第35話 果たし状
「おはよう」
「燎! おはよー!」
「おはよう、日向くん」
中間テストも終わり、いつも通りの日常が返ってくる。10月も半ば、そろそろ半袖で過ごす必要もなくなってきた頃だ。
秋が好きだ。少しずつ下がっていく気温が、年の瀬の足音を感じさせてくれる。今年一年いい年だったな。俺らももう高校生活半分か。意外と早い。――でも、こういう何の変哲もない日が、やっぱり一番大切なんだろうな。
――ガサッ。
ん。
秋に思いを馳せて少し早い今年の総括をしていたら、机の中に違和感を感じた。
手触りで確認する。形はおそらく長方形、材質は紙。大きさはそこまでではない。さっと取り出してカバンにしまう。
「……燎? 今なんかした?」
「い、いやぁ? 何にも?」
「……怪しい」
「いやいやいや! 今日も涼音がかわいいなって、ちょっと動揺しただけだ!」
「そ、そっか……へへっ」
「「「イチャイチャすんな! バカップル!」」」
「そういうんじゃねーよ!」
日常で変わったことといえば、これだ。クラス、いや下手したら学年全体で完全にバカップル扱い。変だと思いませんか。一応、人目を避けていちゃついているつもりなんですが。
まあ、そんなことは今はいい。とりあえず次の休み時間に中身を確認しよう。日常を享受していたら、早くもそれを奪い去られる予感に辟易しながら、一限を過ごした。
***
「よしっ」
「よし、じゃねえが」
「まあまあ、落ち着けって」
ここはいつも昼食をとっている体育館横のベンチ。休み時間になった瞬間、辰也を連れてここまで来た。こいつがいたらなんとかなるだろ。知らんけど。
「これ」
「なんだぁ~? これ?」
「朝、机に入ってた」
「で、とりあえず俺を連れてきて、アドバイスを求めようってことか」
「そゆこと」
「なるほど」
話の早い友人で助かる。辰也は勉強しないだけで地頭はいいから、本当に頼りになる。
「じゃ、開けるわ」
「おう……、なんかこっちが緊張してきたな」
隣でドギマギしている辰也は放っておいて、ご丁寧に包まれた封筒を開け、中身を取り出す。出てきたのは予想通り、ただの白い紙だった。内容を読み上げる。
『日向燎先輩へ
これは果たし状です!
今日の放課後、体育館横のベンチで
夏原先輩を賭けて勝負してください!
「……」
「……」
「興味深いな……」
そう言って、紙をくしゃくしゃにして自販機横のごみ箱へ投げようとする。流れるような所作。だが、反応した辰也にガシッと腕をつかまれた。
「待て待て、待てぃ!」
「なんだよ! 止めんなって!」
「気持ちはわかるが落ち着け!」
「落ち着けるか! なんだよ『賭けて』って! 涼音はモノじゃねぇんだぞ!」
「キレるとこ、そこかよ!」
こいつ、力強いな! 一向に放してくれる気がしない。仕方なく諦めて、言い分を聞く。
「で? 止めた理由は?」
「後輩の名前に覚えがあったから、思い出すため」
「……なるほどな」
「あ~、思い出した、思い出した! こいつ一年の姫男子だ!」
「ひ、姫男子?」
なんだその絶妙にうれしくなさそうな異名。果たし状を出された身ながら、少し同情しそうになる。
「そうそう。なんでも一年の中で、女子を含めても一番可愛いんだとか」
「そんなやつが、こんな男気あふれることを?」
「らしいな……」
め、めんどくせぇ~。絶対ろくなことにならん。
「どうする?」
「どうするって何が?」
「果たし状、受けるのかって」
「あ~、どうしようかな~」
「俺としては無視でもいいと思うが」
少し考える。辰也の言った通り、無視でもいい。うーん……。
「……行ってくるわ」
「ほう? 決め手は?」
「一つは、長引かせるとだるそうだから。教室に来られたりしたら面倒だし、何より涼音に会わせたくない」
「……確かにな。もう一つは?」
「もう一つは――」
そう言って、腰かけていたベンチから立ち上がる。沸々と湧いてくる感情を抑え、極めて冷静に。
「――人の彼女を懸けようとしたんだ、脳天かち割ってやる」
そっちが本命だろと、頭を抱える辰也を置いて、そのまま教室へと歩き出した。
――――――――――――――――――――――
ここまでご覧いただきありがとうございます!
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