第10話
さらば、スローライフ
身体が熱い。アスマの攻撃は俺を生死の境まで追い込んだ。ヘソから下が潰れた感覚があった。自分でも終わりなんだと思った。痛みも激しかったが、何故か今はピンピンしている。俺はイシュタールの近くに
田上夫妻は
人外2人はまたもや互いの
アスマは少し
この世界は
加えてアスマは回復薬は常に多めに持っている。余分に持つのは、祖父からの教えだった。イシュタールの魔力切れが先か、自分の体力に限界が来るのが先か。
イシュタールも自分がジリ
イシュタールは、最悪、この場ごとエル=クリジアの輪でゲートへ運ぶのもありかと考えはじめていた。しかし、それはアスマの動きを封じないとむずかしい。
パトカーの音が近づいている。時期に
見覚えのある軽トラが走ってきた。荷台には犬が3頭。狩猟犬で月の輪熊を相手にしている奴等だ。降りてきた2人は猟銃を
パトカー3台といかついマイクロバスがサイレンを鳴らしながら到着した。こんなにもパトカーを心待ちにしたことはないだろう、なんて
イシュタールが警察官とやり合っている時、アスマが動いた。イシュタールを鉈で殴りつけ、くの字に折れたところに左脚で強烈な蹴りを見舞った。パトカーに激突したイシュタールは動かなくなった。
アスマは母屋の横にいた俺に目をつけた。猟師会の人達の銃が火を吹いたが、アスマは止まらなかった。
俺は田上夫妻を巻き込まないように、離れの方に逃れようとした。見逃すはずもなく、アスマは鉈を俺に叩きつけた。また、離れまで飛ばされる。離れの壁には大きな穴が開いた。俺はスエットの中の子猫に声をかけた。無事のようだ。
ノロノロと立ち上がった時、俺が見たのは、アスマの背後から跳躍して身を投げるようにして剣を突き刺すイシュタールの姿だった。アスマの背中から突き通った切先が月の光を反射してギラリと光った。
「イシュタール、回復に使わぬのか、死ぬぞ。」
「アスマよ、最期の魔力は貴様にくれてやるわ。」
イシュタールの剣からアスマの体内に魔力が注入される。何かエネルギーが剣に集まってゆくのが俺にも分かった。
アスマの身体が崩壊を始めた。
イシュタールが何かをコチラに投げた。アスマも何かをコチラに投げた。
イシュタールの投げたそれは、エル=クリジアの輪だった。最期の魔力はイシュタールの嘘だった。本当の最期の魔力は輪に込めた。輪から黒い球体が現れてイシュタールの魔力を喰らい尽くすと、球体は俺と子猫だけでなく、離れと
崩れゆくアスマがニヤリ、と笑い、投げたのは鉈だった。一直線にそれは俺の胸とスウェットの中にいる子猫を貫いた。
「イシュタール、これで、おあいこ、だ…。」
ゆっくりと球体は浮かび上がる。大きな風船に閉じ込められたようだった。俺たちを見上げて士郎さんが必死の顔で追いかけている。瑠璃子さんも
――セーレ=ノクシス 西の園――
俺は胸に鉈が突き刺さったまま大の字に倒れている。
(鉈、抜けないなぁ…、かわいそうに守れなかった…)頭の中ではそんな想いがぐるぐると回っている。目の前が何だか暗い…。ほっぺたを熱いものがつたって流れるのが分かった。
髪の長い
「ネクロスよ、このワタリ…」
「
ぬいぐるみが
「バルナ、お前もそう思うか。」
髪の長い男はそう言うと俺の胸から鉈を抜いた。
「ネクロス、紫だ。やはり、混じっておる。」
男がほんの少しだけ興奮しているように俺は思った。男が自ら手首を切り、子猫と俺に血を降りかけた。ホント、おかしな夢だな…。俺の意識は再び沈んでいった。
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