹介してやるから行っといで。」


――城塞都市グレイスガルド 下町――


 古びた街並みに埋もれるようにしてその店はあった。路地の奥、看板もないから行こうとしなければ、店があるとは誰も気づかないだろう。店の扉はギィときしむ音を立てて開いた。薄暗い店の奥に向かって声をかける。


「ごめんください。ナイラさんの紹介できました〜。」


 奥から出てきたのはナイラさんだった。固まる俺の顔を見て、


「あぁ、私はモイラ、ナイラの従姉妹さ。あの子は達者かね。」


 よく見たらナイラさんのトレードマークの三つ編みではない。編み込みという髪型だ。顔はそっくりだけど。俺は紹介状を渡し、今までの経緯を説明して、魔力を漏れなくする魔導具を作れないか相談した。


「アンタの要望を満たすものは作れるよ。」


 あっさりとモイラさんは答えてくれた。俺は幾らかかるかを聴いた。


 「大金貨100枚ってとこかね。」


 ジョリが(法外ですよ。伝説の武器を買う訳じゃあるまいし……。)と耳打ちしてくる。


「アンタにとってどれだけ価値があるか、だろう?」


モイラさんには聞こえるらしい。ニヤリと笑うとモイラさんが俺に言ってきた。


「ただし、アンタが自分で足りない材料を用意できて、私の条件を飲んでくれたら特別価格にしてあげるよ?」


隣のジョリが緊張したのが分かった。


「材料と条件を教えて貰えますか。」


「材料はミスリル鋼、あとは、無属性魔法石だね。これが準備できたら大金貨20枚で作ろう。」


「条件と言うのは?」


「どんな物を作るか説明した方が早いね。まず、ミスリル製の腕輪を腕につけて貰う。魔力漏れを抑えるって考えが間違ってたのさ。魔力は無属性魔法石に流して溜める。無属性魔法石はどんな魔力も吸収して吐き出す事ができるからね。身体の一部となった腕輪で外には漏れ出ないからアンタは下手すりゃ人族と思われるよ。魔力の溜まった魔石は私に納めて貰う。それが条件さ。」


発想の転換だ。外に漏らさず別の器に溜める。ナイラさんの言う通り、モイラさんは優れた魔導具師なのだろう。


「アッシが考えるに、回収した魔石でアンタは魔物避けの魔導具でも作って貴族にでも売りつけるんでしょう。」


ジョリの言葉にモイラが頷き、

 

「あら、頭の回るコボルトもいたもんだ。貴族連中の狩りや旅のお供になると思ってね。」


と、感心してる。


「アッシならカタイ買い手を斡旋できます。モイラさん、料金は大金貨10枚にして貰えませんか。無属性魔法石10個迄の利益はモイラさんの総取り。使い続ければそれ以上の数が売れるでしょう。その時は20%の手数料を頂きます。溜まった魔法石のやり取りはノトク商会が引き受けます。表立って交渉したりする労力を考えると悪くない話のはずです。」


「……面白い従者を持ってるんだねぇ、流石は魔王の血族だ。ナイラが入れ込む訳だ。」


「彼、ジョリっていいます。凄いでしょ。俺にとって、彼はこの世界の案内人なんですよ。」


 ところが、血の契約書を交わす時、ジョリは自分が署名することに恐縮して、遠慮していた。主人の俺と並べて名前を書くのが畏れ多いのだそうだ。モイラさんは、


「アンタが言い出したんだから、アンタの名前も無けりゃこの契約は成り立たんよ!」


とジョリに言い切った。ジョリは俺に拝むような顔をしていたが、俺もモイラさんと同意見だ。3人の名前が並んだ契約書を俺達は交わした。


「ところで、ミスリル鋼と無属性魔法石はどこで手に入るんですか?」


「魔王の島の鉱山が閉鎖されて半年程経つかね。供給不足で価格が高騰して手が出ないんだよ。そこでだ。」


 モイラさんが引き出しの上にあるチラシを見せてくれた。


――グレイスガルド闘技場 夏季闘技会 参加者募集――


 個人戦……

 タッグ戦……

 チーム戦……


 タッグ戦の優勝賞品にミスリル鋼石と無属性魔法石10個賞金大金貨10枚と書いてあるのを見て、俺とジョリはゴクリ……と喉を鳴らした。


あとがき


次回、ミスリル鉱石と無属性魔法石奪取の闘いがはじまります!

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