第6話
無機質な廊下を歩く足音が、やけに響いていた。
空調の音すら聞こえない。
ここは、そういう場所なのだ。
男はポケットに手を突っ込みながら、スーツの男の後ろを歩く。
相変わらず、飄々としていた。
まるで、散歩でもしているかのように。
「ところでさあ。俺の名前、まだ聞いてないんじゃない?」
スーツの男は歩みを止めずに答える。
「履歴には、“白石 流星”とありましたが。偽名ですね?」
「うん、まあ。昔つかってたペンネーム」
「本名を名乗る気は?」
「“白石”でいいよ。今さら誰にも呼ばれてないし」
男──白石は笑う。
その声に、スーツの男が言葉を返すことはなかった。
やがて、金属製の扉の前にたどり着く。
「対異常存在対策部 第一行動班 仮配属ブリーフィング室」
スーツの男が扉を開ける。
中には、既に二人の人物がいた。
ひとりは、妙に覇気のない男だった。
だらしないパーカーに、口元だけ覆ったマスク。
椅子にふんぞり返り、爪をいじっている。
もうひとりは、対照的にピシッとした女性。
軍用のジャケットを身につけ、背筋を真っ直ぐにして立っていた。
目が鋭い。
明らかに“監視者”だ。
スーツの男が言う。
「ここが、君の仮所属チームだ」
白石は、ふたりを順に眺めて口笛を吹いた。
「うわ、ほんとにバラエティ豊かだなあ」
覇気のない男がちらりとこちらを見て、低く呟く。
「……新入りか。チャラそうだな」
「よく言われる」
白石はにっこりと笑った。
監視官の女が、そのやりとりに割って入る。
「ふたりとも黙れ。
ここは遊びの場じゃない。
“異常者”と“それを止める者”──その組み合わせでやってるんだ。
私語は慎め」
彼女の声には、微かな怒気があった。
だが白石は怯えず、むしろ楽しげに言う。
「お姉さんはどっち? 異常者を“止める側”? それとも、“見てるだけ”?」
監視官の目が細くなる。
スーツの男が手帳を開き、淡々と紹介を始める。
「順に説明します。
椅子の男は“天野 彰(あまの あきら)”。
詐欺・脅迫・傷害など前歴多数。
対魔法少女戦闘において、情報収集能力に優れる。
隣の女性は“橘 美月(たちばな みつき)”。
公安から出向。君たちの行動管理と記録が仕事です」
「美月ちゃんね。よろしく~」
白石の軽口に、橘は一瞥をくれただけだった。
天野がぼそっと漏らす。
「……またクセのあるのが来たな」
白石はその言葉に、ややわざとらしく驚いてみせた。
「クセのない奴なんて、こんな部署に来ねーだろ」
そして、不敵に笑う。
「“魔法少女を殺す”なんて仕事、真っ当な人間がやるもんじゃないからさ」
言葉が落ちる。
誰も否定はしなかった。
部屋の空気が、わずかに沈む。
その沈黙の中で、白石だけが笑っていた。
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