【学び】私たちの学びを妨害している障壁は何か?
晋子(しんこ)@思想家・哲学者
人は優れている者からなら学べるが、劣っている者からは学びたくない!
人は、失敗者の言葉を軽んじる。
「この人はうまくいかなかったんだ」「失敗しているということは、何かが間違っていたんだろう」——そうやって人は失敗者の言葉を価値のないものとして処理し、耳を傾けようとしない。だが、それはとても愚かなことだ。実は人は、失敗者の言葉によってこそ、より深く賢くなることができるのだから。
失敗とは何か。うまくいかなかったこと、目的に到達できなかったこと、世間の基準で見て劣っているとされる結果。それを経験した者の言葉は、言い換えれば「危険地帯に入ってしまった人の叫び」である。「ここに落とし穴があった」「ここは通ってはいけない道だった」と、自分の身をもって証明してくれているのだ。こんなに信頼できる情報源があるだろうか?失敗者の言葉を聞けば、同じ落とし穴に落ちずに済む。そこを避けて進める。つまり、遠回りせず、傷つかず、賢く前に進めるのだ。
にもかかわらず、人は失敗者を馬鹿にする。負け犬、惨めな人、無能な人としてラベリングしてしまう。なぜか?それは、自分より下だと感じている相手から学ぶことが、プライド的に許せないからだ。「なんで自分より格下のやつから学ばなきゃいけないんだ」と心のどこかで思っている。これはとても根深い人間の心理である。「自分より優れている者からなら学べるが、劣っている者からは学びたくない」。この傲慢さが、学びの最大の障壁になる。
多くの人は、社長の言葉、成功者の名言、年収何億という肩書を持つ人の発言を「金言」としてありがたがる。ベストセラーの自己啓発書を読んで、自分もその通りにやってみようとする。「○○がやった成功法則」——それを信じて疑わない。だが、ここに大きな盲点がある。成功には「運」が大きく関与しているという事実だ。
例えば、ある社長が「私はこれをやったから成功した」と語るとする。しかし、それと全く同じことをして失敗した人もこの世には無数にいる。にもかかわらず、その失敗者たちの声は拾われない。書籍にもならないし、SNSで拡散されることもない。つまり、成功者の言葉だけが可視化され、失敗者の言葉は埋もれていく。結果として、人の知識は「成功例」だけに偏っていく。
これは極めて危険だ。なぜなら、成功例とは「再現性がない可能性があるサンプル」に過ぎないからだ。一方、失敗には「再現性がある」。100人が同じことをして失敗していたら、それは再現性の高い失敗であり、誰にとっても危険信号となる。だからこそ、失敗例こそが本来はより信頼すべき情報なのだ。
さらに言えば、成功者が語る言葉には、しばしば「結果バイアス」が含まれている。うまくいったあとで、自分の行動すべてに意味を見出そうとし、後付けで物語を構築してしまう。だが、その物語は美化され、事実とは異なっている場合もある。一方、失敗者の言葉には、そんな虚飾はない。なぜなら「負けた者」に余計な虚勢を張る意味などないからだ。そこには、むき出しの真実がある。自分が何をして、どうしてダメだったのか。その痛みとともに、嘘偽りなく語られる言葉は、時に成功者の言葉よりもずっと信頼できる。
では、なぜ人はそれでも失敗者を見下してしまうのか。それは「自分は失敗者にはならない」と思いたいからだ。失敗者の話に共感すると、「自分もいつかこうなるかもしれない」という現実を突きつけられる。それが怖い。だから心理的防衛として、失敗者を笑う。「あんなのは自分とは違う」「自分はもっと賢いから大丈夫」——そう思い込むことで、心の平穏を保とうとする。だが、その瞬間から、失敗への準備は止まる。失敗に対する免疫を放棄してしまっている。
本当に賢くなるためには、失敗者の声に耳を傾けなければならない。それができるかどうかは、「謙虚さ」と「素直さ」があるかどうかにかかっている。肩書でも、年収でも、外見でもなく、ただ「この人が経験したこと」に耳を澄ます。たとえ自分より年下でも、地位が低くても、うまくいっていなくても、その経験に価値があると見なす。そんな態度を持てる人間が、真に賢い人なのだ。
誰もが成功者になれるわけではない。だが、失敗者の声から学ぶことで、少なくとも愚か者にはならずに済む。そして皮肉なことに、そういう学びを積み重ねた人こそ、最終的には「失敗しにくい人=成功しやすい人」になる。だから、成功者の言葉だけを追いかけるのはもうやめよう。失敗した人の痛みのこもった言葉を、大切にしよう。そこには、誰よりも確かな「人生の地図」があるのだから。
【学び】私たちの学びを妨害している障壁は何か? 晋子(しんこ)@思想家・哲学者 @shinko
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