コンビニバイトで出会ったのが超人気アイドルだった件。

瑠璃

第1話 コンビニバイトで出会ったのは

「いらっしゃいませー!……って何だ。浩太こうたかよ」


 俺こと志田しだ夏渡なつとは、バイト中に来た友人である水島みずしま浩太こうたの顔を見て、あからさまに嫌そうな表情を彼に向ける。


「おいおい。中学からの親友に向かって、そんな態度は無いだろ」

「だからって、家からも近くもないコンビニに来るなよ」

「俺の直感がここがいいと言っていた」

「どんな直感だよ……」


 俺のあきれた目線に目もくれず、浩太はポテチとコーラを手際よく手に取って、セルフレジのほうに向かった。俺は商品の陳列を行っているため、浩太の会計の姿は少ししか見えなかったが、見た感じは「サービスしてくれよ~」的な感じは無さそうだな。


「……あ、金足りね。夏渡、金貸して」

「お前は何でいつもそうなんだ……」


 俺は浩太に呆れながらも、分かってたと言わんばかりにポケットから50円玉を取り出して投げ渡す。


「さんきゅ」

「次からはちゃんと全額払えよ。……って、これ言ったの何回目だよ」

「まあまあ。はじめて会った時も言っただろ?お前は俺がとことん財布として利用してやるって」

「……まあ、言われたが……」


 浩太の言葉に思わず詰まって、その隙に浩太は「ほんじゃなー」と退店時のBGMとともに去って行ってしまった。

 茶化すにも程があるだろ……。行き所のない溜息を吐いていると、後ろから「志田君」と声を掛けられる。

 びっくりして振り返ると、そこには小太りした優しそうなおじさんが立っていた。


「て、店長……。急に現れないでくださいよ。びっくりするじゃないですか」

「ははは……。志田君の反応が毎回面白くてね。いじりがいのある人だ」

「くっ……!いつか倍返しにしますからね!」

「へー。楽しみにして待ってるよ」


 そういって店長は、ニコニコしながら外を見る。


「今日も水島君が来たのかい?」

「ええ。まあ……」

「ははは。彼みたいな友人も、君となれば恵まれていると言っていいだろうね」

「……それよりも、俺に何か?」


 俺のその言葉で思い出したのか、「ああ、そうだった」と穏やかな顔で後ろを振り向いた。


「ちょっと待ってね。……篠崎さーん!ちょっとこっちに来てくれるかなー?」


 店長がそう言うと、事務所の方から「はーい!」とかわいらしい声が聞こえ、次の瞬間──。

 ────バンっ!!!!!!!

 大きな音を立てながら事務所の扉を破壊し、にっこにこの笑顔でこちらに向かってくる少女。

 えっ……?ちょっ、え?


「なんですかー?」

「いやね、教育する人なんだけど──」

「いやいやいや、ちょっと待てぃ!」

「「……?」」


 いやいや、なんで二人とも「なんだコイツ」って言いたげな顔してんの?今の、ツッコミどころしかないよ?


「ちょっと!ドアが壊れたんですけど!どうするんですか!?」

「……それで、教育係なんだけどね」

「おおい!」


 なんで話を進めようとするんだよ!


「もー、先輩。そんなに騒いでたら近所迷惑ですよ?」

「あれ?これって俺が場違いのパターンなの?」


 俺の常識が間違っているのだろうか……。

 ……って、ちょっと待て。


「君、どこかで見たことがあるような……」

「おっ?分かります、分かります?」

「うるさい」


 彼女を宥めつつ、俺はジッと容姿を凝視する。

 明るい茶毛の髪に、青みがかった瞳が特徴的な端正な顔立ち。小柄な身体にもかかわらず、とても柔らかそうで出るところもしっかり出ている圧倒的なスタイルの良さ。触れてしまえば傷付いてしまいそうな乳白色の肌は見れば見るほど惹きつけられてしまう。一言で表すのであれば、超完璧美少女である。

 そんな彼女を見たことがあるとするのならどこだろうかと考えていると、ふととあるアイドルの曲が店内に流れ出した。最近流行ってる、最近の若者ならば誰もが知っている曲。これを歌っている少女と、この子。容姿が完全に一致していて……。

 たしか、そのアイドルの名前は──。


篠崎しのさき陽女ひめ……」

「おっ、正解でーす!偉いですね!」


 まさかの国民的アイドルと名高い人気アイドル、篠崎陽女がウチのコンビニに来てしまった。


「うんうん。というわけで、志田君。彼女の教育係、お願いね」

「はああああぁあああああ!?」


 そしてよりによって俺が教育係。


「いやいやいや、もっと他にいるでしょ!そもそも……」

「志田君、頼んだからね?」

「……うす」


 店長の笑顔の圧に負け、俺は委縮して頷くことしかできない。


「ふふっ。よろしくお願いしますね?志田先輩♡」

「……はい。よろしく……」


 眩しいアイドルスマイルに、俺は何かを言う気力が湧かず、涙ながらに篠崎の教育係を引き受けるのだった。

 ははっ……。もう辞めたい……。

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