発生事案5

 日時:20××年5月4日 午後8時01分

 場所:【詳細は伏す】社の社宅

 実行者:独身の会社員

 対象:上司である課長

 動機:会社員は日常的に対象からパワーハラスメントを受けていた。


 儀式:インターネットで相手を呪う儀式を検索し、クォンさまのおまじないを実行することにした。会社の広報写真から対象のものを入手。手順に則った後、包丁で対象の右目、左肩、右のまたの付け根を傷つけた。その工程で感情がたかぶったのか、何度も対象の写真を切り刻み、原型がなくなった。


 結果:儀式に用いた卓袱ちゃぶだいは砕けた。その翌朝、対象の妻が寝室で血塗れの肉塊にくかいを発見した。遺留いりゅうぶつの眼鏡から、儀式の対象となった課長の亡骸なきがらだと推定される。


 補足:儀式の成功を知った会社員は、退職届を出した後に山中で首を吊った。



【インタビュー対象者:会社員】


 インタビュアー:インタビューを開始します。お加減はいかがですか。

 会社員:【沈黙】

 インタビュアー:あなたはクォンさまのおまじないを実行し、見事に復讐を果たされた。

 会社員:【小首を傾げている】

 インタビュアー:それなのに、どうしてあなたは自殺をしたのですか?

 会社員:【木の枝に結んだロープが軋んでいる】

 インタビュアー:答えづらいようなので、こちらで推測させて頂きます。あなたは普段から高圧的な上司を呪うことで鬱憤うっぷんを晴らそうとした。ところが、本当に亡くなるとは考えていなかった。

 会社員:【顔が鬱血うっけつし、赤黒い舌が飛び出している】

 インタビュアー:その罪の意識にえかねて、自ら死を選んだ。人を呪わば穴二つ、ということわざがありますが、言い得て妙ですね。

 会社員:【蠅がたかる音。飛び出した眼球の隙間から太った蛆虫が這い出てくる】

 インタビュアー:ところで、私はお腹が空きました。


【インタビュアー終了】



 補足:山中で発見された会社員の遺体は、何らかの獣に食い荒らされていた。奇妙なことに五体が非対称になる形で欠損していたという。

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