発生事案9

 日時:20××年9月9日 午後6時03分

 場所:【詳細は伏す】県九十九市県立九十九高等学校の視聴覚室

 実行者:高等学校に在籍する風紀委員長

 対象:高等学校に勤務する清掃員

 動機:対象の勤務態度は怠惰たいだで、校内で喫煙していたためにしばしば風紀委員長と口論になっていた。なぜか学校側も黙認していたため、憤慨ふんがいした風紀委員長が自ら天罰をくだそうとした。


 儀式:勤務中の対象を盗み撮りしたが、隠しカメラの存在に気づかれていたらしくカメラ目線で煙草をくわえたまま笑っていた。儀式に則って、素行不良の生徒から没収したバタフライナイフで薬指を切り、対象がかけている丸眼鏡を斜めに寸断した。右の肩口から両断し、指の一本に至るまで不均衡になるように切断した。親指に中指と薬指を合わせて輪を描き、「バン・ピン・ラウクー」と唱えて上向きにした手のひらに息を吹きかけた。


 結果:後述こうじゅつ



【インタビュー対象者:清掃員改め特殊激甚災害対策班の班員】


 インタビュアー:インタビューを開始します。特殊激甚災害対策班で活躍されるH氏にお目にかかれるとは光栄です。それとも【詳細は伏す】とお呼びした方がいいでしょうか。

 班員:【煙草を咥えている】呼び方などどうでもいい。お前はいつまでこんなくだらんことを続けるつもりだ。

 インタビュアー:はて、下らないこととは。

 班員:自作自演でおまじないを広めるとは、随分ずいぶんと人間臭いことをするじゃないか。ええ、九重曜子さんよ。


【インタビュー中断】

 

 九重曜子:失礼しました。インタビューを再開します。どうして私のことを?

 班員:人間をめ過ぎだ。いくら過去の経歴を辿っても詳細がつかめず、あの小学校に勤務した記録だけが残されていた。退職後の足取りも途絶えている。それこそ狐につままれたようにな。

 九重曜子:なるほど。それで高校に潜入して、正義感の強い風紀委員長に嫌われる芝居をしてまで私を呼び出したわけですね。

 班員:何のことだ。

 九重曜子:え?

 班員:俺はただ、学校の清掃員として普段通りに振る舞えと言われただけだ。たまたま阿呆あほうが釣られただけに過ぎん。

 九重曜子:……ふむ、適任だったというわけですね。

 班員:なあ、お前はなぜ自分を呪わせた。もう儀式そのものは十分に広まっていたはずだ。何か意味があったのか。

 九重曜子:いえ、単なる私の嗜好しこうですよ。

 班員:何?

 九重曜子:出席番号33番のあの子の人間関係は把握していました。気が強く、友達は少ない。気弱な弟を思い通りに従わせて、きっと儀式に巻きこむだろうとね。

 班員:【煙草を指に挟む】

 九重曜子:彼の指を通じて伝わってくるのですよ。弟さんが、少しずつ横暴な姉に対して憎悪をつのらせているのがね。その感情が熟成じゅくせいされていくたびに、えも知れぬ味わいをもたらすのです。せっかくなら、美味しく頂くのが礼儀というものでしょう?

 班員:だからわざわざ手間暇かけて、人間を八つ裂きにして回っているのか。

 九重曜子:八つ裂きなどと! 言葉をつつしんでください。

 班員:【沈黙】

 九重曜子:ああ、偶数など口にするだけでけがらわしい。それに比べて奇数の何と美しいことでしょうか。算数の授業をやって改めて思い知りました。2などでは割り切れない、奇数数列のれとする整然さ。私の尻尾が九本であったことに誇りさえ感じます。

 班員:……わからんな。

 九重曜子:失礼、取り乱しました。

 班員:最後に聞かせろ。特殊激甚災害の事例報告書を偽造した理由は何だ。この書類は防災省の、ごく一部の人間しか目を通さない。儀式を広めるにはてきさないはずだ。

 九重曜子:ああ、そのことですか。今まさに読んで下さる方々におまじないのやり方が伝われば良いのですよ。

 班員:どういう意味だ。

 九重曜子:あなたにわかる必要はありません。きっと、他の皆さまには伝わっていることと思いますので。

【親指に中指と薬指の先端を合わせて、その隙間から此方こちらを覗きこむ】

 九重曜子:ねえ?


【インタビュー終了】



 補足:この直後、インタビュー対象者が豹変ひょうへんして暴行を加えてきたため、鎮圧をこころみた。

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