発生事案1

 日時:20××年7月2日 午後5時04分

 場所:【詳細は伏す】県那須町立那須小学校の6年3組の教室

 実行者:小学六年生の女子児童二名、小学四年生の男子児童(※女子児童Aと男子児童は姉弟きょうだいである)

 対象:6年3組の担任教師である九重ここのえ曜子ようこ

 動機:児童に対する過度なスキンシップ(指を舐めるなど)、算数の時間における特定の数への異常なこだわりによる授業の遅れなど。実行者の女子児童からは特に嫌われていた。


 儀式:クォンさまのおまじないは放課後の教室で行なわれた。遠足の集合写真で対象だけが写った部分を切り抜いた際、誤って顔の半分が破れた。嫌がらせの意味をこめてか、その写真を教壇の上に置いた。図工の時間で使った彫刻刀を用い、全員が薬指を切って対象の切り抜き写真に傷を入れた。女子児童Aは左腕を切り落とし、女子児童Bは残った右耳をいだ。男子児童は姉である女子児童Aにかされる形で、右手の人差し指の第一関節を切り取った。指で輪を作り、「バン・ピン・ラウクー」と唱えて上向きにした手のひらに息を吹きかけた。


 結果:教壇は割れず、対象の身に変化はなかった。儀式の直後、突然黒板が倒れた。教壇に引っかかって児童たちは押し潰されずに済んだが、男子児童が親指を挟んで根元から切断された。彼は病院に搬送はんそうされ、教室にあるはずの指は発見されなかった。



【インタビュー対象者:男子児童】


 インタビュアー:インタビューを開始します。【詳細は伏す】君、指はまだ痛みますか?

 男子児童:【包帯が巻かれた手を押さえながら】うん……クォンさまのおまじないなんてやらなければよかった。

 インタビュアー:どうして躊躇ちゅうちょしたのですか?

 男子児童:え?

 インタビュアー:クォンさまのおまじないは、参加者全員が対象を恨んでいなければ成功しません。君は対象を呪い殺すことに迷いがあった。だから呪詛返しが起こったのです。

 男子児童:じゅそ……返し? お姉さん、何の話をしてるの。

 インタビュアー:つまり、対象を呪おうとする気持ちが弱く、呪いが跳ね返ってきたのですよ。本気でおまじないを成功させようとは思わなかった君にね。

 男子児童:そんな……僕はただ、お姉ちゃんに無理やり参加させられただけなのに。

 インタビュアー:君にはおまじないに参加する意思はなかった?

 男子児童:【顔を伏せ、低い声になる】お姉ちゃんはいつもそうなんだ。年上だからって偉そうで、身勝手に僕を振り回して……それなのに、どうして僕が指をなくさないといけないんだ。その、九重先生なんてろくに顔も知らないのに。

 インタビュアー:だから、本気で呪おうとは思わなかったと。

 男子児童:だって……指を舐めたり、数に変なこだわりがあるらしくて気持ち悪いとは思ったけど。

 インタビュアー:【沈黙】

 男子児童:呪われるほどのことじゃないと思ったんだ。

 インタビュアー:君は、優しい子ですね。

 男子児童:【片手を押さえて俯く】

 インタビュアー:最後に一つだけ。

 男子児童:え……。

 インタビュアー:君はもう少し、肉をつけた方が良い。


【インタビュー終了】



 補足:後日、九重曜子は体調不良を理由に教職をした。

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