酒場での語らい
「ほな。キリキリ吐いてもらうで」
「……早速か」
「せや、そうでもなければこないな個室なんて来るわけないやろ」
「そうか……何から話すか」
二人して手元に金がなく、青年とエルフの少女の世話になる形で街に入り少ししてから別れた後。請け負った依頼の報告をして、そのついでに金も引き出して来たタンナに連れられた先は酒場の二階。
騒ぎ立てる冒険者を筆頭にした連中が騒ぐ広間を下にした上階にある個室。少し長い通路のど真ん中に位置する場所にあり、食事と飲み物を渡すための腕だけが出入りする出入り口が外に繋がる窓側の壁についていることが少し異質な程度。
防音性は抜群と言い切れないが必要最低限はあるようだし、階下の騒ぎも密室性も考慮するとある程度表には出せないことも話して問題はないだろう。
タンナが騒ぐ可能性もあるので多少話す内容は考えなければならないが、隠していることも隠したいこともそんなに多くないので問題はないだろう。
それに、信用を勝ち取るにはそれなりの対価を支払わないといけないからな。
「何から聞きたいんだ?」
「自分の話せる範囲やったら全部って言いたいとこやけどな、まだ酒も入っとらんし軽い内容からで頼むわ。重いのは酒が入ってからや」
「じゃあ……俺の来歴からで良いか。質問があれば聞いてくれ」
「ほな、それで」
全部話していたら夜が明けて、もう一回夜が深まるからある程度飛ばし飛ばしでいいだろう。
都度気になるところがあれば、タンナの方から聞いてくるだろうしその時に答えるとしよう。
***************
「以上が、一応俺の来歴だな。質問がなかったから大雑把に、簡単なことしか話していないが」
そう締め括って、聞いた内容を噛み砕いているタンナを見ながら届けられた酒を流し込む。
食事を生存に必要としていないところからも分かるかもしれんが、飲酒もまた味のする水を飲む以上の価値がある行為ではなかったりする。
理由は幾らかあるが一番は肉体やら精神やらへの異常に対して耐性を手に入れているからだな。これは悪魔関係なく、戦場で毒やら何やらで肉盾を全う出来なくなるのが嫌だったから無理やり耐性を付けた。
その過程で聖女の激昂を受けたのは語る程のことでもない。ちょっと、森が一つ消し飛びかけただけだ。
まぁ、それは置いといて話した来歴だが、本当に簡素であっさりとした内容だけを話した。
第一領域に生まれて、勇者の故郷で魔族に襲われたのを一緒に生き残って、仲間を集めながら魔族を退け続ける旅に出て、魔族を打ち倒した。その後邪神の復活に巻き込まれて、色んな場所を転々としながら邪神の眷属を退け、邪神との戦いに身を投じて、無事に勝利を掴んだ今は目的のために転々としている。
本当にこれだけを話した。その中で巡り合った多くの出会いと別れだとか、美しいものだとか、消さなければならなかったこととか、理解は出来るが納得は出来ないもののこととかは話していない。
必要ないし、相手が素面な状態で話すようなことじゃないからな。あと多分聞いていて良い話ばかりじゃない、少なくとも外面がクソ硬い聖騎士の顔が歪むような話も幾つかはあるからな。
生きた人間を生かしたままバラバラにして芸術作品を作ってた狂人とか。
生きることに絶望してそれを他者に植え付けることで集団無理心中を謀ったカスとか。
戦いこそが希望なのだとか言って都市一つを戦場に作り変えて殺し合い続けてた死に損ないとか。
負け戦なんだから美しく死のうじゃないかとかで人間花火を作り出していたクズとか。
あと定期的に湧いて出て来て俺を狙ってくるクソッタレなコレクター連中とかな。
魔族とか邪神の眷属とかを抜きにしても死んだ方が幾分か世界のためになるような奴ら。こんな連中ばかりではないが、大体がこいつらの同類か模倣犯か類似例だったりするからな。
世界の危機だって言うのに、訳の分からん人間を相手にしてるのには何度も疑問を浮かべたな。疑問に思ったところで何も変わらないから、最後の方は勇者とかは無慈悲に殺すようになったし途中から賢者は街の中に入るのを嫌がり始めたけどな。
それでも戦ったり殺したりしたのは魔族とか邪神の眷属の方が多いのは、どいつもこいつも濃い連中ばっかりだったというか濃いのしかいなかったからだな。
「……突っ込みたいところがあり過ぎて、頭が回らへんわ」
「そうか。酒はいるか?」
「阿呆、この状態で酒入れたらもっと頭回らんようになるわ」
「そうか」
んーーー……やっぱり酒の良し悪しに関しては分からんな。何時何処で飲んでも美味いのかどうか分からんし、どうにも薄い味のする水くらいにしか思えん。
まぁ、食うか飲む以外ないから飲むんだが。
「………おし、取り敢えず全部飲み込んだわ」
「そうか……飲むか?」
「まだええわ。それより聞きたいんやけど、自分勇者パーティの一員やったんか?」
「いや……まぁ、そうなるな」
「おん? なんで否定しようとしたんや?」
「一員と名乗れる程の活躍をしていないと昔は思っていてな……そうやって名乗らないで一員ではないと言っていたら怒られたのを思い出した」
「……難儀な性格をしとるんやな、あんたも」
「性分だからな、これに関しては」
改善しないといけないとは思っているんだがな。
活躍や貢献という意味合いでは俺よりも皆の方が優れているし凄いことをしているし、なによりも俺がいなくても皆ならば世界を救うことくらいなら成し遂げられていただろうからな。
もう聖女と勇者に泣きながら怒られたくはないし、賢者が横に引っ付き続ける生活を送りたくないし、聖騎士が淡々と俺と同じ生活を続けるのを真横で見たくないからな。特に聖騎士、怖いんだよ何を言うまでもなく俺と同じ行動をするからな。
流石に怖くなって勇者に泣きついた。せめて普通の行動ではないというのを表に引っ張り出すように言ってくれって。返って来たのは自業自得だから諦めてだったが。
「まぁ、それはええわ。取り敢えずキリキリ吐いてもらう言うたけど、これだけは先に言わせてもらうわ」
「何だ?」
「アンタらには大いに世話んなった。ありがとう、ホンマに最後まで戦い続けて世界を救うてくれて」
「……それは、あいつらに言って欲しいんだがな」
「自分かてその一員やろ? ウチのようなぱっぱらぱーの一般人が会えるような人らとちゃうからな、色々と終わった後で自分から伝えといてや」
「俺も会えるかは分からんが……約束は出来んが、憶えていれば伝えておこう」
「助かるわ、いつか言わなあかん思うてたんや」
「……そうか」
直接伝えてやるのが一番だとは思うがな。
会えないと言っても聖騎士とか聖女は会いやすいとは思うがな、居場所は分かりやすいし理由も伝えれば会わせてくれるだろうしな。
「よーし! 言いたいことも言ったし、ウチも飲むわ!!」
「……良いのか?」
「ええよ! 考えた結果、これだけ言うたらあとは酒の勢いで適当に聞くんが一番やと思うたからな!!」
「そうか……ほら」
「おおきに!」
………良い飲みっぷりだな。
こういうのを見ると酒場の店主とかもやってみたさが湧いてくる。酒の知識も、買うための伝手も無いし、そもそも店の店主が出来るような器じゃないから叶えられるとは思えないから目指さないが。
「んーー!! 美味い!! 久しぶりのお酒はええなぁ!!」
「そうか……美味いな」
「やろ? 此処はな珍しい個室の用意だけやなくて、こないに料理も酒も美味いんや。ちょっと値が張るのがいたでやけどな」
「………大丈夫なのか?」
「かまへんかまへん!! 金なら有り余っとるしな!!」
「……そうか」
「そうや!!」
まぁ、楽しそうなところに水を差すのも悪いし、この話題は広げなくても良いか。やばそうであれば……まぁ、秘蔵の品でも質に入れればいいだろう。半ば呪いの道具みたいになっている天使の羽根みたいなのをな。
売った後のことは知らん、その時に何とかすればいい。
「うん、美味い!!!」
「そうだな」
「ほな、話して貰うで!! 色々と聞きたいことばっかやしな!!!」
「あぁ、いいぞ。憶えている限りの内容ばかりになるがな」
「かまへん! 全部聞き取るつもりなんてあらへんからな!!」
「そうか。じゃあ、どれを聞きたい?」
「どんなんがあるんや?」
「第二領域の女公爵が隙を見せた話。勇者が幼馴染に喰い散らかされた話。無表情聖騎士が大いに焦りながら恋人を婚約者にした話。聖女と賢者が男装コンテストに出場した結果モテるようになった話。童貞が童貞を捨てようとした結果の大騒動」
「多いな! 全部や全部!!」
「そうか。なら時系列的に……聖女と賢者がモテるようになった話からか」
馬鹿みたいな話だが、紛れもない事実しかない。
一番最初に上げたのは何となく誰かに話しておきたかった、女公爵にバレたらまた何処かしらに手錠と目隠し付きで放り込まれそうだが。
前回は何処に放り込まれたんだったか……あぁ、女公爵の私室だな。布団に放り込まれて香水とか女公爵の匂いを徹底的に染み付けられて、聖女と賢者が荒れ狂って七日七晩俺から離れようとしなくなったんだったか。
「あれは、確か旅の途中で寄った街の話だ……」
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